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レポート&コラム

日本沿岸で行われるビルフィッシュトーナメントレポートと海外の釣行記です。

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コラム:宮城・金華山沖のカジキ釣りについて

文 鈴木雅博

 潮岬を中心とする紀伊半島は、沖縄・与那国島、鹿児島・トカラ列島に次いで3番目に黒潮が安定して接岸する海域であり、また、紀伊半島西部の高水温域、日本アルプスの雪解け水の影響を受ける東部低水温域の2面性を持ち、シーズンが長いという非常に恵まれた自然環境にあります。
 カジキ釣りはもちろんのこと、大半の暖流系の魚は黒潮と沿岸水の境界付近に沿って、回遊しており、黒潮が陸岸付近を流れている場合、本流境界付近と分流により、陸岸2~3海里付近の2ヵ所が好ポイントとなります。事実、例年開催される勝浦ビルフィッシュトーナメントを見ても潮岬沖2~3海里でのヒット、キャッチが大変多く、陸岸より10海里以上離れた場合は、本流境界付近に好ポイントが移動します。
 梅雨時期には、降雨の影響により黒潮本流が南下離岸する傾向にありますが、これ以外の季節は接岸することが多く、7月下旬から9月上旬にかけては陸岸から2~3海里付近での実績が圧倒的に多くなります。以上のことにより、黒潮本流が接岸している場合は2~3海里のコバルトブルーの水域で水温変化のある場所を狙えばヒットの確率が高くなると思います。
 また、潮岬の2~3海里付近は、沖合の水深1000m以上からのかけ上がりで、水深200mの大陸棚ラインを形成しています。このため、湧昇流によるプランクトンの発生が多いことも好ポイントの要因となっています。この大陸棚は紀伊半島の西側では、ほぼ東西方向に形作られ、潮目も東西方向にできやすい傾向にあります。どこでトローリングしたらよいか悩んでいるオーナーの方は、この大陸棚ライン、水深200m~500mに沿って狙ってみてはいかがでしょうか? 

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 1日1回ヒットすればラッキーというのがカジキ釣り。いつ釣れるか分からないのが当たり前の状況では、集中力を持続することは不可能です。早朝ならまだしも、少し早めに取ったランチの後には居眠りも多くなり、運が悪ければカジキが近寄ってきたことさえ気づかずに終わるのが大半ではないでしょうか? しかし、「時合い」を知っていればカジキの視認度が増し、ヒット、フックアップの確率が高くなると思います。
 どこの海域でも、どんな魚を釣っていても、釣れる時間と釣れない時間があることは皆さん経験があると思います。カジキ釣りについても同様で、釣れる確率が高い時間帯とそうでない時間帯があります。この確率の高い時間帯を「時合い」と呼んでいます。時合いは満潮と干潮の潮汐時刻から一定の法則があります。潮の大小により、多少変化しても潮汐時刻の前後それぞれ約90分間をピークに、前後1時間はヒットする確率が大変高くなります。特に干潮後、満潮前の上げ潮時の時合いはヒット確率の高い時間帯となることがわかっています。この時合いにカジキの姿を見たり、無線から「ヒット」コールが連発になったりするケースが多いのは確かです。

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 一般的なカジキのイメージといえば、南の海と暑い夏でしょうか? しかし、それだけではないのです。三陸沿岸は世界三大漁場と言われているほど豊かな海です。栄養分の豊富な北からの潮流と暖かい黒潮がせめぎ合い、プランクトンが大量に発生することで、小魚も多く集い、それを狙う回遊魚も集まり、カツオやマグロ、カジキ類などが捕食のために金華山沖を回遊しています。他のエリアよりも釣果が良いのは、この食い気の盛んなカジキたちが多くいることだと思います。
 1995年の冬には千葉県の外房4港で1日の曳き釣りによる釣果が300本を超えたという便りが届きました。金華山沖では曳き釣りを行う漁師はいません。ではどのように水揚げしていたかというと、カジキなどはもっぱら流し網を用いていました。ちなみにこの流し網による水揚げは1回で約2000本、5~6歳のマカジキが塩釜の市場へ運ばれたという話を聞いたことがあります。現在流し網はなく、このエリアの突きん棒船はメカジキを狙いますのでマカジキやクロカワ(クロカジキ)などを狙っているのはごくわずかなトローリング愛好家だけになりますので、魚影はかなり濃いと思います。
 平成7年の7月に金華山沖で文字通り魚影の濃さを体験しました。その日は潮流が大きく変化していたために、メンバーのボート5艇が散開して10時頃にポイントを確定。金華山から南東へ7マイル。色の違う潮が激しくせめぎ合う海域です。アウトリガーを展開してルアーを流すと同時にクロカワが入れ食い状態になりました。釣り上げるイメージの無かった人は手持ちのルアーが無くなり、興奮してファイト中のボートから出ているラインの上を通過して切ってしまったり、他のボートもラインブレイクやランディングミスの連発という興奮状態が4時間ほど続きました。私のボートには体験コースのメンバーが3名乗船しており、ヒット、ファイトは5回に及び、全員がスキッパー、リーダーマン、ギャフマンの実践講習を終えてしまうと言う内容で、そのうち184kg、180kg、126kgの3本をキャッチしました。この日は5本のルアーを流していましたが、ダブルヒットやトリプルヒットに対応できずにラインブレイクを起こすために、最終的には1本のルアーだけにしたことを覚えています。他のボートもヒットは数知れず、無くしたルアーの数も数知れずといった初心者でしたが、カジキとの格闘に満足して次の出港計画を練り、今度こそはと意気込んでいたことを思い出します。あれからはや10数年が経ちますが、今では当時のメンバーがスペシャリストと呼ばれるぐらいにカジキ釣りに精通しています。

 金華山周辺にカジキが回遊してくるのは7月初旬が平均的な時期です。カツオ一本釣り漁場が北緯37度を超えると間もなく姿を現します。この時期、親潮の上に黒潮の流れが乗り、親潮の表面を厚く覆い始めたところにカジキがやってきます。ほんの2マイルぐらい走っただけで水温が5度以上も変化したり、水の色が突然緑から黒に変わるのが当たり前のように見られます。
 水温が21度前後になるとマカジキが釣れ始めます。さらに水温が24度前後(8月初旬)になるとクロカワが大量に回遊してきます。今のところシーズンにカジキが来なかったという記録はありません。8月下旬から9月初旬が金華山沖でのハイシーズンとなります。そして10月初旬になると水温は目に見えて下がり始め、クロカワは南下を開始します。しかしマカジキは秋刀魚の南下を待つために、11月中旬まではこの海域で回遊して秋刀魚と共に南へ下っていきます。
 エリアは金華山周辺、金華山内側の仙台湾まで入ることもありますが、ほとんどの釣果は外側です。近いところで金華山灯台から数マイル。遠いところで20マイル。ポイントは潮次第ですがハイシーズンには何処に行ってもいます。海底の起伏は特になく、ほとんどなだらかで水温変化の激しいところがポイントです。
 情報としては漁海況速報を見ると参考になります。この速報はほぼ週1回のペースで出ていて、水温分布、漁船の操業場所内容、水面下水温、過去のデータとの比較、漁のあった魚の分析などを詳しく知ることができます。これを基にカジキのいるところを予測・特定し、クラブのメンバーで探しに行きます。みんなで散らばり情報交換をしながらいいポイントがあったらそこに集まり、みんなで釣りをします。情報はすべて共有。ボートの大きさの違いはあってもその他の条件はすべて一緒で、本数と大きさを競い合って楽しんでいます。金華山周辺に来たらマリンVHFで「くおしお」と呼びかけてみてください。必ず誰かがカジキのいる場所を教えてくれるでしょう。
 シーズンであれば、間違いなくカジキに出会う確立は高いので、情報を整理して、タックルを準備しておくことが大切です。タックルはマニュアル通りに確実に揃えて、手入れ、点検、最新の注意を怠りなくしましょう。特にドラグは使う度に調整を心掛けてください。ラインは丁寧に手入れを行い、ギャフ・フックの先は刃物のように研ぎます。タックルの配置も混乱しないように整然と、ルアーはカジキ類の餌各種を想定して、高速、低速、天候、海況に合わせて自信の持てるものを選びましょう。金華山沖のカジキが食べている餌は、イワシ類、サバ、アジ、秋刀魚、イカ、シイラ、カツオがメインです。いざという時にラインを切る刃物と手袋も忘れずに。
 そしてもうひとつ、タックルと同じぐらい大切なことがあります。そえは“絶対に釣り上げる”という気合いや気迫です。中途半端な気持ちでは、カジキの迫力に負けるだけではなく、大けがをすることにもなりかねません。ヒットからファイト、ランディングに至るまで、カジキ釣りには常に危険が伴います。すべての場面でのイメージトレーニングと実戦のための練習をキャプテン、クルーともしておくことが重要です。

(キャプテンズ・ワールドNo.79より抜粋)


《鈴木雅博》

プロフィール●<くろしおフィッシングクラブ>事務局長。洋書を片手に独学でカジキ釣りにチャレンジし、いち早く金華山周辺のカジキ釣りに取り組み、結果を残してきた三陸カジキ釣りの仕掛け人。ヤマハボート取扱店「くろしお」の代表取締役。

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