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Salty Life No.191

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

いよいよ初夏を迎え、青い空と海に新緑が映える美しい季節となります。
ボーティングはもちろんジェットやセーリングなど何をするにも気持ちよく、
水辺もますます楽しく賑わいをみせはじます。
「Salty Life」No.191をお届けします。


Monthly Column若さこそが最大のアドバンテージ

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スペインのマヨルカ島で開催されている「プリンセスソフィア杯」はヨーロッパでも有数のメジャーレース。今大会には世界62カ国から1200名以上のセーラーが出場した

 ヨーロッパでも3本の指に入るビッグレガッタ「プリンセスソフィア杯」の第50回大会開催で賑わうマヨルカ島・パルマで、470級ヨットで活動してきたある30代のセーラーと夕食を囲む機会があった。彼は中学卒業までヨット競技を続けながらJリーグ傘下のサッカーチームに身を置いていたが、高校入学と同時にヨット一本に活動を絞ったのだという。当時のチームメイトの名前を聞くと、Jリーグで活躍する錚々たる選手の名が出てくる。
 「彼らと同じレベルでサッカーを続けていくのは限界かもしれない」
 そう思ったそうだ。そしてスポーツはヨットに絞った。以降、ヨット競技を続けてきたが、実は「サッカーに比べると競技としてはかなり甘い世界だと感じていた」ことを彼は吐露した。
 「全国大会に出るにも、サッカーでは半年もかけて予選を勝ち抜いて本当に選ばれたチームだけがやっと出場にこぎ着ける。ヨットは大会によっては推薦さえあれば、また自分が出たいと思えば全国大会にだって出られるんですよ」
 彼の話は自虐に過ぎるかもしれないが、偽らざる心境だったのだろう。そして、実際にそうした話はヨット関係者の間でも交わされることがある。サッカーや野球といったメジャースポーツといわゆるマイナースポーツにおいて、両者の差はたしかにある。日本において圧倒的に競技人口の少ないヨットというスポーツにおいて、たとえトップクラスに位置していたとしても、世代を超えて経験を積んだベテラン選手と対峙したとき、さらに世界に出て行ったとき、いかに勝つことが困難か、身をもって知ることとなる。
 宇田川真乃は今から3年前、高校卒業と同時にYAMAHA Sailing Team ‘Revs’(以降ヤマハ)に加入した。高校時代は420級(470級よりも小型のジュニアユース向けの2人乗りヨット)でタイトルを総なめして無敵を誇った彼女は、「高校時代は来る日も来る日もどうすれば速くなるか、どうすればもっと上手くなれるか、ヨットのことだけを考えて生活してきた」と加入時に語っていた。サッカーなど選手層の厚いスポーツと比べて、ヨットの世界は実際に「甘い」部分もあるかもしれないが、それでも彼女は常人の想像をはるかに超える努力を積み重ねてきたアスリートに違いない。その彼女も今、世界の壁に直面している。
 男子のエース、高山大智も宇田川と同年代の若手だ。彼は高校時代の最後の年に420級の世界選手権で優勝した経験を持つ。ヤマハ加入後はベテラン・クルーの今村公彦とコンビを組み、特に強風で強さを見せるが、こちらは世代の差、ベテランセーラーたちとの経験差という部分で苦しんでいるように見える。
 ヨットは自然を相手にするスポーツだ。よく「風を読む」「潮を読む」などと言われ、コース取りが勝敗を左右すること、また、それが経験の積み重ねであることが指摘されるが、そのアドバンテージを確実に我がものとすることがそんなに簡単ではないことは、ヨットレースを見ていればわかる。むしろ、ひとつひとつの作業を早く正確に、風を読むことよりも、今つかんでいる風の中でいかにヨットを速く走らせるか。つまり状況判断と技術がいかに大切であるか、今更ながらに気づかされる。そしてそれこそが「経験の差」であり、だが、それは埋めることのできる差であることも。
 2020年度の日本代表を選考するレースが始まった。マヨルカ島で行われた「プリンセスソフィア杯」はその初戦であったが、ヤマハのセーラーたちは思うように結果を出せずに苦しんだ。近年の470級ではもっともレベルが高いと思われる他の日本人セーラーも、女子の吉田愛・吉岡美帆組をのぞいては圧倒的な強さを見せつけられずにいる。
 選考レースは残すところ2大会。次回は8月に江ノ島で開催される世界選手権大会、そして同じく江ノ島で開催されるワールドカップへと続く。それまでに残された数ヶ月間に何をすべきか─。彼らには見えていることだろう。何よりも「若さ」は彼らにとって最大のアドバンテージである。日本の中でもメジャースポーツの筆頭にあげられる高校野球では、春から夏にかけての成長の著しさがしばしば話題となる。チームのなかでも特に宇田川と高山、宇田川のクルーを務める工藤彩乃は、代表を争う日本のセーラーのなかではもっとも若く、伸びしろの著しい高校球児世代に近い3人である。「マイナースポーツゆえの甘い世界」との指摘を跳ね飛ばすような活躍を世界の舞台で見せつけてもらうことで、彼らの成長と躍動する姿に心からの「感動」を味わいたい。

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高山/今村艇。トップでマークを回航しフリートを率いることもあったがプレッシャーのなか波に乗ることができなかった
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レースの合間にコーチングスタッフとコミュニケーションをとる宇田川/工藤組。宇田川は代表に挑戦している470級女子のスキッパーのなかではもっとも若い
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界45カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚話題のヨット・ロック、その歴史に刻まれた80年代の名盤「南から来た男」

 「ヨット・ロック」というジャンルがアメリカで話題である。日本のジャンルにあるAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック=大人向けロック)的なソフトロックの一種で、70年代後半から80年代にかけてアメリカで人気を博したスムース&メローでソフトな音楽。ヨットの船上で感じられるような洗練さや上質さをサウンドに持つ。
 一昔前のジャンルがリバイバルするムーブメントは2005年に放送を開始したネット番組「ヨット・ロック」をきっかけとしている。番組は当時の楽曲をシニカルな目線からコメディタッチで取り上げ、主な視聴者である若い世代に80年前後の曲にある独特な雰囲気を目新しく斬新なものとして提供した。それが好評を博し10年の時を経て番組名はジャンルとなり全米に浸透し、AORの人気が根強い日本にも飛び火し、今年はさまざまな場所で「ヨット・ロック」が扱われている。
 このジャンルの名盤のひとつが今回紹介するクリストファー・クロスの「南から来た男」である。1981年に同アルバムとシングル「セイリング(Sailing)」がグラミー賞の主要5部門を制覇。これは今まで他に成し遂げていない彼だけの名誉である。この評価を支えているのは現在ジャンルの主役のひとりであるマイケル・マクドナルド、ドン・ヘンリーがコーラスとして参加したこと。そこに彼の独特のハイトーンヴォイスと曲が重なり織りなすハーモニーは、シンプルながらもアルバムを通して感じられる心地よいサウンドをもたらしている。
 「ヨットで聞きたい音楽なんてシンプルなものと相場は決まっている」とジャンルを代表するバンド「プレーヤー」のロン・モスは述べている。「南から来た男」はシンプルながら聞き応えのあるサウンドで、ヨット・ロックの入門盤であり船上にも相応しい一枚。

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「南から来た男」
クリストファー・クロス
レーベル:ワーナーミュージック・ジャパン
参考価格:¥2,700(税別)

船厨ただの惣菜やけん「辛子明太子」

 福岡・博多の名物「辛子明太子」のある老舗の創業者を主人公としたテレビドラマを見る機会があった。となれば、無性に辛子明太子が食べたくなるのが人情というものだろう。いても立ってもいられなくなり、ドラマを見たその日のうちに老舗の「辛子明太子」を買い求めたくなる。
 現在、普及している「辛子明太子」は、その創業者氏が生まれ育った韓国・釜山の「明卵漬」(みょんらんじょ)の味を再現しようと生まれた惣菜である。材料はスケソウダラの卵巣で、ご存じのように、これをタレと唐辛子につけ込んで作る。ドラマでは、釜山での記憶を頼りにそれを再現しようと悪戦苦闘した創業者氏の奮闘がコメディタッチで描かれるが、原料へのこだわりや、ものづくりのへの情熱、さらには、苦労して編み出した製法を隠さず同業者に伝えていった結果、博多の名物として定着していったことを知り、創業者氏に対する、というよりも「辛子明太子」への尊敬がますます高まるのである。
 老舗から買い求めた「辛子明太子」は、たらこの舌触りがしっかりしていてさすがに旨い(という気がする)。とはいえ、ドラマの中で主人公が何度も言葉にしているように「めんたいはただの惣菜」。気軽に手に入れて、気軽に熱々ご飯に載せて、気軽にハフハフといただきたいものである。

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「辛子明太子ご飯」
■材料(1人分)
辛子明太子1きれ、炊きたてご飯
■作り方
熱々のご飯に明太子を載せるだけ。明太子をほぐしたり、刻みのりをまぶしたり、それにバターを添えたり、高菜と一緒にご飯に載せるなど、アレンジは工夫次第

海の博物誌光に近寄る魚たち

 闇に灯る光に惹かれてしまうのは人も魚も同じらしい。魚の生活にも光は重要な意味を持つようだ。
 走光性という、光に対する生物の習性を示すものがある。光に集まれば正の走光性を持ち、逆に離れれば負の走光性を持つと言う。サンマやサバ、イカは「正の走光性」を示す海洋生物の代表格。最近では研究が進み、ほとんどの魚が生まれたばかりの小魚のときは光に集まる「正の走光性」を持つことが分かってきた。
 こうした魚の習性を漁業に活かしたのが集魚灯漁法である。人類が火の起こし方を発見して間もなく漁に応用して以来の歴史ある漁法だ。100年前まで松明だった光源は石油からガスに変わり現在の電気へ行きついた。近年はハイパワー化が顕著となり野球場のナイター設備並みの電球が暗い海を照らしている。世界中で、サンマをはじめイカ、カツオ、ブリなどの様々な漁に活用されている。諸外国には、集魚灯による漁法が成果をあげすぎて、競合する零細漁法を圧迫するので禁じられるケースもあるほど。
 実際になぜ魚たちが光に集まるかについては詳しくはまだまだ分かっていない。魚が光に集まることを本能とするのではなく、この行動を起こす生理学的な裏付けを解明することも研究テーマになっている。

Salty Log〜今月の海通い館山湾とタイラバの実力におそれいる

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早朝から穏やかな海が待ち受けていた。館山湾は「鏡ヶ浦」とも呼ばれる

 古く戦国時代末期には里見氏の城下町として栄え、さらにはカツオを初めとする漁業の町として賑わい、20世紀の初頭に鉄道が開通し、東京と航路で結ばれたことで、保養地としても注目されだした館山。現在では高速道路も延び、都心からのアクセスはかなりよく、賑わいをみせている。目の前に広がる館山湾は豊穣の海。見た目には落ち着いた海を抱くその景観は、そこが東京湾であることをつい忘れそうになる。静かな朝、SR-Xの舫いを解いた。

 館山湾には「鏡ヶ浦」との異名がある。西寄りの強い風が吹くと厄介ではあるが、三方を陸に囲まれた湾は、春から秋にかけては穏やかな時が多く、その名の通り「鏡」のような静かな海面に恵まれる。この日の朝も無風で波もうねりもほとんど無く、ボートはなめらかな海を滑るように走ってくれる。ボーターにとっては最高の一日の始まりとなった。
 館山湾内にはいくつかの根があって有望な釣り場が点在する。この日は、それらの根回りで、最近、遅まきながら編集部内でブームとなってきた「タイラバ」を使い、マダイをターゲットにボートフィッシングを楽しんだ。実際の所、釣れてくれたマダイは一尾のみ。それも30cmに届くか届かないかのリリースサイズだったのだが、それでも豊穣の館山湾は裏切らない。予想を超える釣果が私たちを楽しませてくれた。
 その日のファーストフィッシュは仲間の一人が釣り上げた「クサフグ」。けっこう美味いらしいのだが、あたったら「ミノオワリ」なので(美濃・尾張をかけて猛毒を持つフグは名古屋フグと呼ばれる)迷わずリリース。そして最初に食べられる魚を釣ったのはもう一人のお仲間。

「きたきた」
「なんだろう。マダイかな」
「タイラバ初めてだからわからないよ」

 ドラグが音を上げラインが引き出される。
「あ、タイだ、タイ!あれ?何か違う」

 ネットに収まったのはナイスサイズのカンパチ。こんな魚も釣れるのかと一同、タイラバの可能性に一目置くこととなった。
 次に「やった!きた!」と声を上げたのは最初にクサフグを釣り上げた仲間の「クサフグさん」である。かなり手応えがあるようで、クサフグさんは、いわゆる「どや顔」でリールを巻いている。魚が見えるまでにかなり時間がかかった。そしてゆったりと水面に現れたのは、またまたフグのようである。ところがなにか異様だ。さきほどのクサフグとは明らかに様相が異なる。ネットに収まった黒ずんだ巨大な物体は、みごとすぎる「トラフグ」であった。これにはデッキ上が湧き上がる。最近、東京湾でトラフグがよく釣れ、トラフグ狙いの遊漁船も出ているとは聞いていたが、まさかここで釣れるとは誰も予想していなかった。「こんなもん釣れちゃってどうすんだよ」と思われたが、ちょっと待て。実は「カンパチさん」は腕の立つ和食の板前である。

「もしかしてフグの調理免許持ってる?」
「もちろん裁けるよ」

 かくして巨大なトラフグ(61cmありました)は、SR-Xのイケスにキープされることとなった。
 潮が止まりかけ、先述のマダイをリリースした後はアタリもなくなりデッキ上に間延びした空気が漂い始めるが、こんどは遙か遠くに鳥がざわめいているのを発見。タイラバを急いで巻き上げ、ボートを鳥の群れの近くまで走らせるとナブラが発生した。フィッシュイーターが小魚を追っているのが視認できる。ブリかワラサか。タックルを変えて、こんどはペンシルベイトを遠投。編集子の一投目にヒットする。サイズはイナダ止まりだが、なかなか美しい躯でこれもイケスにキープ。マダイのことを気にしながらも、しばらく鳥山を追いかけイナダと遊ぶ。
 鳥が姿を消した後に再びタイラバを始めるとこの日2匹目のトラフグがヒット。先ほどのサイズには届かなかったが、それでも見事なサイズだ。釣ったのはまたも「クサふぐ」さんである。すっかりフグにとりつかれてしまったようだが、それでも「これ、二匹でン万円はするからね」などと、いささか品のない、それでいてかなり現実的な価値観を披露して周囲の冷やかしを黙らせたのだった。
 それにしても、おそるべし「タイラバ」。何しろポイント探し以外はいたって簡単な釣りである。さらに、邪道かもしれないが、水面に姿を見せるまで、何が釣れているのかわからないところがなんとも魅力あること気づかされたのであった。
 あっという間に一日が終わった。陸に上がるとけっこう疲れていることに気づいたが、最高の海とボートと釣りが与えてくれた疲労はとても気持ちのよいものであった。トラフグは「カンパチさん」に調理された後、後日、山分けすることに。お楽しみは数日後まで続くのであった。

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クサフグに続いて上がったのは「カンパチ」。朝のうちに様になる魚が釣れてほっとする
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驚愕のトラフグ。あとで測ると61cmもあった。免許がないと調理できない魚なので扱いは慎重に
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心地よい疲労を携えて帰り際に立ち寄った洲崎灯台。館山は観光地ながら、のどかな漁港の風景に出会うこともできる

海の道具日陰者の独り言「オーニング」

 大型クルーザーなら乗船者全員が船内に入って寛げるだけのスペースが確保されているだろうけれど、小型ボートはそうもいかない。操船者を含めて全員が空の下で立ったままというのは小型ボートの魅力ではあるが、なかなかつらいこともある。
 確かに波も穏やかな海上を、風を受けながら青空の下で疾走するのは爽快だ。夏のリゾートをイメージするとそんな光景が浮かんでくるし、実際テレビやポスターなどでも見かける。だが、実態はそう楽しいことばかりではない。ずうっと風に晒されればしんどいし、といって停まれば暑い。昨今紫外線は悪の権化と化し、殊に女性にとっては天敵とも言える。日焼けが健康の証し、夏に日焼けすれば風邪をひかないなどと言っていた昔が嘘のような手のひら返しの毛嫌い状態だ。
 そんなオープンなボートの救世主が「オーニング=日よけ」だ。多くはナイロンなどのシート張りで、ステンレスやアルミの金属性骨組みにピンとシートを張ったものや、蛇腹式に開閉できるものなどがある。シートはかなり丈夫に出来ていて、しかも相当な風圧にも耐えられるよう、ばたつかないようにしっかり固定されている。
 シートが1枚頭上にあるだけで、ボートの居住性は数段アップする。しかも降っても晴れてもオーニングは大活躍するのだ。
 ただしこのオーニングを受け付けないカテゴリーのボートがある。バスボートだ。バスボートはその名の通り、バスという淡水魚をルアーで釣ることにのみ特化して作られたボートだ。キャスティングの邪魔になるものは例え便利であっても装備しない。それはそれでかっこいいけれど、やっぱり暑いだろうなぁ、炎天下の湖上は。

その他

編集航記

きょう、5月5日は端午の節句。日本では鎌倉時代から、男子の健やかな成長を祈願する節句の行事として定着し、今は男女を問わず子どもたちの成長を感謝し祝う「こどもの日」として祝日になりました。さて、子どもたちの「海離れ」が話題となって久しいですが、皆様のご家庭はどうでしょう。海に限らず、自然は成長過程にある子どもの五感を刺激し、感性を育んでくれます。ぜひご家族で海に出かけませんか?ボートでなくてもこの季節、貝掘りや磯遊びなども楽しいはずです。浅瀬で遊ぶときもライフジャケットは忘れずに。


(編集部・ま)

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