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Salty Life No.199

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

凧揚げは日本の正月の風物詩ですが、マリンレジャーとも無縁ではありません。
ボートからリグを取り付けた凧を
ナブラの沸くところまで揚げて釣りを楽しむカイトフィッシング。
セーリング競技の種目として国際的に注目されつつあるカイトボードなんていうのもありますが、気軽に沖に出てただ大空に凧を飛ばすのも楽しそうです。
さあ、新しい年の始まりです。明けましておめでとうございます。
2020年最初の「Salty Life」No.199をお届けします。


Monthly Column夢のボートから沸き立つチャレンジ・スピリット

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30年を経てよみがえった水中翼船「OU-32」

 昨年の12月のことだが、ヤマハ発動機がメディア向けに発行しているニュースレターに興味深いボートの話題が掲載されていた。
 そのボートの名は「OU-32」という。全長4.8メートル。流線型のキャノピーに覆われた特徴的なスタイリングは、かつて筆者が子どもの頃にアニメで目にした未来の乗り物のようにも見える。二本の脚で浮き上がるようにして水上を走る、ジェットエンジンを搭載した水中翼船である。こんなボートをヤマハという会社は、30年も前に試作し、あわよくば売り出そうとしていたのである。
 設計者は故・堀内浩太郎さん。堀内さんはヤマハがボート事業を立ち上げたときからボートの開発・設計に関わり続けた、業界では知らぬ者のいないレジェンドだ。
 OU-32はその堀内さんをリーダーとする「堀内研究室」で試作され、1988年の東京国際ボートショーに「夢のボート」として出展された。
 堀内さんの著書「あるボートデザイナーの軌跡2」(舵社・刊)に詳しいが、東京のボートショーでは、この「OU-32」が颯爽と湖上を走る映像も流れ来場者を驚かせた。その後、オーストラリアのメルボルンのレジャー博にも展示され、大いに注目されたが結果的には様々な事情があって商品化には至らなかった。
 写真の「OU-32」は、ヤマハの工場の倉庫に眠っていた当時の試作艇を還暦過ぎの実験担当者を中心としたベテラン社員たちがレストアしたものである。
 「ボートの“快適性向上”をテーマに過去の水中翼船を復元し研究することで、水上を走る乗り物の、乗り心地の向上、燃費の大幅な改善、ボートに乗ることの新たな悦びの提供につなげていくことが目的となっています。でも白状するとそれらは後づけなんです。これを実際に倉庫で見たとき、ぜひ乗ってみたいと思った。そしてボートの開発に携わる若い社員たちにも乗って欲しかった。それが本当の動機ですね(笑)」 (担当者の一人)
 実際に乗ってみると、操船には相当の技術を要することを身をもって知ったという。でも担当者はこうも語る。
 「独創的で操船の難しいフネだからこそ、余計に乗りこなしてみたいと思う。そういうのってあるじゃないですか。堀内さんと一緒に仕事をしたことはないのですが、レストアしてみて、実際に乗ってみて、堀内研究室の自由闊達なものづくりの思想、その遊び心がひしひしと伝わってきました」
 今のボート開発思想の主流はとても人に優しい。それはボート開発の黎明期からそうであったのかもしれないが、優しさの達成度は飛躍的に進化している。新たな操船デバイスが開発され、操船しやすく、アンチローリングシステムといった乗り心地を追求するシステムも充実している。大歓迎である。もちろんOU-32のレストアのテーマにもあるように水中翼船の開発は乗り心地の改善につながるものだ。だが、OU-32の場合、乗りこなすのにはそれ相当の訓練が必要なのであろう。そしてその労苦を楽しいと思える人たちがいると、堀内さんたちは信じていたのか。
 思えば筆者がかつて楽しんでいたセーリングボート、いわゆるヨットといわれる乗り物も同様である。それほど難しく考えることはないと日頃は思い、他人にもそう話してはいるが、やはり自由に乗りこなすにはある程度の技能の習得が必要だ。それにもかかわらず高度成長期からバブル時代にかけての、誰もが仕事に邁進していたであろう一時期、多くの大人がヨット教室に通い、日本各地の水面でヨットを走らせていた。遊ぶために苦労はいとわない、知恵と体力を消耗する。貪欲に取り組むことで幸福感は増していく。実はどのような遊びにも共通していることかもしれない。
 新しい年を迎え、このOU-32のことを知り、何かにチャレンジしてみたいと思わされた。30年経ってもOU-32は夢を与えてくれるボートといえるかもしれない。

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試験走行へ出動。わくわくする
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ジェット噴射による推進力を得ると水中翼によって船体が浮上する
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界45カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚大洋の女神を描いた交響詩「シベリウス:海の精」

 クラシック音楽の交響詩とは、文学や絵画の内容をオーケストラの演奏で表そうとする音楽である。
 海をテーマにする交響詩の名曲を残したシベリウスとドビュッシーは、同世代の作曲家だ。ドビュッシーは交響詩「海」をフランスの内陸ブルゴーニュの丘にあった工房で作曲。記憶にあった豊かな海を印象派らしい鮮やかなタッチで描いた。一方シベリウスは交響詩「海の精」を大西洋の初航海での興奮や期待から着想。それに海神オケアノスや女神テテュスといった神話のインスピレーションを加える我流のやり方で海をいっそう壮大でドラマチックに仕立てた。
 シベリウスといえば、若くして成功し、フィンランドの国民的作曲家にまで上り詰めた歴史に残る人物である。順風満帆な生涯が約束されたはずの彼も、舞台への不安やストレスを酒でごまかす荒んだ生活に陥る。シャンパンやロブスターに金をつぎこみ、家庭や自らの身体を崩壊寸前まで傷つけた。そんな彼を救ったのはフィンランドの豊かな自然であった。都心の喧騒から離れ、郊外の静かな湖畔での新しい暮らしのなかで、創作活動への意欲は徐々に復活して、名作「海の精」は生まれるのである。
 本アルバムは海の精(最終版)以外に3バージョンを収録。シベリウスは初演後に大幅な内容の改訂を加え自分の描きたい海に近づけた。そういった別作品と聴きくらべることで最終盤誕生までの軌跡を振り返ることができる。
 演奏は、フィンランドのラハティ交響楽団とその主席指揮者のスモ・ヴァンスカ。雑誌「音楽の友」でベストコンサートに選ばれるなど、日本をはじめ世界で高い評価を得る世界的なシベリウス演奏の名手たちである。フィンランドの原風景を彷彿させる透明感溢れる演奏は、現地の玄人から特に愛されている。「海をテーマにする音楽で最も美しい曲」とも批評家から評されてきた「海の精」を名演から楽しんでみたい。

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「シベリウス:海の精」
レーベル:キングレコード
参考価格:¥2,667(税別)

船厨海の味がする「イトヨリの炊き込みご飯」

 とても感覚的な話なのだが、海の味がする魚というのがある。それはどのような魚かというと、昭和中期に育った世代の者にとって、都会の魚屋さんではなかなかお目にかかれなかった魚に多い。たとえばイサキ。いまでは海から離れたスーパーマーケットでも簡単に手に入るけれど、以前は海辺の宿や食堂にでも行かないとなかなか食べる機会のない魚であった。そうしたところで食するイサキの塩焼きは、そのころ食べ慣れていたアジやサバといった大衆魚に比べて、美味いか不味いかを通り越した次元で、断然「海の味」がしたのである。
 このイトヨリにしても同じだ。イサキの類いに似た海の味がする。タイラバなどでも釣れるが、「旨み」という点においては、もしかしたら本命である「マダイ」の上を行くと感じる人もいるかもしれない。
 釣ったわけではないが、魚屋に並んでいたイトヨリの見た目が立派でとても美しいこともあって、ひらめいたまま買ってきて炊き込みご飯にしてみた。はみ出した尾鰭を無理やり土鍋にネジ込む。鯛飯ならぬ「イトヨリ飯」。予想通り、旨みがご飯にも染み渡った。ただし魚のすべてにいえるが、「海の味」、つまりこの独特の旨みを「魚臭い」と形容する方には向かない料理なのかもしれない。もちろん刺身も素晴らしく美味いからご安心を。

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「イトヨリの炊き込みご飯」
■材料(4~5人分)
イトヨリ1尾、米3カップ、昆布10cmほど、酒大さじ1.5、醤油大さじ1.5、塩 小さじ1、水600cc
■作り方
1)イトヨリはウロコを取り、エラとハラワタを取って洗い、水気を拭く
2)魚焼きグリルなどでイトヨリの表面を軽く焼く
3)米は研いでザルにあげておく
4)昆布は水600ccに浸して柔らかくしておく
5)土鍋に4を昆布ごと入れ、酒、醤油、塩を加え 3の米を入れてイトヨリを乗せて炊く
6)強火にかけ沸騰したら中火にして5分、弱火で10分、火を消して10分ほど蒸らして蓋を開け、骨を取り、ほぐして混ぜながら茶碗によそう

海の博物誌熱水400度の噴出孔、ブラックスモーカー

 深海は暗黒・低温・高圧で、世界のもっとも厳しい場所のひとつである。海底の「ブラックスモーカー」という孔からは黒い煙のような熱水が噴きだす。その熱水は時に400度にも達する。
 水は陸上では通常100度で蒸発する。水の沸点は圧力が高くなるにつれて上昇するので、高圧の深海では水の臨海点である374度に近づく。さらに「ブラックスモーカー」からの熱水には、多量の硫化水素やメタン、金属などが多く融けているので、400度の高温でも液体のままだ。
 しかし「ブラックスモーカー」の周辺には無数のカニやエビが生息する姿も見られるなど、深海のオアシスと異名をとる生物のホットスポットとなっている。熱水の化合物を栄養源にする細菌やチューブワームという全長3メートルの生き物も存在する。
 最近の研究で「ブラックスモーカー」周辺は地球の誕生したころの環境に似ていることがわかってきた。深海の孔「ブラックスモーカー」を調べていくと地球の歴史を紐解く鍵があるかもしれない。

Salty Log〜今月の海通いやっぱり釣りが大好きやん!

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海だ!久しぶりの釣り。海も気分も絶好調

 海と釣りが好きで好きでたまらないというのに1年以上も海に出ず、釣りもできないと人はどうなってしまうのか。ボートフィッシングにはまっている人からしたら、とてもじゃないがそんな生活は考えられないのではないか。で、そんな人が近くにいたので誘い出してみた。出産後、子育てに一生懸命な日々を送るタレントの石崎理絵さんだ。

1年ぶりに楽しんだボートフィッシング

 この日は浦賀のホームマリーナでシースタイルを利用した。風もさほど吹いておらず、晴れ間もあり、なかなかのコンディション。とはいえ、この日の船長は、いつも粗野な釣りをしてばかりの編集部員である。久しぶりの釣りとあって期待を膨らませる石崎さんのご期待に応えることができるのか、いささか不安なところ。
 石崎さんはフィッシングレポーターとして活躍してきたタレントさんであるが、2018年の夏に第一子となる女の子が生まれ、今は母として子育てに邁進の日々。もちろん仕事も続けているけれど、お嬢さんが同行しても差し支えのない仕事に絞っている。つまり実釣の仕事はほとんどしていない。そして今回は優しい旦那様が「夕方までなら子どもは見ているから行っておいで」とご配慮くださり、久しぶりのボートフィッシングが実現したのであった。前夜に石崎さんのfacebookをのぞいてみたら、お嬢さんとタイラバの準備をしているとの書き込みを見つけた。そうとうウキウキと楽しみにしてもらっているようで、コーディネートした身としては嬉しい限りだが、ますますプレッシャーがかかる。
 少し早めに上がる予定だったこともあり、ポイントを絞ってじっくりとマダイを狙うことにした。タイラバを落とし込み、リトリーブしては落とし込み、アタリを待つ。ところが30分もしないうちに粗野な船長は、やっぱりここダメだわ。次!といってポイントを変えようとする。石崎さんをはじめ同行者も反対はせず、粗野な船長がかつて68cmのマダイをあげたのだと言い張るポイントへと移動した。実はそれまで狙っていたポイントは同行者が2週間前に60cmをキャッチしたところだったのだが。

東京湾タイラバ18目達成!

 「みっちぃはさあ、JGFAのアンバサダーだったよね」
 粗野な船長がいつものように無骨に訪ねる。
 「うんそうだよ」
 「じゃあバッグリミットありってことで。きょうは40cm以下はマダイとは認めないから。よろしく頼む」
 そんな意地の悪いプッシャーにひるむことなく、石崎さんが船上ファーストフィッシュ。ホウボウだった。マダイではなかったけれど、かなりの喜び様だ。それもそうだ。1年ぶりの釣魚である。その後もぼちぼちであるが、ホウボウが釣れる。石崎さんが歓声を上げる。こちらも大喜びである。魚釣りってこんなに楽しかったか?
 そして納竿も近づいた午後、石崎さんにアタリ。
 「あれ、動かなくなったよ。もしかしたらゴミでも引っかかったのかな?あれ、あ、やっぱり魚だ!あー!うそ!マハタ、マハタだ!やったー!」
 釣り上げたマハタに頬ずりでもしそうな勢いでお喜びである。実は石崎さんは東京湾のタイラバの釣りで何目の魚が釣れるか、記録をつけている。記録の更新は3年2ヶ月ぶり。初めてのマハタだったのだ。本命のマダイより価値のある18目達成である。
 あっというまに帰港の時間がやってきた。釣りは十分に楽しめた。「自分が釣った魚を娘に食べさせてあげたい」との石崎さんの今日の一番の目的も果たせる。なによりこの上なく、みんなが楽しめた。
 帰港してイケスから魚を取り出した。そこにマダイが混ざっていた。船上ルールの40cmには届かないように見えるが、それでも美味そうなマダイ。雑なくせに妙に釣り運がいいところのある船長が「きょう一日、お母さんを取り上げてしまったお詫びにお嬢さんに届けたいのだ」とリリースせずにキープしていたのである。いいとこあるじゃないか。
 実は石崎さんは前日までワクワクしながらも「1年ぶりでまともに釣りができるだろうか」「リーダーがすっぽ抜けはしないか」「マダイのアタリに大あわせしてしまうんじゃないか」など、いろいろと心配していたらしい。もちろん釣りをはじめてしまえばそんな心配は無用だった。まったくブランクを感じさせないタックル裁きで釣りを楽しんだ。
 帰宅の道中、「久しぶりに釣りをした感想は?どうでした?」との問いに対する石崎さんの、まるで自分に語りかけるかのような一言がとても印象に残っている。
 「“やっぱり私、釣りが大好きやん!”って、そう思った!」

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記録更新のマハタ。美味そう!
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ホウボウはたくさん釣れた。ともあれ楽しい
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浦賀のYFR-24はダブルステーション。魚探もデッキでチェックできる

海の道具水も漏らさぬタフな奴「ハッチ」

 「ハッチ」とグーグル翻訳で調べたら、“艙口”というほぼ船専用の漢字が出てきた。“そうこう”とか“にごりぐち”と読むそうだ。
 語彙説明には、船倉に貨物を出し入れするため上甲板に設けられた四角い口、とある。確かに車や住宅などではあまりハッチという言葉を使わない気がする。イメージとしては、潜水艦などで、がっちりとしたハンドルで閉める小窓を連想される向きも多かろう。魚雷発射口など、ですな。
 実際にはそこから出入いりするというよりは、空気を取り込んだり、ちょっとした荷物を出し入れするための蓋といったものを指す場合が多い。
 簡易なものでは、蓋といった塩梅のものから、サスペンション付支え棒があるもの、密閉性の高いロックハンドルがついたものなど、ただの蓋とくくるにはちょっと複雑な機構を有したものもある。なぜそうした機能が必要になるかといえば、それはひとえに水の侵入を防ぎたいから。ボートにとって水は身近にあってそれなしではにっちもさっちもいかない存在でありながら、一方で完全にシャットアウトしたい難物でもある。
 マリン用品全般に言えることなのだけれど、塩水による浸水と錆などの腐食は永遠の課題で、逆に言えばその対策ができれば多少コンパクトじゃなくても重さがあっても許されるところがある。ハッチにしても、たかだか蓋に高価な部材やたいそうな装置や部品を用いている。その分、水も漏らさぬタフな奴、ということで多少の武骨さや操作性の悪さはご容赦いただきたい。

その他

編集航記

あけましておめでとうございます。Salty Logでもお伝えしましたが久しぶりにタレントの石崎理絵さんとボートで釣りを楽しませてもらいました。とにかく釣りが久しぶりとのことでしたが、それだけに大いに楽しんでいる姿が印象的でした。そしてこちらはというと、何より、釣りに誘って船を出すことでここまで人に喜んでもらえるのかということに感激してしまいました。石崎さん、ありがとう。2020年、今年はみなさんもどしどし友だちを海に誘ってみませんか。


(編集部・ま)

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