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Salty Life No.203

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

端午の節句に男子の立身出世を願って飾る「鯉のぼり」は、
ヨットやボートとも相性が良さそうです。
かつて「こどもの日」に湘南の海で行われていた大規模なオープンヨットレースでは、スターンレールに小さな鯉のぼりをたなびかせて走るヨットも多く見られ、その光景は相模湾の晩春を彩る風物詩にもなっていました。
さて、きょうは「こどもの日」。
今号ではお子さまと一緒に楽しめるeBookをご案内しています。
どうぞお楽しみください。
「Salty Life」No.203をお届けします。


Monthly Column酷暑の海が蘇る。

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ボドルム(トルコ)沖にはいくつもの美しい入り江がある。あまりの暑さに海に飛び込まずにいられない

 もう5月になろうというのに、筆者の暮らす関東地方の田舎町はこのところ肌寒い日が続き、片付け損なったファンヒーターが、部屋の隅で静かな音をたてながら再び活躍している。こうなると夏が無性に恋しくなる。重い撮影機材を肩に担ぎ、「夏なんて大嫌いだ」とつぶやきつつ、ヒイコラと汗だくになって海辺やマリーナを歩きまわっていた季節が懐かしく、一日も早く炎天下の海で受けるあの最高に気持ちのいい風を体に受けたいという思いが込み上げてくる。そんなとき、ハードディスクの中で散らばった写真を整理しながら様々な海の風景に再会し、いちいち歓んでいたら、猛暑への憧憬をさらにかき立てる写真が出てきた。とにかく暑かった。我慢ならぬほど暑かった。トルコの海。
 エーゲ海に面する港湾都市・ボドルムはトルコ有数のリゾート地として人気を誇っている。かつてはハリカルナッソスと呼ばれた古代都市だ。港の中心には当地のシンボルともいえるボドルム城が見える。この古城は、15世紀にエーゲ海に浮かぶロドス島を拠点とするヨハネ騎士団が建造したとされ、古代の世界七不思議ともいわれるロドス島(ギリシャ)の建造物・マウソロス霊廟の石材が使用されたとされている。もちろん、そんな蘊蓄はあとから調べて知った。とにかくトルコの思い出は「暑さ」なのである
 ボドルムの周辺はクルージングスポットが豊富で、乾燥した山肌を眺めながら走っていると、いくつもの美しい入り江に出会うことができる。それらの入り江にはボートだけでなく、観光船やセーリングボートも集まってきていて、強烈な太陽の日差しをものともせずにみんなが楽しそうに海での時間を過ごしていた。
 そんな多くのボートで賑わう入り江にアンカリングし、スターンから舫いロープを伸ばして陸の岩に直接結びつけると、待ってましたとばかりにドライバーを1人残して全員が海に飛び込み始める。乗ってきたのはエアコンのない小型のリブボートだった。船足を停め、アンカーを入れたり、舫いを取ったりしているうちに、耐えられぬ暑さに見舞われる。飛び込まずにはいられない。とてつもなく気持ちの良い別世界に瞬間移動できるのだ。
 一通り水遊びをしたあと、小さな港にボートを横付けして、レストランでのランチタイムを迎える。海外の仲間たちと行動を共にするときは、ランチタイムを長く取ることが多い。慣れないうちはこの長いランチタイムにイライラすることもあったが、最近ではこうした時間をむしろ大切にするようになってきた。特に南の海辺では。だって、日陰から一歩でも足を踏み出すとほんとうに暑いのだ。この昼飯時にうかうか張り切っていると、午後からの行動に差し障るのだ。なにより、みんながどことなく不機嫌になる。
 人のまばらなレストランの、日陰のテラスで食事を終えるとついついうたた寝してしまう。しばらくしてから目覚めて、同じくうたた寝をしている仲間を奮い立たせ、港へと戻る。せっかく乾きかけたTシャツが、またまた汗で濡れる。でもボートを走らせることで得る風が、ことのほか気持ちのいいこともみんな知っている。午後になって、日本と同じく海風がすこしばかり強くなる。風と一緒に浴びるスプレーは普段なら避けたいところだが、それを心地よいと感じられるのは、強烈な日射しのおかげでもある。
 トルコの絶大な猛暑の思い出とともに蘇るのは、結局は海がもたらす気持ち良さなのである。改めて、茹だるような夏を待ち遠しいと思う。

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古城を中心に港を形成。ここには様々なスタイルのボートやヨットが集まる
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走れば気持ちのいい風が体を冷ましてくれる。夏のオープンボートの魅力
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚ジャズの帝王とフルオーケストラのコラボレーション「マイルス・アヘッド」

 ジャズ界を代表する名コンビ、マイルス・デイビスと編曲家のギル・エバンスが初めて作り上げたアルバムが「マイルス・アヘッド」である。
 白人女性と子どもが優雅に帆走する写真をあしらったジャケットが“ジャズ”のアルバムとしては異彩を放つ。そしてまるでこのジャケットの情景を表すように、ギル・エバンスは16人編成のフルオーケストラの豊かな調べを奏で、マイルスが心地良さそうにトランペットを吹くのだ。こういうと表面的な美しさばかりが強調される音楽のように感じてしまうかもしれないが、根底にはしっかりとした“骨太ジャズ”が存在している。それが魅力だ。
 ところで、この2人を引き合わせたのは、当時ジャズ界で大流行していた即興重視の情熱的なビバップの提唱者でサックス奏者のチャーリー・パーカーだったといえる。若きマイルスはパーカーに抜擢されるが、音楽性や人間性の相違からバンドを脱退、その後ギル・エバンスのサポートを受け、ビバップに対峙するような、即興は控え目でメロディや曲の構成を重視するクールジャズを確立するのである。一旦、薬物中毒で演奏活動から遠ざかったマイルスだったが、復帰してコロンビア・レコードと契約。その直後から、マイルスはギル・エバンスの編曲したフルオーケストラと共演する、そんなアルバムを作りたいと熱望していた。そして生まれたのが本作「マイルス・アヘッド」だった。
 さて、本作のオススメの曲は何と言っても3番の「My Ship(私の船)」。もともと、あるミュージカルのフィナーレを飾る曲だったが、2003年にはハービー・ハンコックがこの曲でグラミー賞を受賞するなど今ではジャズの定番曲となっている。ロマンチックだけど、それでいてクールな雰囲気がある。夏の海辺で聴くのもいい。

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「マイルス・アヘッド」
アーティスト:マイルス・デイビス
レーベル:SMJ
参考価格:¥1,100(税込)

船厨子どもと一緒に楽しむ「アサリの時雨煮」

 動物や魚など自然にまつわる作品を多く残した室生犀星の詩に「浅蜊のうた」というのがあって、感じ入る。

お前の兄さんはといへば
蛤だとこたへる。
そんなら蜆は孫かとたづねると
うんといふ。
兄弟けんくわはめつたにしないが
浅蜊も蜆も
深い海の中にはついて行けない。
兄さんの蛤だけは、
けふも深いところであくびをしてゐる。


 この詩にあるように、アサリは干潮時に干上がるような砂地に棲息し、ほとんど移動をしない二枚貝であるのに対し、ハマグリは貝から粘液を吐き出しながら海を漂い、気に入ったところに移動するといわれている。潮干狩りでアサリが易々と捕まり小さな網に放り込まれている間、兄さん格のハマグリは少し沖の深いところで暢気に欠伸をしているというわけだ。
 さて、貝塚などの遺跡からも察することができるように、人は比較的簡単に手に入る貴重なタンパク源として、二枚貝を長年にわたって食料としてきた。もちろん暢気に欠伸をしていたはずのハマグリ(やホンビノス貝)もアメリカ東海岸の家庭料理「クラムチャウダー」に代表されるようにしっかりと食されている。日本の二枚貝といえばアサリが主流だろうか。様々に料理され、愛されている。
 このご時世、潮干狩りにも行けないので、生きたアサリを買ってくる。塩水につけて砂と塩を吐かせる。貝がもそもそと動いている。さらに水で洗う。そしてひとつひとつ貝を剥き、身を取り出していく。少しばかり根気のいる作業も、室生犀星の詩でも教えながら、我が子と並んでやればそれが楽しい。
 できあがった甘辛い時雨煮は生姜の風味が効いていて、子どもにとっては「大人の味」がすることだろう。それでも、こんな体験を通して子どもは佃煮が少し好きになる。ささやかな成長を、ひとつひとつ、数えるように歓ぼう。

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「アサリの時雨煮」
■材料
アサリ(殻付き)1kg、生姜1かけ、酒100cc、醤油大さじ5、みりん大さじ3、砂糖大さじ2
■作り方
1)アサリは塩水に浸けて砂出し、塩抜きをする
2)1のアサリを流水でよく洗い、鍋に入れ、酒を加えて蓋をして酒蒸しにする
3)3〜4分したら火を止め、口の開いたアサリを取り出し冷ます。煮汁は捨てずにとっておく
4)アサリの殻を持ち、ティースプンなどですくい身を殻からはずし、小鍋に入れる
5)4に生姜の千切り、醤油、みりん、砂糖、煮汁150ccを加え中火で10〜15分ほど汁気が無くなるまで煮る

海の博物誌自力で世界を飛び回る渡り鳥

 渡り鳥は、長い航海で頼もしい友になるかもしれない。「宝島」の海賊のジョン・シルバー船長も航海で困った時は、鳥に話かけていた。彼らは風を読み、地磁気を感じ、時には漁や狩りをしながら目的地をめざす。
 飛行時の渡り鳥は、逆V型の隊列をとり、空気抵抗を抑えて無駄な体力の消耗を防ぐ。1番苦しいポジションであろう先頭はローテーションで分担する。初めての渡りでは3分の1以上の鳥が極度の疲労により命をおとす。そんな過酷な体験を経て、力を身につけていくのだという。
 もちろん、渡り鳥は長時間の飛行に活かすことのできる先天的な身体機能も備える。たとえば半球睡眠とよばれる、片目を交互につむって脳を休められる能力。こんな能力で、オオソリハシシギは9日間飛び続けてアラスカからニュージーランドまで行き、キョクアジサシは北極圏から南極大陸まで約80,000km以上を毎年飛行し、生涯で地球と月の3往復分を飛行するといわれている。

Salty Log〜ステイホーム編雨の日の漂流日誌

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開高健の直筆現行版「オーパ!」とそれに続く「オーパ!オーパ!」の各編

 以前にもSalty Lifeで紹介した開高健の直筆原稿版「オーパ!」(集英社)を本屋さんの通信販売でふたたび買い求めました。どうしても次の一文を開高健の直筆で読み直したくなったのです。
 「何かの事情で野外に出られない人。海外へ行けない人。日頃書斎にすわりこんでいる私にそっくりの人たちのために私は書く」

「オーパ!」と「雨の日の釣り師のために」

 あらためて巻頭言を目に焼き付けたあと、直筆原稿版を横に置き、文庫本の「オーパ!」を久しぶりに手にとって読みました。実際に発刊された「オーパ!」の巻頭言は、当初、開高健が書いた原稿とは少し異なっています。「鳥獣虫魚の話の好きな人、人間や議論に絶望した人、雨の日の釣り師……」が開高健本人に似た人として付け加えられているのです。まさしく、いまの状況にいる私たちがブラジルへの、アマゾンへの、パンタナルへの旅へと誘われているような気がしてきませんか。
 芥川賞作家であり、その審査員まで務めていた作家の紀行文の質の高さについて、ここで語るのも野暮な話です。でも、やはりその表現力や知識には感嘆するばかりです。そしてそれでもなお、そんな開高健にとっても、この旅は「オーパ!」(ブラジル人が驚き、感嘆したときに発する言葉)の連続だったのです。旅と釣りがなせる奇跡なのだと思います。
 この書の連載が集英社の「プレイボーイ」誌に掲載されてから40年以上が経っています。それでも読み進めていると、いまも生きている開高健と一緒に旅をしているような気がしてきて、巻頭言の通り「これはお前のために書いたのだ」と開高健に励まされているような気分になってきます。と、そこまではいいのですが、次第に家にじっとしていられなくなってくるので、このご時世、読むのなら覚悟して読まれるべきかもしれません。
 開高健はこのほかにも“自分と似たような人”のために、本を出しています。タイトルは、ずばり「雨の日の釣り師のために」(TBSブリタニカ)。こちらもその書名の通り、何らかの事情で釣りに行けない人のために、開高健がデイヴィッド・パウエル、ガレス・パウエル父子による釣り文学のアンソロジー「The Fisherman’s Bedside Book」を元に自身が選んだ5作を加えて再編した釣り短編集です。

潮気を絶やさぬために


 冒頭に収められているのはゼーン・グレイの「一日で七匹のカジキ」です。ゼーン・グレイはアメリカの西部劇小説の人気作家でしたが、カジキ釣りに覚えがある日本人は、むしろ大物釣りのために世界を駆け回っていたアングラーとして記憶しているのではないでしょうか。この「一日で七匹のカジキ」はそんな自身の体験記です。
 作品はカリフォルニア沖、チャンネル諸島のサン・クレメンテ島の描写から始まります。それが実に良い。島の美しくも異様な佇まいの描写は、これから起こる海での特異な出来事を予感させます。この島から沖に出たゼーンたちは、海が放つただならぬ気配を感じ取り、ゼーンの兄にアングラーの役を託します。ひとりで何匹のカジキが釣れるか、その記録に挑戦するわけです。次々とカジキが表れても、ゼーンは決して兄と役割を交代しようとはせず、メイトに徹します。そして兄は実際に7匹のカジキを釣りあげます。船上の一挙手一投足、またカジキがティザーをめがけて走るシーンなどは、自分が海にいて、それを目の当たりにしているかような錯覚を与えます。特に7匹目のカジキをフッキングしてからは迫力そのもの。驚愕ばかりでなく恐怖すら味わいます。編集子は映画の「ジョーズ」を初めて見たときに味わった時と同じぐらい「恐ろしい」と感じました。そして実際に洋上において、いっぱしの、新たな経験を積んだような気になってしまいました。
 屋内に身を置きながら、ここまで感情移入や臨場体験ができるのですから読書も捨てたものではありません。そもそも「Salty Life」も、そのようなコンセプトの元に生まれたメディアであったことを今さらながらに思い起こすことができました。
 さて、こんな時期に、読書以外に何か楽しめることはないでしょうか。いろいろ思い出して、押し入れや引き出しをまさぐってみました。思えばこんな時のために大昔に買っておいたシート(ヨットの操作用のロープ)や、旧友からもらったままメンテナンスをしていなかった古いフランス製のスピニングリールなどが「私と遊んで!」とばかりに飛び出してきました。
 まだ、少しばかり肌寒いけれど、リゾート気分でベランダにサマーベッドを持ち出し、冷たい飲み物を傍らに置きつつ、ロープワークのレパートリーを増やしたり、道具のメンテナンスに励んだり。外出せずとも楽しみはまだまだ作ることができそうです。そして実践しようと思います。体に染みこみつつある、わずかな潮気を抜かれたくはありませんから。

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「雨の日の釣り師のために」は開高健が選んだ35編を収めた釣り文学の短編集。ヘミングウェイも収められている。なお、ヘミングウェイの「老人と海」は小説というより漁師・サンチャゴの名言集としても活躍。どのページから開いても楽しめる
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冷たい飲み物でも作って読書もいい。来たるべき日に備えてボートやセーリングのことをあれこれ夢想するのも楽しい。グラスの向こうにそんな風景が浮かんでくる

海の道具名も無き逸品「シャックル」

 見たことはあるけど名前は知らない。そんなアイテムは巷に数あるが、シャックルもそんなものの一つだろう。
 シャックルの形状を説明しよう。U字型をした鋳物やステンレスで作られたのが本体で、U字の開いている部分に左右にネジ山を切り、本体同様の素材で造られたネジを締め込んで塞ぐ。用途としては、チェーンや、スプライス加工したロープなどを繋ぎ止めるのに使うことが多い。
 日常生活で目にするとしたら、駐車場などでチェーンの固定に使われているところだろうか。ボートではアンカーとアンカーチェーンを繋ぎ止めるのに用いられている。
 シャックルのネジは特殊な形をしていて、ネジ山は、両端にだけ切られていて、真ん中はネジ穴よりもわずかに細い棒状になっている。そして片方は平べったくなっていて、丸い穴が開いている。平べったくなっているのは、指でつまんでネジを回せるようにするためだ。そして丸い穴は、そこに棒を差し込んで更にきつくネジを締めるためにある。もちろん塩噛みして固着してしまったネジを回すときにも有効である。
 ヨットではいたるところでシャックルを使っているため、ヨットマンたちはシャックルキーというステンレスの鉄板をカッティングした、シャックルを手早く開け閉めするツールを身に着けている。
 比較的簡単にチェーンなどを固定でき、外れにくく、なおかつ外す気になれば外し易い…そんな相反した機能を実にシンプルに達成しているシャックル、ぜひこの機会に名前を憶えてあげてください。

その他

編集航記

冒頭でもご紹介しているとおり、お子様向けのマリン雑誌「キャプテンキッド」を“付録”として発行しました。リンク先のeBookにてご覧いただけます。実は3月のボートショーにお越しいただいたお子さまたちに「もっとボートのことを知ってほしい、好きになってほしい」と願ってSalty Lifeの編集チームが制作し、会場ではチームのお姉さんたちがお子さまたちに直接お渡しする予定でした。残念ながらその場は失いましたが、きょうの「こどもの日」にあわせてeBook化してご覧いただけることになりました。親子でお楽しみいただけるだけでなく、大人の方が読んでも新たな発見があるかもしれません。どうぞお楽しみください。

eBook「キャプテンキッド」:https://www.yamaha-motor.co.jp/marine/life/salty-life/captainkid/

最後になりますが、新型コロナウィルスに罹患された方々と、感染拡大によって生活に影響を受けられている皆様にお見舞いを申し上げますとともに、医療機関や介護施設、公的機関等、感染抑止のために働かれている皆様に感謝いたします。


(編集部・ま)

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