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Salty Life No.204

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

北海道や小笠原を除く日本列島の6月といえば梅雨の季節。
そしてその6月の中旬を過ぎると沖縄地方を皮切りに、
西から東へ次々と梅雨が明けていきます。
昨年の東北北部の梅雨明けは7月も最終日になってからのことでしたが、
今年はどうでしょう。
夏は海難事故が目立つ季節でもあります。
特に真夏が待ち遠しく感じられるこの季節、
今のうちに安全についても意識づけておきたいものです。
「Salty Life」No.204をお届けします。


Monthly Column島のある海

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ブリスベン沖、モートンベイに浮かぶ島へデイクルージング。無人島のビーチで楽しむ釣り

 沖ゆく船乗りにとって、島とは険しくもあるが、安心を与えるものでもあり、また、目指すところでもある。長い航海を経て、水平線の向こうに島が見えたときの安堵や興奮は、小さなプレジャーボートで遊ぶ我々にとっても同様であるし、太古の航海者たちにとってはなおさらだったろう。
 さて、オーストラリアは島というより大陸である。地図を眺めるとあまりにも壮大なものだから、見落としがちになるが、周囲にはそれでも小さな島があり、ボートで遊ぶ人々は、やはり島を目指す。
 大陸の東岸、クイーンズランド州のブリスベンからトレーラーにボートを乗せて郊外のクリーブランドへでかけたことがある。運河を張り巡らせた一帯にはオシャレな家々が並んでいて、その目の前にはポンツーンにマイボートが繋がれている。オーストラリア沿岸では決して珍しい光景ではなく、サンシャインコーストやゴールドコーストでもお馴染みだ。アメリカをはじめ、いまや世界中で見られる、それでいて日本ではなかなか見ることのできない、少しうらやましい光景である。
 そして、こうしたハーバーには必ずといっていいほど、誰もが利用できるスロープを備えた公共のボートランプがある。これもオーストラリアやニュージーランド、北米では当たり前の光景だけれど、もしも日本にそんなうらやましいインフラが整っていたからといって、どれだけの人が利用するだろうか。ボートやヨットで遊ぶには実はそれなりのパワーが必要だ。自分で車を走らせ、ボートをスロープから降ろし、一日中遊んで、また車でボートを引き上げる。ボートを洗って、帰宅してガレージに戻して。遊びとはいえ、重労働である。そんな労力を厭わず、それでもそれを楽しいと感じ、海に出て行きたいというような人種は、実は、日本では希有な存在だ。トレーラブルに限ったことではなく、充分に整備されたマリーナにおいてさえも。
 そして、一握りの人たちだけが、その労力の向こうに何があるのか、どんな幸福が待ち受けているのかを知っている。
 クリーブランドからボートを降ろして、三つの大きな島で外洋と隔てられた、モートン湾に浮かぶピールアイランドを目指した。美しい無人のビーチにボートを停めてフィッシング。そして、小さな入り江でシュノーケリング。自分たちの声の他に聞こえるのは、小さく打ち寄せる波の音、鳥のさえずり、そして、静かに流れる風の音。海のあらゆる場所で「楽園」を感じる。特に島ではそれを強く感じる。このことは日本においても変わらない。これがあるから、我々は何を差し置いてでも海に出る。
 地元で遊んでいる人は気づいていないかもしれないが、たとえば瀬戸内海のアーキペラゴ(多島海)は世界でも希有な素晴らしいクルージングスポットである。内海の島の数は727。その島々を訪れなくとも、島と島の間をすり抜けるようにボートを走らせるのはまことに楽しい。そのほか、日本には島が至る所に浮かんでいる。
 この夏、皆さんはどの島を目指すのだろうか。

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真夏はすぐそこ。島での心地よい開放感に身を投じたい
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アフターボーティングに待ち受ける「労働」さえも楽しみたい
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚南国情緒たっぷりのサウンド全開「ハワイ・チャンプルー」

 久保田麻琴はワールドミュージックで知る人ぞ知る存在だ。70年代の音楽誌ニューミュージック・マガジン「今月のレコード」の再編版では、辛辣批評で知られた編集長、故・中村とうようさんが久保田麻琴について「僕は大衆音楽で最も大切なのは、乗りだと思っている。知的な音楽家だが、体に乗りをもっている」と文句なしに認めていた。
 久保田麻琴はもともと伝説のサイケデリック・ロックバンド「裸のラリーズ」でギタリストとして活躍。ロックの洗礼を受けるべく渡ったアメリカで、地域や民族に根付く土着的なルーツミュージックに目覚めた。
 そして帰国後に「久保田麻琴と夕焼け楽団」を結成。2作目として1975年に発表したのが本アルバムである。はっぴいえんどやYMOの細野晴臣がプロデューサー兼ドラマーとして参加した。沖縄の方言でごちゃまぜという意味のチャンプルーがタイトルにある通り、沖縄音楽やハワイアンといった南国的エッセンスをチャンプルー。今では沖縄の現代民謡「ハイサイおじさん」のカバーや、トロピカルハワイアン「ムーンライト・フラ」、レゲエブレイクス「上海帰り」など多種多彩なサウンドがとても楽しい。
 普通、色々なスタイルの音楽を並べただけでは、アルバム全体はチグハグする。しかしこの作品では、天性の乗りの良さと巧みなサウンドメーキングによって全体に見事な統一感のあるハワイ調べになっている。
 「久保田麻琴と夕焼け楽団」は後に「サンディー&ザ・サンセッツ」に改名して90年代まで活動した。オーストラリアやインドネシアではヒットチャート入りを果たすなど国外での活躍がめざましい。また久保田自身は裏方としてTHE BOOMや国外アーティストのプロデュースワークで活躍。さらに、近年は阿波踊りや宮古島の民謡などを国内外に紹介するなど、ワールドミュージックの重鎮になってもとどまることなく活動を続けている。
 なお、「ハワイ・チャンプルー」は、本人による最新デジタル・マスタリング付きデラックスエディションの廉価版が6月17日に発売される予定。

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「ハワイ・チャンプルー」
レーベル:SOLID
アーティスト:久保田麻琴と夕焼け楽団
参考価格:¥2,750(税込)

船厨鮮やかな朱色で還暦を祝う「伊勢海老のガーリックソテー」

 イセエビ(伊勢海老)は古くから日本人にとって「祝い」の食材とされてきた。武将をイメージさせるその姿形は勇ましく、語呂合わせで「威勢がいい」ともされ、熱を入れると鮮やかな朱色に変色するので華やかさを演出してくれる。おまけに蒸したり焼いたり、刺身でも、食感と味は素晴らしい。
 漁獲方法は刺し網がほとんど。日中から夕方にかけてイセエビの隠れていそうな岩礁域に目の細い網を沈め、一晩おき、明け方に回収する。すると網に絡まったイセエビが次から次へと上がってくる。
 イセエビの名の由来は、その名が示すとおり、伊勢地方の名産として親しまれてきたことにある。実際にいまでもイセエビの水揚げは三重県が全国一を誇る。が、千葉県も負けてはいない。三重県に肉薄する漁獲量があり、千葉・外房産のイセエビは三重県産と並び日本全国で親しまれている。
 さて、ヤマハ発動機のマリン事業が今年で60周年を迎えた。人間でいえば還暦という節目である。マリン製品としてヤマハがはじめて世に送り出したのはP7という船外機。実はこの船外機はあまり評判が良くなかった。ユーザーから認められるようになったのは、その次に開発したP3という船外機であった。このP3のターゲット市場となったのが、とあるイセエビ漁が盛んな外房の漁村であった。当時のヤマハの技術者たちは足繁く外房の漁村に赴いては漁師たちと会話を重ね、クレームに応じていった。「音がうるさい。さすがに楽器屋の造る船外機だ」とからかわれ、気性の荒い漁師からは「エンジンが掛からず漁に出られなかった。どうしてくれる」と怒鳴られ、目の前で船外機を海に捨てられたなどというエピソードも残っている。その積み重ねがあって、その漁村の船外機は当時のヤマハ船外機のカウリングカラーであった「黄色」に染まっていったのである。
 目の前の真っ赤なイセエビを見つめながら、今年迎えることとなったヤマハの船外機の“還暦”に思いが至るようになったら、それはもう、かなりマニアックなヤマハファミリーの一員である。そうでなくとも、海で働くすべての人たちに感謝の思いを抱きながら馳走にあずかるのは悪い話ではない。
 これから産卵期を迎えるイセエビは多くの地域で禁漁期間となる。食いしん坊にとっては残念ではあるが、それでも鮮度を保持した冷凍物などが手に入る。

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「伊勢海老のガーリックソテー」
■材料(2人分)
イセエビ一尾、ニンニク2かけ、オリーブオイル適宜、塩と胡椒適宜
■作り方
1)イセエビを縦、横に4等分に切り、さっと湯に通し、水分を取る。
2)熱したスキレットやフライパンに多めにオリーブオイルをひき、スライスしたニンニクを入れ、香りが立ったらイセエビを入れる。
3)多めの塩、胡椒を振ってさらに炒め、皿に盛り、フライパンに残ったオリーブオイルを回しかける。

海の博物誌酒も砂糖もなるヤシの木

 南国情緒あふれるヤシは、地球上に3000を超す種をもつほど多様性に富む。国内には6種が自生し、北海道で厳しい寒さを凌ぐ種も生息する。国外のヤシでは、サトウヤシが、マレーシアを原産とする砂糖や、酒のとれる有用な種として知られる。
 サトウヤシの花が開花する直前の幹を切り落とすことで取りだせる樹液が、砂糖や酒の原料。カルピスのような白さと味わいをもち、約15%の糖分を含むので熱すれば茶色の砂糖を残す。また天然酵母をもつので自然に発酵して、1日置けばビール並みのアルコール度数に達する。さらに3~4日置けばアルコール度数も上昇するので、それを蒸留すればヤシ酒となる。ヤシ酒はかなりきついので、レモンや砂糖を混ぜショットグラスでグイっと飲むのが良い。
 また、サトウヤシの若葉は野菜の代用として食べられるだけでなく、乾燥すればタバコの巻紙になる。残った繊維は漁業用のロープに、さらに屋根葺き材や箒にも活用する。種の中身もうまく調理すれば煮つけとしていただけるらしい。多少ほったらかしにしても平気に育つので、当地の農家は手軽に庭先へ植えている。なんとも手軽で役立つヤシなのだ。

Salty Log〜今月の海通いDIYで潮気を取り戻す

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自作のロープワーク練習台。どこにでも持ち運べるようにした

 ソルティライフ編集チームも例外なく不要不急の外出自粛を求められ、悶々としていたゴールデンウィークの間に、思い立ってこれを造ってみた。名前は知らない。免許教室やシースタイルのイベントなどで見かけたことのある、ロープワークの練習台である。

こんなときシーマンシップが試される!

 たとえば家族でボートに乗るとする。帰港時になってフェンダーを取り付け、舫いロープを準備する。港に近づくといったん船足を止め、ステアリングから手を離し、入港準備をする。もちろん、フェンダーやロープを出しっぱなしにしておくという手もあるが、それを潔しとはしない。デッキはなるべく広く、フラットに安全に使いたいものだし、たとえば釣りをしているときに、ルアーのフックを出しっぱなしの舫いロープに引っかけてしまい、外すのに一苦労なんて経験は誰にでもあるだろう。本来、デッキは片付けておくのが基本なのだ。
 さて入港準備におけるフェンダー取り付けや舫いロープの準備といった仕事は、そもそも船長ではなくクルーがなすべき仕事である。そんなこだわりを持つ編集子は、プライベートでボートに乗るときは、それらの作業を家族に任せる。いや、任せたいのだが、実際は一ヶ月もするとやつらはボーラインノットどころかクリートにロープをかけることもハーフヒッチも忘れていることがあるのである。というわけで、せめて初心者を脱し、半人前ぐらいになってほしい、基本のロープワークぐらいは目をつぶってでもこなせるようになってほしいと願って、この練習台の制作を思い立った。
 大きめのクリートがひとつあれば、たいがいの結びは練習できそうだ。でもどうせなら臨場感を出したい、楽しく練習したいと願って、少しばかり贅沢をしてみた。クリート、ボラード、肝心のロープは船具店より通販で入手。リングとレール、そして土台となる角材はホームセンターで購入。
 よく晴れた日に、庭で作業をした。角材にサンドペーパーをかけ、ニスはチーク調のカラーを選び、三度塗った。そしてクリートやらボラートを取り付ける。このあたりの作業はシーマンシップの一部であって、実はクルーとしての資質が試される。手先が不器用なもので実は不安だったが、なかなかの出来映えとなった。
 脚はつけずに角材の下にマットと滑り止めを貼り付けた。これでどこにでも持ち運べる。それどころか、ちょっとしたインテリアにもなる。あとは、本当にただのインテリアにならぬよう、訓練に勤しみたいところである。
 6月になって、シースタイルも再開し、半ばクローズ状態となっていたマリーナも本格的に稼働し始めている。真夏を迎える頃には、ボートに乗せた奥さんやお子さんが当たり前のようにクルーワークをこなす姿を拝めるかも知れない。おすすめのDIYである。

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材料の一部は船具店の通販で。賄えなかったモノはホームセンターで入手
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晴れた日は屋外に持ち出してランチタイムに練習!
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この機会に、様々な場面を想定したロープワークも身につけたい

海の道具自慢したいわけではない「フィッシングフラッグ」

 フィッシングフラッグなるものを掲げて航行しているボートを見かけたことがありますか?と言われてイエスと答える方は、そうめったにはいらっしゃらないだろう。そもそもそんなものの存在さえ、知らない方がほとんどだ。
 このフラッグ、法律で定められたものではないが、カジキ釣り大会などでは準備することが義務付けられている場合が多い。
 まずもってどんなものかというと、カジキやシイラなどの魚が旗1枚に1種類描かれている。もしくは「Fight」などと書かれているものもある。
 大概は他船から目につきやすい高所に掲げられているはずだ。
 勘のいい方ならここらで気づくかもしれないが、そう、旗に描かれた魚がヒットして、今ファイト中であることを示しているのだ。
 カジキなどが掛かると、力の強い個体だと4、500メートルもラインを引き出してしまう。もしそんな時に獲物とボートの間を他船が横切ってラインでも切られた日には泣くに泣けない。そのため、近辺にいる船舶に対して、「今、獲物がかかってファイト中ですから近寄らないでくださいね」
 とアピールするために掲げるのである。
 そうは言ってもそれが例えばタンカーなどの本船であれば、急に舵を切ったりできないので諦めるか、ファイト中のボートのほうが遠ざかる工夫をするしかないのだが、ボートだったら極力遠ざかってあげてほしい。
 決して大物カジキを仕留めたことをひけらかすために掲げているわけじゃないので、もし見かけても、野次馬根性で近寄ったりしないようにしてくださいね。

その他

編集航記

長い自粛期間中に、ある旅行会社からメールが届いていました。そこには「○○さん、また旅行できる日がきっときます」「世界は変わらずそこに」という簡単なメッセージがありました。ありきたり?そうかもしれません。でも、その言葉がとても素敵に思えて不思議と元気が出てきました。変わらずそこにありながら、世界は変わりました。ところが海は本当に変わらずそこにあり続けています。海での日常が少しずつですが戻りはじめようとしています。


(編集部・ま)

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