Salty Life No.206
ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。
日本の夏と言えば台風がつきものですが、
今年は今のところ少なく、7月の台風はゼロ。
これは観測史上初のことだそうです。
一方で日本列島は長い梅雨と大雨に悩まされるところも。
8月がやってきました。
短い期間になりそうですが、日本らしい美しい真夏を過ごせるといいですね。
「Salty Life」No.206をお届けします。
Column●海人たちの夏休み
キャビンの棚●シティ・ポップの世界的なブームは今夏も続く「SEA IS A LADY」
船厨●煮干しの価値観が変わる「煮干しのオリーブオイル漬け」
海の博物誌●直近10年で60%増の日本の世界遺産
海の道具●頭の隅っこで「アンカーローラー」
Yamaha News●夏本番!トーイングプレイの基本をおさらい/操船が不安な方へ。マリン塾で自信を取り戻しませんか?
今月の壁紙●「Salty Life」オリジナル壁紙
Monthly Column●海人たちの夏休み
- 晩秋からはこの美しい海域がモズク養殖場となる
那覇からレンタカーで島の中部に位置する運天港へと向かった。そのまま1日2便あるフェリーに乗って、80分ほどすると伊平屋島に着いた。あちらこちらの島で見かける平凡なフェリーターミナルである。特徴があるとすれば、その建物の屋根が煉瓦色の島瓦で彩られていたことだ。フェリーから人と車が吐き出されると、港はあっという間に人気が無くなった。もともと観光客も宿泊施設も少ない島である。真夏だというのにとても静かで、なんとも居心地が良さそうだ。
この島の産業はサトウキビを中心とする農業、そして漁業である。漁業はモズク養殖が盛んだ。そして多くの島育ちの若者がモズク養殖にいそしんでいる。
この島で海人(うみんちゅ)の嘉納直彦さんに出会った。伊平屋ではみんなが下の名で呼び合うが、嘉納さんは直彦ではなく、みんなからサブローと呼ばれている。親戚のサブローさんに似ていたことから、小学生の頃から当たり前のようにサブローと呼ばれるようになった。なんとも失礼な話だが、サブローさんはもう達観していて「サブロー」の由来を楽しそうに話す。
サブローさんは伊平屋でも乗りに乗っているモズク養殖家のひとりである。8年ほど前から父親と本格的にモズク養殖に取り組んできた。水揚げは島でもトップクラスであるが、その成功を独り占めにするようなことはしない。モズク養殖に興味を抱いた若手や仲間を船に乗せ、仕事を手伝ってもらいないがらノウハウを伝え、独立を促していく。こうして独立した若者がサブローさんの周りにはいまも集まってくる。
モズク養殖は毎年11月ごろから始まる。収穫は4月から繁忙期となり、6月にはほぼ収穫が終わる。網も回収し終えたこの季節は、サブローさんたちにとって長い長い夏休みなのだ。そして、この日、サブローさんは「ほんの小遣い稼ぎだけど」といって仲間を自分の船に誘い、潜水漁へと出かけた。
筆者も楽しめるようにとサンゴのきれいな場所へと連れて行ってくれたが、実際に魚が獲れるのはもう少し深いところ。そのポイントに移動し、水中銃を手に潜っていくと、若者たちは次から次へと魚を獲ってくる。仕事とはいえ、仲間と一緒に魚を捕まえるという行為はとても楽しいのである。
その日の夕餉は仲間のひとりが突いてきた見事なイトフキフエダイの活けづくりとなった。泡盛を酌み交わしながら色々な話を聞いた。モズク養殖に関しては、これまで知らなかったことも多かった。
モズク養殖は網を海中の苗床に設置する。日光が十分に届く白い砂地の海底で光合成が促進されてモズクが育つ。さらに生育の状況によって網を少し水深のある場所へと移動させる。網を設置する作業は実は潜水して、手作業で行うのだという。
このとき、さきほどまで一緒に潜水漁をしていた若者のひとりが「実はこの前、死にそうになってさ」と話を始めた。
天候の変化が予想されたが、もう少し大丈夫だろうと潜って作業をしていたら、急に海が荒れ出した。気づくと自分の船が走錨していた。「アンカーが水中に浮いたまま船が流れていた」という。慌ててアンカーを水中で追いかけたがまったく追いつけない。諦めて浮上してみると海は大荒れで陸も見えない。船はどんどん流され、遠ざかる。手に入れたばかりの新造船だったがそちらは諦めた。エアータンクはもちろん、身につけていた潜水機材を外し、うっすらと見え始めた島へと向かって荒波の中を泳ぎ始めた。他に通る船を探したが、近くで作業をしていた他の船はすべて港に戻っていた。泳いでいる間、何度も死を意識したが、「絶対に諦めるな」と自分を鼓舞し続けた。そして砂浜にたどり着いた。九死に一生を得たが、それでもしばらく脚の震えが止まらず歩けなかった。船は奇跡的にほぼ無傷で回収できたという。
彼の体験は特異だが、その話を笑い、茶化していた仲間たちも、潜水作業中は何度も危険な目に会っているのだという。
この話を聞いたとき、人はそんなひどい体験を経ても、海に戻っていくのだなと感心し、さらに大災害で船や身近な人の命を奪われても再び海に戻っていった三陸の人々のことを思い出した。
根っからの海人(うみんちゅ)は、沖縄だけでなく日本の至るところにいることを思うとき、日本人はやはり海洋民族なのだと納得してしまうのである。
島から戻ったある日、地元のスーパーに出かけたら、山積みされたパック入りのモズクが目に入った。手に取るとどれも「沖縄産」であった。遭難の話を思い出した私には、そのモズクのパックがまるで金塊のように高価に輝いて見えたが、実際にはいつもの通り、数百円の値がつけられていた。
- サブローさんの新しい船に集い潜水漁を行う伊平屋の若者たち
- 潜って獲った魚(フエダイの仲間)を港の近くの居酒屋でさばいてもらった
- 田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。
キャビンの棚●シティ・ポップの世界的なブームは今夏も続く「SEA IS A LADY」
シティ・ポップは70年代から80年代にかけて人気のあった大滝詠一や山下達郎をルーツとする邦楽ジャンルだ。ネットの動画サービスやレコードブームをきっかけに世界各地でファンが増えている。近年は、メジャーな作品では満足できない国外の愛好家も出現しており、マイナーなものから多くの名盤が発掘されている。知る人ぞ知る存在だった亜蘭知子(織田哲郎とともにBeingの初期アーティスト)や間宮貴子(沢井原兒プロデュースでキティ・レコードに所属)のオリジナル盤は10倍以上の高値を記録している。また、湘南サウンドで知られるブレッド&バターの楽曲などは、ヨーロッパのクラブDJからダンス仕様にリミックスされ、当地の若者を楽しませている。あの頃のシティ・ポップは時代や国境を超えても、お洒落でカッコいい特別な音楽なのだ。
角松敏生(としき)もまた海外から注目を浴びる一人である。ボーカリスト兼ギタリストとして知られる彼は山下達郎や竹内まりやもかつて所属したRVCレコードからデビューした。そのため、元はっぴいえんどの鈴木茂や大瀧詠一とユニットを組んでいた井上鑑など錚々たる人物がバンドの脇を固めており、高い演奏レベルも評価されている。またプロデューサーとして、杏里や中山美穂に提供した楽曲は、切ない都会的な空気のある正統派シティ・ポップとして高評価を得ている。
そんな彼がバブル経済の末期、1987年の夏に発表したのが本作「SEA IS A LADY」である。夏や海の空気をストレートに表現したメロディと腕利きメンバーが奏でる音のハーモニーで、「夏の清涼剤」というキャッチコピーの通り、クールなインストとしてバンド世代の若者にも人気を博して10万枚のセールスを記録した名盤だ。
このアルバムの魅力をいっそう高めているのは、編曲や一部の作曲を担当している佐藤博の存在であろう。佐藤博といえば、大瀧詠一、山下達郎から日本最高のピアニストと称され、細野晴臣からYMO参加を打診されたシティ・ポップのレジェンド。11曲目の「SEA SONG」は佐藤の作曲で、角松自身も思い出の一曲にあげている。角松敏生と腕利きミュージシャンの共演による夏の名盤を楽しんでいただきたい。
- 「SEA IS A LADY」
アーティスト:角松 敏生
レーベル:BMGビクター
参考価格:¥2,548(税込み)
船厨●煮干しの価値観が変わる「煮干しのオリーブオイル漬け」
日本料理の出汁になくてはならない煮干しの生産量は長崎県が日本一。全国の3分の一を占めているという。その煮干しの材料となるイワシは敷網という漁法で捕獲される。長崎県橘湾で操業するある漁船は毎日、夜中の1時に出漁する。港からそれほど遠くはないエリアで、魚探とこれまでの実績を頼りにイワシの群れを探し出す。群れを見つけると集魚灯を焚き、舷側から長いブームを利用して張り出した大きな平たい網で群れを寄せ集めて獲る。ライトに照らされた海とデッキはとても幻想的だ。その作業は明け方まで続けられる。
獲ったイワシはその朝、すぐに加工する。漁船の氷層から大量の新鮮なイワシがトラックに積み移され、港にほど近い漁師自前の加工工場に運ばれる。イワシは専用の釜でさっとゆであげられる。長崎県産の煮干しの特徴だ。ゆであげたイワシは一度屋外で水を切り、そのあと、乾燥室に運ばれる。一連の作業には船頭も加わる。作業が終わるのは午前8時過ぎ。そんな重労働を経て、12時間後には煮干しができあがる。
漁獲から水揚げ、加工に至る一連の作業を目の当たりにすると、煮干しに対する評価は一気に変わる。実際にできたての煮干しを口にしてみると、歯触りもソフトで、うま味がある。出汁だけでその役目を果たすのはもったいなくはないか。
手に入れた橘湾産のイワシをオリーブオイルにつけてみた。バケットの上にのせて食べたら、抜群の美味さである。ご飯にも相性がいい。取材でお世話になった漁師にオリーブオイルに漬けた煮干しの写真を添えてお礼のメールをしたら、「こんな食べ方知らなかった。さっそくうちでも試してみる」との返事をもらった。
- 「煮干しのオリーブオイル漬け」
■材料
煮干し、オリーブオイル、ニンニク、赤唐辛子、ローリエ、塩、すべて適宜
■作り方
1)煮干しをフライパンで軽く煎る
2)ジャムなどの空き瓶に煎った煮干しを入れて、オリーブオイルを入れる。分量の目安はオリーブオイル200ccに対して、1かけ分のニンニクのスライス、赤唐辛子1本、ローリエ1枚。塩を適宜。半日ほど漬けて出来上がり。
3)塩は食べる直前に振りかけても。イタリアンパセリを振りかけてもいい。
海の博物誌●直近10年で60%増の日本の世界遺産
世界遺産は未来に伝えるべき貴重な自然や文化材である。世界遺産として登録されるには、その価値を証明することはもちろん、未来に向け継続的に守る仕組みを構築することなど、いくつかの条件と厳しい審査を通過しなければならない。
わが国の世界遺産は、2011年以降ほぼ毎年増え続けており、この10年で14件から、23件と60%以上に増やしている。2020年は「奄美大島・沖縄」と「北海道や青森の縄文遺跡」が登録される可能性があったのだが、昨今の社会情勢により延期された。
水辺にある世界遺産といえば少し前まで「厳島神社」くらいのものだったが、2011年「小笠原諸島」登録から、「三重津海軍所跡」や「端島軍艦島」、「三池港」、「沖ノ島」、「平戸島」と近年激増してきた。
「厳島神社」や「小笠原諸島」を管轄する自治体は、世界遺産登録後の観光客の増加による環境変化に対して、自然と共生する街づくりに積極的に取り組むことで保全に努めている。
海の道具●頭の隅っこで「アンカーローラー」
マリーナなどで見かけるボートの船首にローラーが取り付けられているのにお気づきだろうか。賢明なる読者諸氏のご推察通り、あのローラーはアンカーを降ろす際に、ロープやチェーンなどで船べりを傷めないように、そしてスムーズにアンカーが降りていくようにするためのローラーだ。
漁船などになると、前方に大きく突き出していたりして、俗名“角ローラー”などと呼んでいたりする。もう一つ、横向きのローラーの両サイドに立て向きのローラーが付いているものもある。これは、アンカーを降ろした時、ロープが左右に振れてもロープがスムーズに動くように工夫されていて、三方ローラーという名がつけられている。
たかだかロープの出し入れにそんなに気を使うのかと思われがちだが、これが意外にも重要なのだ。アンカーがしっかり海中に固定されている場合、波や風、潮流によってボートが流されようとする力がロープに掛かるわけだが、ロープは船体のクリートなどに繋がれており、海底方向に引っ張られるので、船体に触れる部分にも相当な力が掛かることになる。特に波の上下による加重は瞬間的なので強大になる。
それらを一点で受ける船体側のダメージも大きいが、ロープの損傷も大きく、あっさり断裂、なんてことにもなりかねない。
なので、ローラーも適度な柔らかさがあるゴム製の物だったり、硬質な樹脂を用いたもの、更には常に滑らかな状態を保つステンレスだったりと、ロープとの相性を考えながら選択することになる。さらに言えば、形状もただの円筒形もあれば鼓のように中央が凹んでいるものもある。
でもまあ、実際アンカーローラーはメーカーがつけたものをそのまま使えば問題がないので、オーナーが悩むことはないのだけれど、そういう気づかいをしながら選ばれた物達だ、ということは、ちょっと知っておいてもらえたら嬉しいかな。
その他
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編集航記
6月の話ですが、滋賀県の琵琶湖でなかなかレアなシーンを目撃したのでお知らせです。3人の大男がヤマハマリーナ琵琶湖を訪れ、ウェイクサーフィンを楽しんでいたのです。3人の大男とはヤマハラグビー部の五郎丸歩、山本幸輝、大戸裕矢の3選手。いずれも日本代表経験を持つラグビー選手です。さすがの彼らも初めてのウェイクサーフィン、「どれどれ苦悩の表情でも拝んでやろう」と悪気を持って見学しました。ところがそこはトップアスリート、あっという間にコツをつかむと、波乗りを大いに楽しんでいました。とにかくまるで子どものように楽しんでいた姿が印象的です。海は、湖は、やはりいいものです。みなさんも挑戦してみてはいかがでしょう。彼らの様子は日本マリン事業協会のマリン情報総合サイト「Boating Japan」(https://boating-japan.jp)で見ることができます。
(編集部・ま)