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Salty Life No.215

ソルティライフは海を愛する方々の日常生活に、潮の香りを毎月お届けするメールマガジンです。

ソルティライフ

初夏です。
日中は半袖のTシャツ一枚で過ごすことのできる日が増えてきました。
海ではトビウオを見かけるなど、少しずつ賑やかになっていきます。
それでも朝晩の気温差は相変わらずで、風はひんやりとしています。
そこがまた気持ちがいいのですけどね。
「Salty Life」No. 215をお届けします。


Monthly Columnちょっと嬉しい内輪の話〜ラグビーと海の仲間たち

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美しいパラオの海での撮影はロッキーが段取りを進めてくれた

 昨年の1月のこと。パラオの美しい海でボートを撮影している最中、我々の乗った撮影用ボートのバウの方から「ザッバーン」と、何か大きな物体が海に落ちる音がした。見ると、男が泳いでいた。暑くて我慢ならず海に飛び込んだのかと思ったが、違った。服を着たまま、靴も履いたまま、ずぶ濡れでデッキに上がってきた男は、「オチチャイマシタ」と照れくさそうに笑った。
 停まっているボートから足を踏み外して落水したお茶目な男は、ヤマハ発動機のOMDO(海外市場開拓事業部)に所属するハビリ・ロッキーだ。2018年シーズンまでラグビートップリーグで活躍していた元・ラグビー選手である。このときは日本からパラオに出張中で、本業の合間を縫って撮影仕事のアテンドをしてくれていた。
 海外出身のプロスポーツ選手が、引退後、社業に携わるのは、ヤマハにとって初めてのケースだという。
 トンガに生まれ、13歳でニュージーランドのオークランドに移住後、友人たちの影響でラグビーを楽しむようになった。来日したのは2007年。
 「来日前にインターネットなどで日本のことを調べました。文化、歴史、侍の精神など魅力的な事柄で溢れていました。期待とともに、慣れない日本での暮らしは大変だろうとも思いましたが、それでも妻と5人の子供たちはこの挑戦に賛成してくれました」
 トップリーグの複数のチームを渡り歩いたロッキーが、最後に所属したチームがヤマハ発動機ジュビロ。日本の生活にも慣れ日本国籍を取得する一方で、引退が視野に入ってくるとその後の生活への不安も感じていたそうだ。
 「リタイアを決めてから、ヤマハをよく知るビジネス専門家に相談したところ、僕のラグビースタイルやエネルギッシュな性格はヤマハ製品の販売やマーケティングに適しているアドバイスされました。そこで、ヤマハで仕事を続けていくことはできないか、チャレンジしてみたいと思うようになったんです」
 ニュージーランドにいるときからヤマハ発動機という会社のことは知っていたというが、実際に働き始めてその印象は大きく変わったという。
 「会社の歴史や製品を知り、そこで働く人たちの情熱に触れ、さらにビジネス以外の活動や取り組みを知って、ヤマハのことがますます好きになりました。まるで恋に落ちたような気分」と話す。
 ちなみにパラオで撮影をした際、ロッキーと同じウイングバックとして活躍し、2010年に引退、チームのマネージャーを経てクリエティブ本部に配属された辻井厚之が撮影責任者として同行していた。


 先月、神奈川県の横浜ベイサイドマリーナで開催されたボートショー会場を歩いていると、ヤマハの陸上ブースに見たことのある顔を見つけた。ロッキーと同じく他のチームからヤマハ発動機ジュビロに移籍し、2016年にヤマハ発動機ジュビロで現役を引退した曽我部佳憲だ。曽我部はこちらを知らないが、スター選手だったこともあり、こちらはよく知っている。我慢しきれず声をかけてしまった。
 曽我部もまた、セカンドキャリアをヤマハでスタートさせた元ラグビー選手として話題となった。研修でインドに渡り、モーターサイクルの営業を経験。そのチャレンジを追ったドキュメンタリーがテレビでも放映された。いい番組だった。その曽我部が、この4月からシースタイルや免許教室を担う東日本営業所のソフト課に配属されたのだという。
 「マリンにはとても興味があるのですが、まだ知らないことばかりです。髙山さんにセーリングの話を聞いて、こんな世界もあるのかと感動しました」と、パリを目指す現役セーラーで、同じく東日本営業所に籍を置く髙山大智を横に語ってくれた。
 曽我部と同世代で、層の厚いバックスの一翼を担っていた越村一隆は、すでにヤマハマリンの西日本営業所でマリンジェットの営業担当として一線で活躍している。そのことを思い出しつつ、ドキュメンタリーで見た、インドの子どもたちとラグビーを楽しむ姿を思い浮かべながら、マリンのソフトの分野で活躍する曽我部を想像し、楽しくなった。


 今年はラグビートップリーグ最後の年。来年からは新しいリーグがスタートし、チームの形態も変わる。そのタイミングで、ヤマハラグビー、日本のラグビーの“顔”でもあった五郎丸歩が現役を引退した。五郎丸もヤマハ発動機の社員を経験し、プロになって退社後も一ファンとしてマリンレジャーに関わりを持ってきた。ボートオーナーであり、家族で海を楽しんでいる。ボートショーのアンバサダーに就任し、マリンレジャーの普及に取り組んでもくれた。琵琶湖でウェイクサーフィンに挑戦する企画に立ち会ったことは記憶に新しい。
 その五郎丸が、引退表明後、一般の方々には目に触れることのないヤマハ発動機の社内報のインタビュー記事で、自身の社員時代の経験について語っていた。
 「プロになって職場(広報)を離れてからも、その経験がヤマハでラグビーをしていく糧になったと感じています。日本代表の合宿などで長く職場を離れることがありました。その間、自分が担当すべき仕事を、嫌な顔もせず引き受けてくれた人たちがいました。自分だけではありません。選手のみんなはそうやって職場の人たちに支えられているはずです」「ヤマハは人を大切にするあたたかいチーム。この風土に自分も刺激と影響を受けてきた。他にはない、そして誇ることができる素晴らしい文化です」
 こんな気持ちを抱いてきたアスリートたちが、「仕事」とはいえマリンレジャーに関わり持っていることが、マリンファン、ラグビーファン、そしてヤマハファンである私にとっては、とても嬉しいのである。

(文中敬称略)

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ヤマハOMDOに配属されたハビリ・ロッキー(中央)と同僚たち/2018年撮影
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マリンに配属後、2週間後に開催されたボートショーに立ち会った曽我部(左)。ヘリーハンセンが似合う! 右はセーリングチームの髙山大智
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ウェイクサーフィンに挑戦する五郎丸。引退後もマリンレジャーを楽しみ続けて欲しい
田尻 鉄男(たじり てつお)
学生時代に外洋ヨットに出会い、本格的に海と付き合うことになった。これまで日本の全都道府県、世界50カ国・地域の水辺を取材。マリンレジャーや漁業など、海に関わる取材、撮影、執筆を行ってきた。1963年東京生まれ。

キャビンの棚許されざる恋の果てに「海鳴り」

 江戸時代、不倫は重罪で極刑にもなった。そんな許されざる愛に溺れた男女の物語である。
 主人公は、紙問屋を営む小野屋新兵衛。一介の仲買人から江戸の問屋に成り上がった四十六歳の謹厳実直な男である。社会的にはそれなりに成功したのだが、これまでの暮らしぶりで、妻や子と微妙な関係が続いていて、家庭には冷めた空気が漂っていた。また、身体の支障が、続けざまに各所にはっして、新兵衛は老いを感じるだけでなく、その先にある死さえ意識するようになっていた。骨身を削り生きてきた果ての中年の危機だった。
 そんな折り、新兵衛はひょんなことから同業の妻おこうと知り合う。不倫は大罪であることは知りつつも、彼女の優しさや美しさに触れ、深い仲へと発展するのである。
 著者は、藤沢周平。現存する彼の研究団体によると、藤沢作品らしさをあえて1つ選ぶならば、風景描写の美しさだという。読んでいて目に浮かぶ光景、やさしい言葉にこもる暗示や心象、なんとも美しい名文である。本作「海鳴り」には表題の通りに、海や川といった水辺のさまざまな描写を味わうことができる。
 また、新兵衛の四十六歳という年齢は、藤沢にとって記者をやめ、本格的な作家生活に入った特別な年だ。藤沢はこの決断により数多くの名作を生み出し時代小説に新境地を拓いた。一方で道を外した、新兵衛の行く末は如何に。

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「海鳴り」
著者:藤沢周平
発行: 文春文庫(上・下刊)
価格:429円(税別・上・下刊ともに)

船厨臭いか麗しいか「トビウオのくさや」

 春から夏にかけてが旬とされるトビウオ。よくよく考えてみると、船に乗りながらいきいきとした自然の姿を目にすることのできる稀有な魚の一つだろう。とにかく文字通り飛ぶ。よく飛ぶ。文献によると、600メートルも飛ぶ時があるそうだ。気分良くクルージングしている最中に、いきなりデッキに飛び込んできてみんなを驚かせることもある。1人で船に乗っているときなどは、なおさら驚く。先ごろ、単独無寄港世界一周ヨットレースで完走を果たして話題となった白石康次郎さんは、そんな飛び魚を刺身にしてレース中に食べるのだそうだ。新鮮ならばトビウオの刺身はなかなかいける。
 西日本、特に九州地方では「アゴ」とも呼ばれ、出汁に使われることが多い。正月の雑煮、また、日本三大うどんの候補として名高い五島うどんのつゆの出汁にも使われるなど、重宝されている。
 そして伊豆七島の一部、新島や大島でつくられている「くさや」。トビウオはムロアジと並んで代表的なくさやの材料となる。
 くさやは一般的に「臭い」といわれる。その臭さこそが「くさや」の名の由来。汁に一晩漬けて日干しにしたいわゆる干物だが、その漬け汁は、もともと濃度10%のただの塩水だ。それが長年にわたって繰り返し使われているうちに魚のタンパク質などが溶け出して、あのような強烈な匂いを発するようになった、というわけ。
 「臭い」「強烈な匂い」と書いたが、これを「麗しい」「いい香り」と感じる御仁がたくさんいて、少なくとも、筆者の交友関係にある海好きに「くさや」が嫌いという者は見当たらない。
 伊豆大島の波浮から取り寄せたトビウオとムロアジのくさやを水辺に持ち出して、七輪に炭を起こして炙った。ムロアジよりもトビウオのほうが淡泊で食べやすい印象だ。具を使わない白飯の握り飯によく合う。もちろん酒の肴にもぴったりだ。
 近くで遊んでいた小さな女の子が「なんだか変な匂いがする!おさかなの匂いだ!」と、ガキ大将の悪戯を発見した時のように、父親に言いつけていた。
 魚だと判別できるのだから素質がある。どうか将来は、くさやを何食わぬ顔で炙りつつ、美味そうに頬張ることのできる、素敵なボート乗りになってください。

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「くさやの焼き方」
1)一般的な干物と同じく、皮側から焦げすぎないように弱火で7分ほど焼く。炭火で焼く場合は遠火にする
2)裏返して腹側を同じく弱火で約5分焼く
3)焼き上がったら少しさまし、手でほぐしていく。そのまま酒の肴にでも、ご飯にまぶしたり、お茶漬けにしたり。もちろん豪快にそのまま頬張ってもよし。マヨネーズにつけても意外と合う

海の博物誌泳ぎやすいのは海それとも川?

 小学生向けの科学の本に、「海でおよぐと、川でおよぐよりも泳ぎやすいのはなぜですか」という質問があった。
 ご存知のように海は川やプールなどの真水よりも体が浮力を受けるため浮きやすい。「アルキメデスの原理」という流体力学の法則で証明されるように、物体は沈むと、その物体が押し出された水の重さと同じだけ、浮く力を受ける。そのため海の水は、塩が溶けていて真水よりも2.5%ほど重たいので、浮力も大きくかかる。
 卵を使った簡単な実験でこれを証明できる。水の中に浸かった卵に塩を徐々に加えていくと、いずれ卵は浮き上がっていく。
 結局のところ、その本には海と川のどちらが泳ぎやすいかについて明確な答えはなかった。ただ、小学生の水難事故件数を見ると、海は川より事故が少なく、海の方が安全に泳ぎやすいのかもしれない。

Salty Log〜今月の海通いあいの風が幸せ運ぶ、キセキの立山連峰

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念願の「海から見た雪の立山連峰」。キセキだ!

 1年前、出張帰りの3月下旬。金沢から東京へ向かう新幹線の車窓から連山を観た。冠雪があまりに美しく、息を呑んだ。山の名前を知りたくて、急いでGPSを起動する。上手から毛勝三山、剣岳、薬師岳。裾野にかけてドレープを効かせた白いドレスを纏う彼女達の顔は、ほんのり淡紅色だった。反対側の車窓にはクリスタルをまき散らしたようにきらめく富山湾の水面が拡がっていた。
 「彼女達を船上から見たい!」
 そんな願望を約1年間も抱きながら迎えた今日、私は富山県高岡市の日本海マリン城光寺マリーナからYFR-24で出港。立山連峰を湾越しに望むなら、ここがベストポジションなはずと、新湊漁港沖に向かった。街方向から吹く緩やかな風が気持ち良い。
 長期予報で3日間連続して晴れる日を選んだ。初日は霞か黄砂か、晴れてはいるものの彼女達を湾越しに見ることは叶わず。そして今朝は、あわあわとした雲が上空を覆っていた。
 「少し時期が遅かったかな」
 ホテルからマリーナまでの街路に咲いていた、満開の八重桜とチューリップを思い出す。
 午前中は小矢部川の河口にあるマリーナから富山湾に出て、すぐ近くの海王丸パークへとボートを走らせた。
 デッキにたたずみ、連山方向を恨めし気に眺める。日差しに暖められた街から湧く靄は、相変わらず晴れない。
 「少し走らせますか」
 操船をお願いしたマリーナスタッフの松尾さんに促されて、新湊漁港の西防波堤灯台から雨晴海岸沖に向かった。義経岩と女岩・男岩の絶景ポイントの沖を巡航で走り抜けると、あまりの気持ちよさに笑いがあふれてしまう。
 ふと寒さを感じ、北東方向を見る。
 「ツキがありますね、あいの風です」「え?」
 「もうじき立山連峰が湾越しに見渡せるようになりますよ」「え~っ!!」

 “あいの風”とは春先から夏にかけて吹く、冷気を含む風のこと。古く万葉集の時代から豊作、豊漁など「幸せを運ぶ風」として地元のみなさんに愛されているそうだ。
 “あいの風”を感じてから30分もしないうちに立山連峰の神々しい姿が湾上に浮かんだ。街から立ち昇る靄が偏光し、まるで上位蜃気楼のように3,000m級の山々が空を目指して伸び上がっていた。
 「この姿が見たかった。キセキ!」

 立山に 降り置ける雪を
 常夏に 見れども飽かず 神からならし


 都とは異なる赴任地「富山」で自然に触れ、多くの歌を詠んだ家持も、きっとこの風景は格別だったのでは、なんて家持の歌に酔っていたその瞬間、上空から轟音が降ってきた。驚いで見上げると、ブルーインパルスが6本の均等なラインを画きながら西の空へ消えた。翌日に開催が予定されている航空ショーの予行だったようだ。“あいの風”は上空でもキセキを魅せてくれた。立山の雪解け水が育む「富山湾」は最高の遊び場だ。

(ライター:菊地眞弓、写真:編集部、菊地眞弓)

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小矢部川の河口に位置する日本海マリン城光寺マリーナ
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海王丸パークには「世界で最も美しい湾クラブ」へ加盟した記念碑が設置されている
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高低差4,000m(標高3,000m・水深1,000m)の天然いけすで育った絶品「のどぐろ」

海の道具盗んでいいもの「ブロック(滑車)」

 滑車なんて、井戸でさえくみ上げポンプになった今では、日常で目にすることはほとんど無くなっただろう。工事現場でのクレーン車くらいか? だが、ヨットの世界ではまだまだ至る所に滑車は活躍している。
 滑車とは言わず、ブロックかな。ブロックの効果は大きく分けて2つ。一つはブロックを支柱などに固定することで、引っ張る方向を変換させること。簡単に言えば、荷物などを引っ張り上げるのに本来は上にロープを引かなければならないが、天井の梁などに滑車を固定しておけば、下に引き下げることで荷物は上がる。つまり、体重を掛けて荷物を引き上げることができるから楽ちん、というわけ。因みにこれを定滑車という。どうでしょう、物理の授業なんかを思い出したんじゃないかな?
 もう一つが滑車を固定しない使い方で、これはロープの一端を固定し、滑車にくぐらせ、滑車の下にぶら下げた重りを持ち上げると、引っ張る長さは倍になるがその分重さが半減するというもの。こちらは動滑車という。実際、ヨットでは、この二つの作用を組み合わせた文字通り組み合わせ滑車で、少ない力で大きな力を得るのに使用する場合が多い。
 そのため、1個のブロックに複数の滑車が付いているものも用意されている。
 原理というものは理解して使えばそれだけ効率的に有効活用できるのかもしれないが、なに、そんなもの知らなくったって、見よう見まねできちんとやれば、得られる効果は変わらない。幸いヨットの場合、オープンスペースでブロックを使っていることが多いわけだから、いかにも速そうな、とか、きちんとメンテナンスされていそうなヨットのブロックの使い方をよーく眺めて、賢者の知恵を拝借しよう。
 そういう盗みは犯罪ではありません。

その他

編集航記

ボートショー会場を取材していたら、元ラグビー選手の曽我部さんが470級セーラーの髙山選手と談笑していました。なかなかシュールな光景です。聞くと曽我部さんは4月からヤマハのマリン事業本部に配属になったとのこと。本来、編集後記に書くような出来事だったのかもしれませんが、嬉しくなったので、巻頭のエッセイで内容を膨らませてもらいました。はい、いわゆる職権乱用です。曽我部選手は学生時代に日本選手権で社会人のチャンピオンチームを倒したときのチームの司令塔です。何かしでかす男です。たぶん。海で再会できることが楽しみです。


(編集部・ま)

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