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開発ストーリー:AX220

AX220のの開発ストーリーをご紹介します。

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ヤマハ発動機株式会社
マリン事業本部 開発統括部
ボート開発部 製品開発グループ

望月 保志

開発構想:「AS-21」の『刷新』キーワードは『Keep & Change』

「AX220」は、販売やレンタルボートなどを通して、数多くのお客さまに豊かなマリンエクスペリエンスを提供したいという気持ちを形にしたものです。社会的な背景によりアウトドアレジャーへの関心や需要が一層高まる中、市場の声は、ロングセラーで人気を博した「AS-21」の後継としてふさわしい正統進化形モデルへの『刷新』を求めていることが分かりました。

一般的にマリンアクティビティは、「クルージング」「フィッシング」「トーイング」に代表され、新たにボート遊びを始められるお客さまはそれらをちょっとずつやってみたいと思っています。つまり、「多彩にそこそこできるが、専門的に一つのことを極めているわけではない」といった考え方が、不動の開発コンセプト骨子になりました。

大事なことは、多目的モデルとして評価されてきた「AS-21」に学び、変えないこと(良いところを継承しヤマハ小型マルチの正統進化を貫く)と変えること(ライフスタイルに合わせたアップデートと大胆なチャレンジ)の明確化で、その両立が開発の使命だと感じました。

開発秘話:こだわりの3本柱

強 体幹 B.B.(Body Building)

そもそも基本性能にはマルチも専用も無く、『いいものはいい』を追求することが性能の正統進化と考えていました。アプローチは、シンプルで「大は小を兼ねる」「The bigger, the better」といったことわざから定性的にワンクラス上の船体の方がより揺れない、叩かない、被らない、と考えました。そこで、当社比ワンクラス上の船体を履かせた「プロトタイプ」を造り、通常水に触れない空中部分を整理していく手法で「アックスバウ形状」と呼ばれる新船型を作り込みました。水線長や水線幅を拡張させたことが過去に例を見ない改善につながり、徹底した造り込みと合わせて強体幹ボディを生み出しました。特長的な『斧』のような船首形状が凌波しながら勇猛果敢に航海する姿を彷彿させ、「AX」という名の由来の一因となりました。

Ergonomic D.D.(Designed Deck)

お客さまにとって船の扱いを理解しやすいのは360°オープンに見渡すことができ、風や潮の感覚を肌で感じられるシンプルなデッキレイアウトでした。「AS-21」の基本レイアウトを継承しながらも、トイレ区画を左舷側へ移動させドライバーの視程改善とデュアルコンソールでは稀な個室トイレ化の両立を計画しました。また今回、お客さま心理を形にすべく原寸大のモックアップを作り、年齢、性別を超えた数多くのご意見を反映して数センチ数ミリにこだわり抜いた納得の形を造り込みました。お客さまとのコミュニケーションにより、このボートは完成の領域に近づくことができたと確信しています。

C.C.(Construction Conscious)Wake Tower

キャンバスルーフ付きのウェイクタワーの基本機能は日よけ、雨よけをはじめトーイングプレイ時の耐荷重要件が主でした。加えてシェードの重要性と拡張が求められました。ルーフを拡張した上でタワー本体の強度を担保し、かつ従来仕様よりも軽く簡素化するという、相反した開発難題を抱えその創意工夫がフォーカスされました。

開発後記:正真正銘の『刷新』正統進化と昇華へ

「AX220」は、コンセプトを無事達成し、想定以上のバランスでモデルの成立ができたと思っています。ベンチマークとして学ぶべき「AS-21」の良いところを継承しながら時代やライフスタイルに合わせたアップデートと大胆なチャレンジが織り交ざった正真正銘の『刷新』といえるでしょう。”エントリーマルチの完成形に近い”と形容されるほど優秀な「AS-21」をまさに正統進化しそれ以上に期待ができるレベルに昇華したと確信しています。

あえて「AS-21」と比べて「進化した点」は?との問いがあれば、さまざまなポイントをさまざまな視点で時間の限りお話しすることができるかもしれません。「進化」とはメーカーのスペックによるものだけでなくお客さま個々のライフスタイルの数だけ多種多様に「進化」を感じるところが存在すると思っています。一人でも多くの「AX220」ファンに海へ足を運んでいただきマルチな実体験を通してお客さま自身でその「進化」を共感いただきたいです。

私たちは、このモデルによってお客さまのマリンライフをさらに安心・快適な経験に変えることを非常に楽しみにしています。そして、我々開発チームのこだわりがお客さまに必ず届くと信じ、数多くの”いいね!”を期待しています。


ヤマハ発動機株式会社
クリエイティブ本部 プロダクトデザイン部
プロダクトデザイン2グループ

竹野 敦郎

AX220のデザインのアプローチについて

今回、AX220のデザインを始めるに当たって、まずは開発メンバーにてお客さまの使用シーンを想定し実体験しました。クルージング、フィッシング、トーイング…、レンタル艇として、初心者からベテランのお客さままでの、汎用的な使用もあり得るボートだということを考慮すると、「基本性能の向上」こそが最重要課題だとメンバー全員で共有しました。そしてこの「基本性能向上のために何ができるのか?」の問いに開発メンバーで導き出した答えの一つが「水線長を長く取ることでフィートクラスを超えた基本性能を手に入れる」という発想でした。そこから「長い水線長とコンパクトな全長の両立」のために、サイドビューで船首を垂直に断ち切ったいわゆる“アックスバウ”という独特のシルエットが生まれ、さらにはヤマハ独自のバウデッキの有効面積を広げる“スクエアバウ”との相乗効果を狙ったのです。「アックスバウ×スクエアバウ」。この「機能から導き出された独特のシルエット」こそがAX220のデザインのキモです。

ともすれば異質な形状ともなり得る「側面から船首を垂直に断ち切ったアックスバウシルエット」と「上面から見て四角いスクエアバウ」の掛け算でしたが、デザイナーの私は「この機能をデザインの個性として積極的に魅せる!」と主張しました。なぜならこの形状には機能的な強い理由が存在し、理由のある“異質”はポジティブな“個性”となり得ると考えたからでした

AX220のデザインコンセプト

それらを踏まえてAX220のデザインコンセプトは「Simple Beauty」としました。これは「機能から生まれた独特のシルエット」を引き算の美学にて無駄を省いた素の造形の美しさで魅せようとの意図からでした。これにより、スタイリングにモデルコンセプトを明快に表現できると考えたからでした。またこのモデルは、ヤマハのマルチパーパスボートとして長く楽しんでいただけるよう、タイムレスなデザインであるべきとの想いも根底に持ち続けていました。そのために、最小限の美しい線と面のみで機能を形状に表現することを常に心掛けてデザインの完成度を上げていきました。これによって結果的に「新しいスタイリングアイコン」かつ「機能的で普遍的なデザイン」の提案となり得たと考えています。

私は工業デザインにおいてのスタイリングとは、本来、機能と性能の追求の結果として生まれるものだと考えています。そのような観点から言うと、このAX220のデザインプロセスは工業デザインとして極めて理に適った経緯で、明快にデザインを進めることができた稀有な例だと思っています。デザイナーだけでなく開発メンバー全員でデザインを創り上げたとも感じています。
すべての形状はお客さまの使い勝手(クルージング・フィッシング・トーイング)のために考えられデザインしています。使い込むほどにその機能から生まれた美しさを感じてほしいと思っています。

記述の役職は2021年3月当時のもの
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