その他網漁
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
コオナゴ掬い網漁
三重県答志島
一隻に3名が乗船して行うコオナゴ掬い網。船頭、掬い、追い込みが分業されている。写真は濱口さんの息子さんが率いる濱才丸<DX-34G>
紀伊半島東岸、伊勢湾に浮かぶ答志島では、コオナゴ掬い網漁という江戸時代から行われている珍しい漁法が今も引き継がれています。
コオナゴ掬い網漁の漁期は1月から3月まで。一般的にはイカナゴと呼ばれ、答志島では船曳でも水揚げされています。今年58歳になる濱口さんは40年間、海に出ていますが「イカナゴほど面白い漁はない」といいます。
朝の7時前に出航。約1時間船を走らせたところで漁場に着きました。漁場に到着すると濱口さんは前部デッキに設けられたステアリングを操りながら、ゆっくりと海面を見渡しています。そして鳥山を発見するやいなや船をトップスピードに上げ追いかけます。鳥山の下で漁ができるのは先着3隻までなのです。
鳥山の下にはコオナゴの群がバスケットボール大に固まって動いています。濱口さんはそのコオナゴの塊に向かってやおら石を投げ込んでいきます。さらに7~8mの長さを持つ竹竿の先に鵜の羽根を付けたものを塊の下に突っ込み、群をばらさないようにしています。
その間、船は塊を中心に円を描くように走らせ続けます。本来3人が乗り、作業を分担するのですが、濱口さんは息子さんの船と組んで運搬船の役目もするのでひとり。そしこの作業をするのですから大変です。群を逃がさないよう作業を続けているうちに、息子さんの船が到着。こちらは3人が乗り込み、濱口さんの船と対角線上に位置を取りながらおなじようにしてコオナゴのむれをまとめ上げていきます。
最後はロープを船にくくりつけた直径2メートル近くある大きなタモ網で、船の推進力を利用しながらコオナゴの塊を一気に掬い上げます。
これが一連の作業ですが、ある程度コオナゴが一杯になると荷捌き施設のある答志島の港に一度戻ります。
江戸時代から比べると、無道力から焼き玉、そしてディーゼルへ、さらに木船からFRP船へと進化しているものの、漁具と漁法自体はまったく変わっていません。それでもコオナゴは豊富に獲れ、漁家にとっても大きな収入源となっているのです。
コオナゴ掬い網の道具。石は島内の海岸で集めたもの。鵜竿は自作。羽根と竿の接合部はひも状になっているので、水中では自然な動きをする。
コオナゴ掬い網の竿は、竹かグラスファイバーが用いられていた
タモ網でコオナゴを掬う瞬間。タモの丸い縁と船の舳先はロープで繋がれ、船の推進力を利用して一気に獲物を掬い上げる
運搬船を兼ねる濱口さんは通常3人で行う作業を一人で行う。今回のように荒れ気味の海では大仕事だ
荒れた海の中でも高い復元力で抜群の安定性を見せる<DX-34G>