その他網漁
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
シラス二艘曳き漁
静岡県榛原郡
網を揺すりながら引き揚げる。うねりが大きい時は危険が伴う作業だ
春先から年明けにかけて行われる静岡でのシラス漁は伊豆半島から浜名湖にかけての駿河湾や遠州灘で見られることができます。 今回はその中心とも言える吉田漁港に<DT-98>を進水させた増田勲さんを訪ねました。
シラス漁はその鮮度を保つために一日に3回の水揚げを行いますが、特に朝の最初の漁が最も多く獲れるため、早朝の漁は船主の判断力や力量というものが問われるといいます。増田勲さんも無線に耳を傾け、目で他の航跡を追い、漁場を探します。
「今日みたいにどこも獲れそうにない日はかえって的が絞りやすくていいんだ。これがあっちで獲れた、こっちで獲れたとなると、賭の世界になるからね。漁の具合もそうだけど、どのぐらいの船が集まっているとか、その場所までどのぐらいの時間がかかるとか、そういったものをすべて計算して行動しなければ一日が空振りになることもあるしね」
勲さんが網入れの用意を伝えると父、猪吉さんが操船する『手船』が近づき、網の片方の綱を固定させます。二艘曳きで行われるシラス漁の網の間口はおおよそ5軒分で、いかにこの中に多くのシラスを入れることが出来るかが、網船の船頭の腕にかかっています。
網を入れ終えるとあとは魚探を見ながら、船の位置をバランス良く保つことが漁のポイントになります。
「普通は乗り手や手船の船頭をしたりして、親や網船の船頭の漁を覚えるものなんだけど、うちは男手がない上に二隻分の漁をしていたから、漁に出たときから網船の船頭をやらされてね。経験がまったくないから、最初の頃は見よう見まね。無線の言葉はぜんぜんわからないし、シラスがどこにいるか見当もつかない。毎日泣きながら舵を握っていたもの。他の船はシラスが入った篭が20杯ぐらいあるのに、うちの船は5杯しか獲れていないなんていうのはあたりまえでね。だから人と同じように獲れればそりゃ嬉しかったよ」
父親の猪吉さんは67歳。シラス漁の創生期を知る漁師であり、勲さんにとっては誰よりも頼りになる存在です。
「このシラス漁で大切なのは、経験とそれに裏付けられた漁の勘。それと運を味方に付けること。他人にとやかく指示されるよりも自分で学ぶことの方が大切なんですよ。あいつは海のものとも山のものとも言えない頃からやっているから、他の船頭に比べれば苦労は多かったと思いますが、その分船頭としてのやるべき事は身に付いたと思いますよ」(猪吉さん)
いまでは数少ないシラス漁の後継者として遠州の海で漁を続ける勲さん。
「この漁は船を降りるまで自分が一人前だと思うことはない。ひと網ひと網が勝負だし、毎日毎日が勉強じゃないかな。だから漁が好きというよりも、漁が生活そのものなんだよね」と微笑みました。
投網や引き揚げの時でも率先して行う勲さん。作業はすべて後部デッキで行われる
3人の娘たちと遊ぶことが唯一の楽しみという勲さん。県漁連の青年部会の副会長も務められている
手船の船頭である父猪作さん。シラス漁の大ベテランである
引き揚げられたシラスは鮮度を落とさないため運搬船ですぐ市場に運び込まれる
新八丸の乗組員。網船には勲さんを入れて3人。手船に2人。運搬船に1人。この6名で漁を行う
今年の6月に進水した<DT-89-0A>新八丸