採貝藻
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
シジミ漁
青森県十三湖
作業中はすべて自分ひとりで行う隆一さん。子どもの頃からの経験が大いに役立っているという
初夏を控えた津軽半島では、白いリンゴの花や幾重にも連なる水田で農夫が田植えを続ける作業を見ることができます。この津軽平野の臍ともいえる十三湖では、二つの漁協合わせて約170名がシジミ漁に従事し、水揚げ制限や禁漁期の設定など徹底した管理を行い、『大和シジミ』というブランド品を大切に育てています。
いまではその知名度も全国区となった十三湖の大和シジミ。古くからの基幹産業であったこの漁を継ぐために実家のある十三湖に戻ってきたのが内藤隆一さんです。
「姉が一人で男手は自分しかいませんでしたから、後を継ぐことはわかっていました。子供の頃から漁が好きだったので、会社員になろうとか就職で迷うようなことはなかったですよ」
十三湖における大和シジミの漁は、許可漁業であり、隆一さんも母の権利を譲り受けて、この春に独立したばかりです。漁期は4月10日から10月15日までと決められており、冬の間は夏の採取したものを養殖させて出荷しています。
「シジミは大・中・小とサイズがあるのですが、相場との兼ね合いもあるし、冬の養殖用には小さいサイズの方がいいというのもあって、一概に大きければいいというものではないようです。ただ質がいいシジミを採れる場所を知っていることは必要ですね」
場所探しにはまだまだ父の国光さんに及ばないという隆一さんですが、作業の素早さは圧巻そのもの。左手で鋤簾の棒を握りながら、右足はアクセル、スロットルを調節し、右手は右舷側にある選別機のボタンを操作します。そしてこの日はわずか1時間で規定の140kgを水揚げしました。
「今日は冬場に採る養殖用だったので、あまり粒にこだわらずに採りましたが、出荷用の大きい粒を採る場合は時間ぎりぎりの11時までやりますよ。選別も出荷締め切りの2時までかかります」
シジミは水温、塩分濃度、気象など自然の影響が強く、その影響は稚貝放流から2~3年経ってから表れますが、特に放流年にヤマセが吹いた貝は生育が遅れやすいといいます。
「こうして春採った貝を養殖用に回しても、夏場に一度も雨が降らずに、水温も27度ぐらいまで上昇すると死んでしまう。そういったことも頭に入れて漁をしなければだめなんです」(国光さん)
その日その日の結果はもとより、1年を通じて漁を捉えることが大切だという国光さん。本格的に漁を始められた隆一さんは、今まさに体で、一年のシジミ漁を習得しようとしています。
要所要所で貝をチェックする。「養殖用だから大雑把なんですよ」とは隆一さんの解説
木箱がひとつ70kg。ふたつで規定量となる
寄港前に漁協の岸壁でチェックを受ける。木箱の蓋を閉めて、イケスの蓋をすべて開ける。こうした管理が『十三湖のシジミ』を支えている
番屋の前に船を舫い、その下に養殖用のシジミを撒くと作業も終わりとなる
「早起きと寒いのが苦手ですよ」という言葉は街の若者と変わりないが、漁に対する想いは人一倍強い
5月に進水したばかりの天理丸。DX-29Dは十三湖に対応した最新の船だ