船体や艤装
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
『FRPの特徴とそれを生かした漁和船設計』 --後編--
大漁ニュース 第20号掲載
前回のおさらい
設計上の留意点
前述したようなFRPの特性を十分理解した上で設計を行っていますが、次に設計上における工夫や留意点というものを取り上げてみましょう。
1) たわみにくくする方法
例えば、FRPの外側と杉の外板を比較し、補強の間隔が同一だとすると、FRPの曲げ強度杉の4倍で、板厚1/2で良い計算になります。しかし、FRPのたわみやすさは板厚に対して木と同程度のため、FRP板が薄くなるとたわみやすくなります。和船が高速で走るとき、船底がポコポコ踊るのを経験されている人も多いと思います。この外板のたわみを止める方法としては、
A) 外板の板厚を増す
B) 補強の数を増やす
C) 外板を曲面にする
以上のような方法がありますが、Cの場合、力の方向に対して凸にしたり、凹にして段を付け、Bの効果を出すことも考えられます。
C-1の場合
外板には引張りが働きます。FRPの引張弾性率は他のものに比べ、大きいため有利になります。
C-2の場合
曲げと圧縮が働きます。荷重がある限界を超えるとC-2から、C-1の状態になる不安定さがあります。したがって、凹面 (C-1図)にすることが一番良い方法ですが、甲板上には排水の点から利用することはできません。
C-3の場合
平板や波板のトタンからもご理解いただけると思いますが、剛性が上がりたわみにくくなります。
2) 疲労、耐水、耐候性など、強度劣化に対して
船体にかかる応力としては、船の一生に一度あるかないかといった最悪の状態で設定します。さらに力のかかり具合により安全率を選択して強度計算をすることで処理します。
例として、MDM (マリン・デザイン・マニュアル=米国コーストガードより発表されている船体の構造基準)では安全率について、次の値を使うように決められています。
・静的短時間荷重 安全率 最小2
・静的長時間荷重 安全率 最小4
・変化する荷重 安全率 最小6
・繰り返し荷重 安全率 最小6
・疲れ 安全率 最小6
・衝撃荷重繰り返し 安全率 最大10
3) 浸水性に対して
FRPは水より重いため、水船になった場合には沈んでしまいます。この対策として、和船では浮力体をつけて沈まないようにしていますが、漁船は重いエンジンを搭載しているため、沈まないようにするには、船体の大部分を浮力体で埋める必要がありますが、それでは漁船としては使いものになりません。そこでヤマハの漁船では通常、船内を何区画かに区分し、一区画が破損して浸水しても他の区画の浮力で沈まないようにしています。さらに甲板のコーミングの高さを高くとって水が打ち込むのを防いでいます。この高さについては水産庁から出された安全基準などを参考に決定します。
4) 耐摩耗について
耐摩耗については特性のところで述べましたように、スレ材を取り付け、それを交換することにより対処しています。最近のモデルではスレ材取付部を突起させておき、凸部側面を利用してスレ材を取り付ける方法が採用されています。これはスレ材交換を容易にし、また船内への水漏れ防止にもなるからです。
※「設計室だより」は大漁ニュース掲載号の原稿を掲載している為、内容がお客様の船に合致しない場合がございます。漁船、エンジン、艤装品の詳細については必ず最寄りの販売店にてご確認をお願いします。