一本釣り
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
カジキ突きん棒漁
岩手県釜石市
経験に裏打ちされた勘が研ぎ澄まされていないと、カジキを仕留めることは難しい
カジキの突きん棒漁と言えば、船首の見張り台に上り、カジキが浮上したところを銛で仕留めると言った、まさに勇壮な漁でもあります。この突きん棒漁を行っている、宮城県釜石市の宝泉丸を訪ねました。
うっすらと雲がかかり、太陽の輪郭を肉眼で確認できる、そんな空の下を1隻の漁船が三陸沖の海をゆっくりと走り回っています。船首に立てられた見張り台から2人の男が広大な海を見渡します。あいにくの視界の悪さでしたが、それでも目を凝らして海面に視線を注いでいると、遠くにカジキの背びれを発見。おもむろに船首をその方向へ向け、リモコンを操作しながら獲物に近づいていきます。
「逃げられた」
そんなチャンスがこの日は何度かありましたが船が近づく前にカジキはすぐに海へ潜ってしまい、銛を突く暇を与えてはくれませんでした。根気、集中力、視力と勘、揺れる船から銛を投げて獲物を仕留めることのできる運動神経の良さ。カジキの突きん棒漁に求められるのは、第一にこうした人間の能力です。そして思うように動いてくれる船。
岩手県釜石市の尾崎白浜に住む内川登志男さんが現在の「宝泉丸」(DX-53C-0B)を得たのは2013年4月のことです。
「家も船も全部津波に持っていかれちゃったよ」
内川さんは努めて明るく笑いますが、新しい船を得て漁を再開するまでの道のりには、想像すらできない苦労があったはずです。それでも「やる気さえあれば何でもできる」と積極的に漁に取り組んでいます。
カジキの突きん棒漁はまさに「勇壮」。ターゲットはカジキの中でも最大級の大きさに成長するメカジキで、実際300キロ近くの大物と渡り合うこともあります。「銛が手から離れても不思議なことに手応えがある」と内川さんは漁の魅力を語ります。
もともとは釜石に毎年やってくる千葉の漁船団からその方法を聞いた内川さんらが、釜石で取り組み始めたのだと言います。銛で巨大なカジキを突く様はテレビでも放映されることもしばしば。
「それを見た甥っ子から連絡があって養子にしてくれと言ってきた。断ったけどね」
内川さんは少し嬉しそうに話していました。
内川さんは他にタコ籠漁、和船を使ってのウニ、アワビ漁などを行っており、これから延縄漁にも取り組みたいと意欲的です。
「とにかく1年を通して漁に出て稼げる方法を見つけ出したい」
内川さんにとってはそれが実現してこその復興です。
カジキを発見して追うも、この日はすぐに潜られ仕留めることができなかった
見張り台にのぼり海面に浮上してきたメカジキを探す。根気と集中力を要する漁だ
電気コードとセットになった銛のロープは70m
銛の先端から電流を流しカジキをおとなしくさせる
内川登志男さん、「1年を通して漁で稼げる道を」と模索中だった
DX-53C-0B「宝泉丸」。復興漁船の象徴ともいえるモデルで、多くの同型船が三陸の海に進水している