藻類
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
海苔養殖漁
熊本県長洲港
秋から春の間に行われる海苔漁。有明の海では朝早くから漁が行われる
日常の食卓を賑わす食材のひとつである海苔。 そして、有明海苔といえば誰もが一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。 この有明海苔の有名な産地が、有明海岸には点在しています。
「1枚が50~60円もする贈答用の高級なものは、福岡・佐賀の方がよく採れるようですが、コンビニのおにぎりなどに用いられる業務用の産地としては、ここあたりも有名なんですよ」と語るのは、熊本県西部の沿岸でも一際高い収量を上げている長洲漁協で、大規模にノリ養殖を手がける津田悦司さん(59歳)。
ノリ養殖が本格的に行われるのは10月1日から。漁は夏網の手入れに始り、カキ殻の胞子を着床させ、そこにできた胞子のうをノリ網に付着させます。ノリ網の大きさは1枚が1.8m×18m。それを23度以下に下がった海水に展開します。そして、1番摘みが収穫されるまでには、3週間ほどの時間を取ります。
高値で取引されるブランド品とは異なり、比較的単価の安い業務用海苔の生産が主な長洲では、収量をどう上げていくのかに主眼がおかれています。従来は河口付近の『支柱張り』の産地が収量を上げていましたが、生活排水などの影響からか、最近では芳しくなく、『ベタ張り』と呼ばれる沖にノリ網を設置して養殖する形態が取られるようになってきました。
長洲漁協では1軒あたりのノリ網の平均張り込み枚数は210枚程度。一方、津田さんは860枚もの張り込みが、省力化船の導入で可能になったそうです。
「この時期になると体重が減ってしまうんです。今年も7kg痩せましたよ(笑)」
寒海苔に代表されるように、秋が漁の最盛期とあって、大忙しの毎日を送っている津田さん。作業は、津田さんご夫妻に加え、ふたりの息子さん夫婦と従業員が1名加わり、合計7人で行います。大規模経営にもかかわらず、少人数での操業です。収穫は、箱船に2人が乗り込み、船上の摘み取りローラーが用いられ、収穫したノリを運搬船のポンプで汲み上げます。
「子供たちが海苔の摘み取りを担当して、私は省力化船で活性処理を行います」
朝6時に出漁して、一度にノリ網100枚分を収穫して、活性処理を済ませて帰港するまでに3時間弱。港で水揚げしたノリをトラックのタンクに移して自宅の工場に持ち帰り、撹拌からゴミ除去、漉き、乾燥、そして結束の作業までが全自動で行える加工ラインに流します。
「以前の船では水揚げしたノリをザルに入れ、積み上げて運んでいたので製品3万枚分がやっと。この船では、ザルに上げ水切りした後に、イケスに保管できるようになったので、7万枚分が積み込めて、とても助かっています」
津田さんの第三津田丸は、デッキに大容量のノリ庫を備えた、47尺の<DW-47-OA>(550馬力)。秋から春先まで続く海苔養殖の最盛期をサポートしています。
朝6時に長州港を出航して、1回の摘み取り作業でノリ網100枚分の水揚げを3時間弱でこなす
摘み取り作業に従事するのは、長男の優司さん(34歳)と次男の広樹さん(28歳)の2人。兄弟揃って家業に励む
最盛期には24時間体制で加工作業を行う
津田さんの年間水揚げ量は、製品に換算すれば400~500万枚にも達するという
23歳から家業のノリ養殖に携わる津田悦司さん。来年還暦を迎えるというが、まだまだ現役
99年に進水した<DW-47-OA>。広いデッキに設置された7基の海苔庫が、最盛期の運搬作業に一役買っている