その他
日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。
小型漁船質問箱・その(2)
大漁ニュース 第81号掲載
●質問:重たい舵を、舵効きの性能をあまり損なう事なく、軽くする方法はありますか?
●答え:操舵力を小さくするという本題に入る前に、舵に働く力と操舵力の関係について考えてみたいと思います。
(1)舵板に働く大きさ(舵圧)
舵を切った時には図1のような力が働いています。
式からも理解できるように、舵圧には1)スピード(流速)、2)舵板面積、3)舵角が影響しています。特に流速は2乗の力が加わりますので、影響は大きくなります。
図1は舵を動かした直後の瞬間の状態です。やがて船尾が旋回の外側へ滑りだしますので、波線で示す角度となり(αの減少と同じ)、さらに旋回を続けますと船速が落ちるためυも減少します。
<図1>
Pn:舵圧。舵板に直角に加わる力で操舵力に関係します
Pf:舵板に発生する摩擦抵抗
舵圧Pnは次の式となります
Pn=K×A×υ2×f(α)
Kは定数で使用する単位で異なります
Aは舵板面積
Vは流速
f(α)は舵角の函数でf(α)=sinαとして一般に使用されています
(2)舵板に働く舵圧の中心位置
舵圧の式と同じく舵圧の中心位置を求める式も実験値を基に公式化しています。いろいろな式がありますが、一般的なジェッセルの式を示すと以下のようになります。
他の式も基本的には同じで、αが0度でも、圧力中心は舵の前端より後方にあり、舵角の増加に従って後方へ移ります。χは最大でも舵板幅の中央までは後に寄りません。
χ=B×(0.195+0.305sinα)
X:舵板前端から圧力中心までの距離
B:舵板の幅
α:転舵角度
<図2>
(3)操舵力と舵にかかる力の関係
図1の状態から視点を広げて、操舵力と舵柄にかかる力との関係を見たのが図2です。
舵軸の中心を支点としてテコの関係が成り立っています。つまり舵板をc方向へ回す力と戻されまいとして舵柄に加えている力が釣り合っているわけですから、Fβ1=Pnβ2となります。
(4)操舵力を小さくするための方法について
以上のことから、操舵力を小さくするには、
1)β1を大きくする
2)β2を小さくする
3)Pnを小さくする
といった方法ですが、1)は現実的ではありませんので、2)と3)について考えてみましょう。
まず、舵軸の中心を後ろへ移すか、舵圧中心を舵軸に近づける方法が考えられます。
このアイディアはブラケット式やキール式の舵ではすでに採用されていますが、浜揚げ式の船では差し舵を使用している場合が多く、一概に適しているとは言えませんが、ヤマハ漁船では図3のような方法で採用されています。
<図3>
これは舵軸の前側に舵板を持ち上げる範囲で邪魔にならないように補助の舵板を付けています。この追加した部分により、圧力中心は前方に移り、操舵力を軽減することができます。ただし、この方法は常に舵を抜くような場合には利用できません。
他の方法として、前述のものより効果は落ちるもののB(舵板の幅)を狭くしてχ(舵板前端から圧力中心までの距離)を小さくする方法が考えられます。この場合は、Bだけを狭くすると舵板の面積は小さくなりますので、舵板の長さを上下方向に追加する(長くする)必要があります。
さらに別の方法としては舵板を上に揚げて、舵板の面積を小さくすることも考えられます。これは長所短所があり、長所は操舵力が小さくなり、舵への抵抗も少なくなること。速度にもよりますが、良い効果が出ると言えます。逆に短所は、舵板の上端は必ず水面上に出ていなければ効果がないので、非常に高い飛沫が上がること。また水面上の変化に舵を取られやすい事などが上げられます。
以上、これまでは舵板にかかる力について見てきましたが、他も操舵力を大きくする原因があります。それは舵軸と軸受け部の摩擦力です。軸受け部への十分な給油はこの摩擦力の減少にも役立つわけですが、テーパー軸受けになっている場合は、この摩擦力が大きくなり、転舵する時にこの摩擦力が加わって、通常の軸受けよりも最初の転舵時には大きな力を必要とします。
(5)舵板を改造する場合のお願い
舵板を改造すると舵軸にかかる力も変化します。また手動からその他の操舵装置を使用する場合にも転舵スピードが異なるために舵軸に加わる力は大幅に変わります。手動から機械式操舵装置へ変更する場合は、舵軸強度を2倍以上にしないと舵軸が曲がってしまう結果も出ています。舵板や舵軸などを変更する時には、お近くのお店にてご相談ください。
※「設計室だより」は大漁ニュース掲載号の原稿を掲載している為、内容がお客様の船に合致しない場合がございます。漁船、エンジン、艤装品の詳細については必ず最寄りの販売店にてご確認をお願いします。