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日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。

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『FRP漁船草分け時代の苦労話』

大漁ニュース 第48号掲載

沿岸FRP漁船の歴史は、いま成熟期を迎えました。このあたりで漁船作り20年の実績と経験を踏まえて、歴史を見直し将来を展望する為に数回にわたり、ヤマハFRP漁船の誕生から今日までの歩みをご紹介します。

 私たちが漁船を作り始めてから20年の歳月が経ちました。ヤマハでの最初の漁船はマグロ延縄船の搭載艇(第三富士浦丸搭載艇)でした。全長17mの船でしたが、当時は木船や鋼船が主流で、母船に曳航されて漁場を移動したり、母船に接舷してマグロを運び上げたりとハードな使い方をするので、充分な強度が求められていました。

 この搭載艇を建造するに当たって、現在ではほとんど実施されていない雄型成型法が採用されました。この工法は大型で隻数が少ない場合には向いています。最初に船の形をした大きなザルを作り、その上に塩ビの発泡体を釘で止めていきます。塩ビの発泡体が全面に張られますと、外板の外面になるFRPの成形を行います。最終層はマットを使用し、平滑に仕上げを行いますが、当時は仕上げの技術がなく、凹凸が取れない為に作業員全員でペーパー掛けを行い、FRPとパテまみれになりながら、どうにかゲルコートの吹きつけまで辿り着くことができたことを覚えています。

 成型の後はザルからの離型です。建屋の天井の梁へ、チェーンブロックをしばりつけ船殻を上に、型は床に固定して離型します。離型した船殻は、塩ビの発泡体の外面にのみFRPを積層している状態なので、全体的にぶよぶよしていますし、離型の作業も大変時間のかかるものでした。
 チェーンブロックを船体の前後に各一個、船殻を反転する方向に引っ張るチェーンブロックと船殻を反転させないように張るチェーンブロックの合計4個を使用して、作業員の大号令の元、ロープを引っ張ったり緩めたりしながら、ゆっくりゆっくり反転させます。
 反転した船殻の内面は塩ビの発泡体のままですから、この上にFRPを積層してサンドイッチ構造を作ります。その後は補強材やバルクヘッドの順に取り付けて、デッキ受けやデッキビームを接着してデッキを貼り、FRPの積層や防舷材の取り付けを終える頃にはがっちりしたした船体ができあがっていました。この後は各種の艤装を行いエンジンのセッティングを経て、進水へと向かいます。
 この搭載艇の場合、艤装の作業は進水直前まで行われましたが、なんとか進水式までに間に合い、船主様へ引き渡すことができました。

 後日、この船はマダガスカル島沖での操業につきました。延縄を投入して回収する作業が繰り返し行われる中で、船は期待以上に評価が高く、性能や機能については満足できる結果を得ることができました。しかし遠洋マグロ延縄漁の漁業形態の変化と共に、搭載艇の需要は激減して、この搭載艇以降の建造はありませんしでした。それでもヤマハでは研究開発を進め、この船で培われた建造技術は昭和43年以降の和船の開発、生産へとつながります。
次回はその頃のお話をしたいと思います。


(つづく)


※「設計室だより」は大漁ニュース掲載号の原稿を掲載している為、内容がお客様の船に合致しない場合がございます。漁船、エンジン、艤装品の詳細については必ず最寄りの販売店にてご確認をお願いします。

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