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日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。

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『FRP和船の初期開発時代の話』

大漁ニュース 第85号掲載

沿岸FRP漁船の歴史は約40年となり、すでに成熟期に入っています。このあたりで漁船造りの実績と経験を踏まえて、歴史を見直し将来を展望する為に数回にわたり、ヤマハFRP漁船の誕生から今日までの歩みを苦労話を交えつつご紹介します。

 前回は漁船の草分けの時代話をしましたが、今回は和船の初期開発の話をしてみたいと思います。和船の生産に先立って、開発作業を昭和42年頃より開始していました。まずは全国各地の木船を集めて、その性能の解析が始まり、木船からFRPへ変更した場合の諸特性の変化とそれに対する対応策を検討していました。特に木船からFRP船に材質を変更することで大幅な軽量化が可能となり、高速性が得やすくなる反面、作業時の安定性、風流れ抑制、いけすの水深確保、重荷状態での高速性の維持と言った問題が発生し、これらの課題をどう解決させていくかが、設計における大きな課題でした。

 最初の和船では、安定性確保の為に両側を張り出した、いわゆるトリマラン船型に近い複雑な船底形状していました。この複雑な船底形状は、キールが水中深く入っていたので風流れに有効なだけでなく、船底剛性を高める為にも役立っていました。荷物をたくさん積載した時のスピードダウンを少なくする為に、船尾近くの船底にステップを設けていました。軽荷状態ではこのステップで水を切り滑走させ、重い状態では 船尾まで水に浸かって船長をかせぎ抵抗の山を減らそうと考えましたが、サイズ、価格の問題から日の目を見るには至りませんでした。

 FRPを浸透させる為の市場作りも開発と同様にスムーズにはいきませんでした。今とは異なりFRPの知識もない時代でしたので、「ポリバケツと同じで長く使うと壊れるのではないだろうか?」と言った質問を常々受けましたし、FRPのカットサンプルを持っていき、その上で漁師さんに飛び跳ねてもらったりして理解を広めていきました。こうして全国で展示会を行うことでFRPへの理解度を深めてもらうと同時に、私たちには和船に要求している内容が多く集まり、問題点も明確なものとなりました。
そしてその意見は、
●折り返しのある防舷材は杭に引っかかるので良くない。
●和船のコストでは輸送費が大きい。
といったものでした。こうした問題点は「巻きガンネル」「スタッキング式」として改善され、W-18やW-16に採用されました。

 W-18AはW-18の市場評価を基に企画、開発が行われ、累計で1万1千隻に及ぶ船が生産が行われた、初期のヤマハ和船を代表するモデルでした。
 まずW-18からの変更点としては主要諸元の変更です。安定性と積載量の増加を行い、全体に乾舷も増加させました。またキールに幅を持たせて、かつ船の長さの中央付近を下方に突きだした形状にすることで浜座りとイケスの水深を確保すると同時にアカ汲みを容易にしました。さらにサイドのスポンソンを浅めにすることでアカ溜まりを抑え、左右に動揺を与えることで、中央に集めやすくしました。またステップをなく して、水線長を伸ばすことで重荷状態でも滑走できるようにして、エリアカーブも速長比に見合うように船尾で絞っています。構造的には大型の巻き込みガンネルを採用することで浮体の容量を確保して船首に物入れスペースを作り、横方向への剛性やネジレ剛性を高めました。

 このようにW-18Aには、作業時の安定性、積載量の増加、重荷時の粘り強い走りといった、現在の漁船における基本要素を具現化した和船で、各地のユーザーの皆様からのアドバイスや意見をもとに完成したと思っております。
 このW-18A以来、現在の和船に至るまで、さまざまなモデルが開発されてきました。既に現在ではセルフベーリングができるフロアー張り仕様が中心になり、船外機の馬力も大きくなりました。船型のポイントもスピード中心から、凌波性や乗り心地といった他の性能を重視する方向に変化してきます。また、港湾の整備が進み、コロ揚げ仕様の必要があった地区もその必要が無くなり、よりスピードの出しやすい角ドモ船型 に移りつつあります。さらに日本でスタートした和船は、汎用和船を中心として海外でも活躍しており、多くの国々で生産されるようになってきています。今後も全国で使われる汎用和船と地域和船の両方が必要ではないだろうかと考えています。


※「設計室だより」は大漁ニュース掲載号の原稿を掲載している為、内容がお客様の船に合致しない場合がございます。漁船、エンジン、艤装品の詳細については必ず最寄りの販売店にてご確認をお願いします。

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