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日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。

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漁船設計者の浜ある記(1)

大漁ニュース 第114号掲載

 作業船を設計する場合、作業中の姿勢や条件から守らなければならない寸法がいろいろあります。特に人間の体格との関係で決まる寸法は、それがあわないとまったく使い物にならない船が出来上がってしまいます。漁の現場と設計の関係を設計者自らの対談で綴るシーリズ第一作。「こべりの高さと作業の関係」についてです。

知床の定置網漁船はひと味ちがう
 甲板から船端までの高さは一般的に50cm前後のものが多くなっています。最初はなぜかわからず、平均的な数値だからとそのまま設計に採用していたものです。
 その理由が、水中から思いものを引き揚げるときの力の入れやすさに関係するものだと知ったのは、しばらくしてひとりの漁師さんと話をしていたときです。
 ひざを舷にしっかりと支えることができるかどうか、それによって持ち上げることのできる重量が決まってくる。つまりひざをしっかり支えられる舷の高さが50cm前後だということだったのです。
 もちろんすべての船が50cm前後というわけではなく、作業の内容によっては少し低めにすることもあります。
 以前、私が見たある漁場では、網作業を行うときにアバ側を持ち上げて、船端を超えて出し入れする作業があり、腕の疲労を最小限にするために舷の高さをかなり低くしていましたが、それでもひざをなんとか支える40cm前後になっていました。
 最も低いのは定置網の起こし船でしょう。重い綱を甲板上に引き上げなくてはならないため、吃水から船端の高さはとても重要です。乾舷は必要最低限で浅く、ブルーワークの高さも甲板上の物が転落するのを防ぐ程度になっています。また定置の場合、片舷に大勢の人が並んで作業するためシヤー(舷の反り)が少なく、船首から船尾まで舷の高さに変化が少ないのが普通です。しかし例外も多く、知床半島の斜里で見た船は、船首部分の乾舷は通常の漁船のように高く、フレアーも十分に取られていて、作業をする舷のみが低くなっていました。これは漁場と港の距離が遠いため、荒い波の中でも安定して走れること考慮して作られたことが分かります。

北海道でみたウルトラCの磯船
 寸法について定置船以上に要求が厳しいのが磯船です。ウニやアワビを採るのにも各地で色々な方法があります。船尾でネリガイを手繰りながら、なおかつ箱メガネで海底を覗いて採取する漁法は広い範囲で見ることができます。大きい船の場合には、操船する人と採集をする人に分かれることもありますが、この場合は人の姿勢、箱メガネを使うときの水面から顔までの高さなど、船の寸法への要求はほんの数センチの範囲で決まるのです。
 今でこそ磯漁もネリガイ(櫓のようなもの)から電動船外機へと変化してきましたが、当時は磯船にとっての有効な船型を確認するために、ネリガイを使って操船する練習までしたものです。ネリガイを操る方法も地域によってさまざまで、座ったまま、立ったままなど見受けられましたが、なかでも北海道で見た磯船には驚きました。私たちが、ウルトラCと名付けたその磯船は、車ガイという、貸しボートについているオールに似たものを片手と片足で操り船を動かし、体には舷側に預けた状態で、残る足で体を保持します。さらに口で箱メガネをくわえ、最後に残った片手でウニやアワビを採っていくのです。
 こうした漁法の船を設計するときなどは、それこそカンナを一回削る、削らないと言った寸法の精度要求がありました。

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 船を造っても、これだけはさすがに自分で試すわけにもいかず、漁友さんをはじめ、多くの漁師さんに乗ってもらい技術的な情報を得ていきました。
 現在では単に寸法だけでなく、運動性に影響する要求も数値でとらえられているため、本当に使いやすい船を造ることに成功しています。


※「設計室だより」は大漁ニュース掲載号の原稿を掲載している為、内容がお客様の船に合致しない場合がございます。漁船、エンジン、艤装品の詳細については必ず最寄りの販売店にてご確認をお願いします。

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