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日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。

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漁船設計者の浜ある記(4)進化するスカッパ

大漁ニュース 第117号掲載

 船体構造や形、艤装など、船の作りが漁法や地域によって違うのと同じく、イケスの造りも各地でさまざまです。漁獲の商品価値を保つ重要な部分だけに、工夫や知恵が盛り込まれてきたと言えるでしょう。

「ビルジポンプで換水」
 漁船の素材が木からFRPへと移り変わると同時にイケスに使用されているスカッパにも変化が見られました。
 木船の時代に使われていたスカッパは角形でした。船底の部分に四角い穴をあけ、魚が逃げないように丸棒が何本か長辺方向に取り付けられていました。イケススカッパの栓は、木を四角いテーパー上に削り、船底にたたき込んであり、栓を取るときはその横面を交互にたたき、テーパーから抜いていました。

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 船の材料がFRPに変わると、丸形でねじ込み式の蓋を持つスカッパが次第に勢力を伸ばしてきました。これは、木船では船底板が厚いためテーパーでシールすることができたのですが、FRP船の場合、この方式を採用するには船底板が薄すぎたのです。図のように1/10の勾配を持つテーパーを考えてみますと、穴寸法Lが加工誤差で0.4mm広くなったとき、栓は2mmも下がります。このときスカッパは鋳物で造っていたこと、角テーパーの穴加工が困難なこともあり、漁師さんの中には角形スカッパの要望があったものの、結局減っていったのです。
 このころ浜名湖(静岡県)で使用されていたエビ漁船に乗せていただき、湖内での操業を見せていただく機会がありました。その時は電動ビルジポンプを使って吸入側ホースを船外に、吐水側を船内のイケスに入れ、イケス内の水を積極的に交換させていたのです。イケススカッパの自然な水替わり能力が一時的に不足したための応急措置だったのですが、強烈な印象となっています。

「ツバの無いイケススカッパ」
 FRP船に変わった当初は、真鍮製のスカッパでしたが、そのうちにプラスチック化が進み、ヤマハでも採り入れました。そして船体の高速化の時代に出現したのがイケダ式と呼ばれるタイプです。
 このスカッパは、上面からスカッパ本体を差し入れ、船底側に出張ったネジ部をカットする仕様になっていました。この船底に突き出た部分のカット後の形状には、その船の船速や使用条件によって実に多種多様なバリエーションを採用し、造船所ごと、浜ごとに違っていたほどです。
 ツバの高さ“入り”と“出”の数の割合も含めて、一隻一隻、試行錯誤の結果だったと思います。
 山口県の宇部を訪問したときに聞いたのは、イケススカッパのツバを全部無くしてしまうとのことでした。底曳の船だったと思います。抵抗的にはツバの無い方が小さく、速力に対して最も有効だと言えます。恐らく速力、航走トリムが走行時も適当で、ツバが無くともスカッパの後半部分から水が流入し、スカッパの前方から船外に抜ける水とうまく調和して交換が行われるようになっていたのでしょう。流入する水は周囲のイケス内の水により、流入スピードが殺され、程よい水の動きになったと思われます。このタイプのスカッパでは日本中の艤装店でも苦労されていたことでしょう。


※「設計室だより」は大漁ニュース掲載号の原稿を掲載している為、内容がお客様の船に合致しない場合がございます。漁船、エンジン、艤装品の詳細については必ず最寄りの販売店にてご確認をお願いします。

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