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日本全国津々浦々で行われている沿岸漁業を漁法別にご紹介します。

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漁船設計者の浜ある記(7)ところ変われば船首も変わる

大漁ニュース 第120号掲載

 漁船の設計において、それぞれの漁業形態や地域による作業性が考慮されることは言うまでもありません。船首の形状をひとつとっても同様です。特に太平洋側と日本海側とでは漁船の船首形状がまったく違うということには驚かされました。

漁船の船首形状
 漁船の船首形状を見てみると機能的な理由から変化していったことがよく分かります。船首に「やりだし」を付け、この部分に銛を持った人が立ち魚を追う伊豆の「つきん棒」の場合、普通の丸形の船首では足場が悪く、船より一歩でも前に出る必要性を満足させることができなかったことが想像されます。
 また、「かつお一本釣り」船としての一番の釣り場が、かつお船独特の船首形状を創り出したとも聞いています。そのせいか、丸い船首形状に対して独特の形状を持った船を日本海側で見た記憶がありません。反面、太平洋側では、高知、和歌山、三重、静岡、神奈川、千葉といった地域に多く見られます。
 遊漁船で瀬渡しを中心に行う船にも、磯への乗り降りのしやすさ、安全性の点から独特の船首形状が評価されています。以前、丸い船首から踏み板と保護用の手すりを付けただけの船を見かけたことがありますが、こうした形も時代と共に一本化され、洗練された形状のものになっていくのでしょう。瀬渡し船の場合、お客様を渡す瀬の条件によって、船首の乾舷が異なっていると聞きます。もし自分が瀬渡し船を建造することを考えると、やはり必要条件になりそうです。

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スターンドライブ船の船首形状
 千葉県船橋を中心とする貝採取船の場合は長い竹竿の先に籠がついた漁具を使用します。また、甲板上に貝の選別機を搭載してありますので、エンジンルーム前のスペースは、それだけ長く要求されます。また、大部分は船首での作業になりますから、広いスペースを確保できる角船首の方が使いやすいことになります。
 一方、三重県を中心とする真珠の作業船でも理由は不明ですが角船首になっています。もともと丸い船首を角船首に改造しているところを見ると、作業に適しているのかもしれません。また同様のタイプでは、長さと幅の比が特異なケースが見られます。瀬戸内海の沖流しによる海苔刈り取り船がはじまりと思われます。乗り網の下に潜り、海苔を刈り取っていく船ですが、網に合わせて幅を広げた結果、長さ/幅の値が3前後と通常の倍程度となっています。もちろん、これは乗り網の下に潜るという条件と積載性を考慮しているのですが、他の積載量が求められる養殖作業船としてもぴったりの条件であったようです。
 搭載エンジンが船外機からディーゼルスターンドライブに変わっていったのも瀬戸内海からでしたが、和船の幅広タイプが各地に広がっていったのと同様に、スターンドライブの幅広船も次第に広がっていくことでしょう。同様に「やり出し」付きの船型も瀬渡し船を中心に今後は分布エリアが広がっていくかもしれません。
 このように長い目でみると角船首の分布や幅広船の分布も現在と変わったものになって行くと思われますが、和歌山や三重を出発点とする船型の特長がいまも太平洋側中心の分布となっている状況も根強く残っていくような気がします。


※「設計室だより」は大漁ニュース掲載号の原稿を掲載している為、内容がお客様の船に合致しない場合がございます。漁船、エンジン、艤装品の詳細については必ず最寄りの販売店にてご確認をお願いします。

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