使ってみるともう戻れないくらい快適!? クイックシフターでスポーティ&スムーズな走りを楽しもう!
- 2025年10月9日
こんにちは。ヤマハ発動機販売の田邉です。
突然ですが、みなさんの愛車には「QS(クイックシフター)」は搭載されていますか?
クイックシフターとはシフトチェンジの際にクラッチを握らずにペダル操作だけでシフトチェンジできるシステムです。使ってみるととても便利な機能で筆者がとても気に入っている機能の一つなんです。
今回は、手軽に快適な走行が楽しめるクイックシフターについて、開発に携わった皆さんに話を聞きましたのでご紹介します。
----------------------------------------------------

お話を伺った皆さん(左から)
走行実験担当: MC車両開発統括部 第1車両実験部 細 彰雄
制御技術エンジニア:モビリティシステム開発部 システム開発部 岡松 航太・高木 利幸
走行実験担当:MC車両開発統括部 第1車両実験部 西村 一之
レースで速く走るための装置として誕生したクイックシフター

岡松:
2025年10月現在、ヤマハのラインナップでクイックシフター標準搭載モデルは7機種、オプション品として株式会社ワイズギアから別売りアクセサリー設定しているモデルは6機種あります。
最初にクイックシフターを搭載したヤマハのモデルは、2015年発売の欧州向けYZF-R1です。"ツイスティロード最速"から"サーキット最速"へとコンセプトをガラリと変更し、200馬力で話題になったモデルですね。
シフトチェンジを少しでも速く行って、タイムアップを図ろうということでクラッチ操作を省略したのが始まりです。我々が第1世代と呼んでいるクイックシフターでは、加速中のシフトアップのみに対応しています。

岡松:
クイックシフター採用に当たって、当初は"ライダーがシフト操作してこそのバイクの楽しさ。バイクにこんなの要らないよ"みたいな否定的な意見も多く寄せられました。それならば、人が操作できる余地もしっかり残しておこうと、クイックシフターをOFFにできる機能を搭載しました。
ところが、クイックシフターを使っているうちに"意外とこれ使えるね、いいね!"、"あったほうが便利だね!"と評価が好転し、2018年モデルのYZF-R1には、減速中にシフトダウンできるようアップデートした第2世代のクイックシフターを搭載することにしました。

岡松:
そもそもクイックシフターには、4つの象限(区分け)があります。加速している時のシフトアップとシフトダウン、減速している時のシフトアップとシフトダウンです。
そして"クイックシフターは、4象限内のいつでもどこでも使えるととても便利"ということで、全領域に対応させた第3世代のクイックシフターを2022年モデルMT-10に採用しました。
エンジンの出力を補正してギアにかかるトルクを一瞬キャンセル
シフトチェンジできる瞬間を生みだすクイックシフター
岡松:
通常のシフトチェンジの動作は、【右手のアクセルを戻す】→【左手でクラッチレバーを握る(クラッチを切る)】→【左足でギアを変更する(シフトチェンジ)】→【左手でクラッチレバーを離す(クラッチをつなぐ)】→【右手のアクセルを開ける】という操作をしているのですが、クイックシフター搭載モデルなら左手の【クラッチレバーを握る&離す(クラッチを切る・つなぐ)】という操作と右手の【アクセルを戻す&開ける】という操作が不要になり、シフトペダルを操作するだけ(シフトチェンジするだけ)になります。

岡松:
クイックシフターは上の図のように、車両が加速しているのか、減速しているのかを判断します。加速側にも減速側にもギアドッグが噛んでいない、駆動と被駆動が切り替わる境界線よりも上にあれば加速、下なら減速とみなす仕組みになっています。

岡松:
そして加速の場合は、駆動力を一瞬抜いてギアドッグとドッグのつながりを緩ませたいので、トルクダウンさせます。

岡松:
一方、減速していたら、一瞬トルクを上げてドッグとドッグの噛み合わせを緩めます。
ライダーがアクセルを開ける操作をしなくても、電子制御でトルクアップします。
いずれにしても、クイックシフターがやることは基本的には同じ仕組みです。噛んでいるドッグとドッグのかみ合わせを緩め、次のギアに送るためにエンジンの出力を補正してギアにかかるトルクを瞬間的にキャンセルしているだけ。その間、実際にシフト操作するのはライダーです。
加速中にトルクダウンし過ぎるとライダーがお辞儀をするような失速感につながってしまいます。逆に減速中にトルクアップし過ぎると一瞬前に出るプッシュ感につながってしまう。ですので、ある一定時間以上、制御時間を増やすことができないという、ジレンマがあるのです。
人機官能に基づく開発姿勢をクイックシフターの設定にも反映

岡松:
ライダーのシフト操作って、人によってばらつきがかなり大きいんです。そこが適合していく中で、とても大変な作業でした。その困難な作り込みにかけている期間や熱意がハンパないのが、当社のクイックシフターの特徴だと思っています。
特定のライダーに合わせたレーシングマシンとは異なり、市販車ですので乗車シチュエーションはさまざまですし、お客さまによって使い方もさまざまです。体格が違えば乗り方も違って、シフト操作の際の入力の仕方、力加減が全く異なりますしね。どの設定がベストなのか、見定めるのは、本当に難しいんです。
高木:
そこで走行実験のライダーに、低回転域から中回転域、高回転域とあらゆる領域で色々な乗り方をしてもらい、彼らのコメントからライダーの要求値を探っていき、データと照らし合わせ、トルクアップ量やトルクダウン量を増やしたり、減らしたりと調整を重ねて徹底的な作り込みを行いました。シフトチェンジ後のショックがちょっと大きいから、滑らかにつながるように変更するとか、とにかく細かく地道にひたすらやっていくのです。
さらに担当以外のテストライダーにも乗ってもらって多種多様な意見を集めて設定を見直し、再度適合値を煮詰めて、また走行テスト・・・これを何度も繰り返し、当社が掲げている人と機械を高次元で一体化することにより「人」の悦び・興奮を作り出す開発思想である「人機官能」に基づいて開発を進めました。
西村:
担当の走行実験ライダーとしては、標準的な操作から外れるような操作も、あえて行ったりしましたね。例えばシフトチェンジの時のペダル操作で、じんわりやさしくシフトアップしたり、シフトダウンもじわーっと踏み込んでみたり。操作しているのかどうかが分かりにくいような、ちょっと意地悪的な入力を試していました。

岡松:
クイックシフターは、ゆっくり丁寧なシフト操作は避けて欲しいんですよね。普通のシフトチェンジにおいても、エンジン回転とタイヤ回転の差が大きくなるので、シフト操作は軽快に!と教習所などで言われていると思いますが、クイックシフターで制御している時間は、ほんのわずかなので、スパっと素早く操作して欲しいんです。
初心者の方なんかは、せっかく購入したバイクなので大切にしたいと考えて、ゆっくりジワジワ操作したほうがギアにも優しいかなって思ってしまうのかもしれませんが、全くそうではないんです。逆なんです。
西村:
クイックシフターでシフトチェンジする際はペダルへの荷重を見ているからなんです。どのくらいの力がシフトペダルにかかったら、クイックシフターが作動するようにするのか。設定した荷重よりも弱い操作で作動しちゃうと、しっかりギアが噛み合わない状態になってしまうんです。なので強めのシフト操作をしたときに作動するように設定していたりするんですよ。
岡松:
とはいえ、軽いフィーリングが良いっていうのは、結構ジレンマです。僕らとしてはちゃんとシフトをかき上げたり、踏み込んだり、シフトペダルにしっかり荷重がかかった状態のときに、ギアにかかるトルクを制御するようにしています。
しっかりシフト操作したときに制御を発動させると、力が溜まっている(蓄力がある)ので一気にシフトフォークが作動して機械的にもドッグの噛み合わせがスパスパ入りやすくなるのです。
シフト操作の荷重を軽くし過ぎると、機械的には次のギアに送れていないのに、制御の閾値を超えて、クイックシフターが発動・解除されて、シフトチェンジが中途半端になってしまうことにもなりかねません。シフトミスを避けるために、なるべくシフト操作の荷重を上げて、つまり蓄力を溜めて作動する方向に作り込んでいるのです。

高木:
そもそもクイックシフターってYZF-R1から導入されたことからも分かる通りレース活動から生まれた機能なんです。初心者の方が、どんなシフト操作をしても上手くシフトチェンジできることを目的にしているのではなく、どちらかと言えばレーシーに乗るときにスパスパと素早くシフトチェンジが決まる使い方を想定しているんです。
快適で便利な機能であることには変わりないのですが、クイックシフターが登場した頃は、YZF-R1にしか装着されていなかったので、レーシーな使い方が中心でしたが、どんどん普及していくに伴って『クイックシフターが付いてるので、どんな操作しても大丈夫だ』という誤解が生まれているかもしれません。クイックシフターは、あくまでもレースで速く走るための装置が起源であることを理解してもらえると、クイックシフターの使い方への理解が進むのではと思っています。
エンジン特性にあわせて細かく設定
同じCP3エンジンでもYZF-R9とMT-09のクイックシフターは全く別物

高木:
実は、クイックシフターの設定は、モデルごとに違うんです。エンジンや車体特性に合わせた作り込みが必要で、同じセッティングにしても同じフィーリングになるわけではありません。
そのため車両実験のコメントなどをしっかり反映して、細かいところまで作り込みを行っています。各モデルにあわせた適合値を決めていくところが、一番時間をかけたところです。
細:
XSR900、TRACER9 GT、MT-09は、主要用途やライディングポジションが異なるものの、基本的な使用場所は一般道がメインなので、クイックシフターの設定はあまり変わりません。
一方で、YZF-R9は、サーキットでの使用を重視しているので、同じCP3エンジンを使っていてもクイックシフターの設定が全く違います。

岡松:
ディスプレイで各種の設定項目を変更/確認することができるYRC Settingsでは、YZF-R9やMT-09 SPに第3世代クイックシフターの設定で、シフトアップ(△)とシフトダウン(▽)とそれぞれに【1】【2】【OFF】と3つの設定幅を設けています。
【OFF】は、機能が完全にオフになります。【2】は、全象限できる第3世代の設定です。加速中のシフトアップ・シフトダウン、減速中のシフトアップ・シフトダウンともにクイックシフターを機能させたかったら、シフトアップ・シフトダウンとも【2】に設定してください。
【1】は、加速時のシフトアップ、減速時のシフトダウンのみの機能です。なぜ【1】の設定があるかというと、サーキット走行時には、加速時のシフトダウンや減速時のシフトアップは不要だからです。

西村:
サーキットを走行している時って案外身体を動かすんですが、左右に切り返す時とかステップワークをした時につま先がシフトペダルに誤って触れてしまうことがたまにあるんですよね。その時にキックダウン(第2象限)や減速中のシフトアップ(第4象限)って不要なので起動させたくないですよね。

岡松:
そのため、【1】に設定するとYZF-R1同様に、第1象限(加速時のシフトアップ)と第3象限(減速時のシフトダウン)のみクイックシフターが働くよう固定できるんです。
西村:
YZF-R9のデフォルトの設定は、シフトアップ(△)とシフトダウン(▽)ともに【1】の設定にしています。一方、MT-09にも同じように【1】【2】【OFF】3種類の設定幅が設けてありますが、こちらはシフトアップ側・シフトダウン側も【2】が初期設定値です。モデル特性にあわせて出荷時のセッティングを変えているんです。
岡松:
YZF-R9は、サーキットもしっかりと走れるモデルとして開発していますので、クイックシフターの初期設定をサーキット走行向きにしているんです。
本気でサーキット走行する人にも、ツーリングの時にラクして快適に乗りたいという要望にも、シチュエーションによってYRC settingsの切替操作をすることで対応できるんです。

高木:
第3世代クイックシフターを搭載しているモデルでは、ディスプレイに"QS△▽"が表示されます。走行状況に応じてクイックシフターを使える領域を変えています。
加速中にシフトアップとシフトダウンが使えるときは、△▽が両方点灯しますが、シフトアップしか使えない場合は、△だけ点灯します。
同様に、減速中にシフトアップとシフトダウンが使えるときは、△▽が両方点灯しますが、シフトダウンしか使えない場合は、▽だけ点灯します。
この領域の違いは、クイックシフターが機能したときのバイクの挙動を評価して決めています。
第3世代クイックシフターは全象限で機能しますが、ヤマハとしては、お客さまが受け入れられる程度のショックレベルまでしか許容していません。

西村:
YZF-R9は、市街地からサーキットまで楽しめる作り込みをしていますので、オールラウンダーだと思っています。開発コンセプトに" Accessible"を掲げている通り、どなたでもとっつきやすく、気持ちよく乗れるハンドリングに仕上げていて、ワインディングも楽しいです。でも、YZF-R9の性能をしっかり活かして存分に楽しめるのは、やっぱりサーキットだと思います。
岡松:
小さなサーキットでも楽しめる、って言ったらいいでしょうか。YZF-R1は、大きなサーキットでしっかり加速・減速できて、スピードレンジが高い領域で力を存分に発揮しますが、YZF-R9は、スピードレンジがもう少し低い所でかなりレーシーに走れるので、ステップアップモデルとしては最適な一台だと思います。
第3世代クイックシフターは、スタート時と停止時以外
クラッチレバー操作の必要がない

岡松:
上述した通り、第3世代のクイックシフターは、全象限で機能するので、前の信号が赤になって、ちょっとエンブレを抜きたいなと思ったときに、減速中シフトアップするとエンブレが抜けるし、信号で止まる手前で信号が青に変わったら、今度はシフトダウンして加速、という使い方ができます。もちろんシフトペダルの操作のみです。
クイックシフター搭載モデルに乗り慣れてくると、変速のときにクラッチを使わなければとか、考えなくなりますよね。
細:
走っていて、ギアが違うなって思ったら、変えるだけですからね(笑)。3速で走っていて、エンジン回転数が高いなと思ったらシフトアップするし、4速で走っていて、あ、ちょっとギアを落としたいなって思ったら、スロットルがオフでもオンでもギアをひとつ落とすだけです。
高木:
街中で使うような低回転~中回転の領域では、何も気にせずシフトチェンジできます。
一方、サーキット走行のような高回転の領域では使えない象限のQSマーク横の△▽ランプが消灯するので、クイックシフターでシフトアップできるのかシフトダウンできるのかが一目でわかります。

細:
街中の走行は本当に快適です。通学や通勤時にクイックシフターがあるとスムーズですよね。高速を走るときよりも、信号がいくつもあってストップ&ゴーしたり、加速・減速が多かったりと、街中を走るほうが、クイックシフターのメリットを実感できると思いますよ。クラッチを握る回数が圧倒的に減りますので。
西村:
ツーリングの帰りに渋滞に巻き込まれることもあると思います。だいたい疲れているときに限って渋滞するんですよね(笑)。そんなときにクイックシフターが付いているとすごく助かりますよね。
第1世代クイックシフターをもっと活用して
スポーティ&スムーズな走行体験を楽しもう!

高木:
免許取得したての初心者ライダーに人気のYZF-R25/YZF R3やMT-25/MT-03には、シフトアップ側のみの 第1象限に対応するクイックシフトキットが株式会社ワイズギアの
別売りアクセサリーとして販売されています。シフトアップの時だけですが、クラッチを握る回数が減るので、その分だけでもイージーになりますよね。
細:
ちょっとした操作の低減なので、半日程度だったら実感できないかもしれませんが、ツーリングで一日中走った最後、家に帰ってきたときの疲れ具合がだいぶ違うんじゃないかと思います。
岡松:
シフトアップ時のレバー操作が減ることで、ブレーキングなど、別の運転操作に集中できるんです。また疲れにくいって、周りに注意を払える余力が残っているとも言い換えられると思います。そのため、特にずーっと緊張して乗っている初心者の方に、クイックシフターは、ぜひオススメしたいアクセサリーです。

西村:
シフトアップ時の操作が減ってラクになることに加えて、手軽にレーシーな走りを味わえるのが、YZF-R25/YZF R3やMT-25/MT-03に後付けで搭載可能なクイックシフターのメリットですよね。
普通にクラッチを握ってシフトチェンジをすると、やっぱり時間がかかっちゃうから、シフトアップの音は、バア〜ン、バア〜ンって少し間延びしますが、アクセサリー設定のクイックシフターだと、バアッ、バアッ、バアッって小刻みにテンポ良くなるので、レーシーな走行感覚を簡単に楽しめるんですよね。
変速時のクラッチ操作に不安や煩わしさを感じている初心者に方にも是非クイックシフターを活用して、バイクを操作する楽しさを手軽に実感して欲しいと思います。
----------------------------------------------------
岡松さん、高木さん、細さん、西村さんありがとうございました!
クイックシフターは、楽で走行時の快適性に目がいきがちですが、そもそも出自がレースで速く走るためであって、レーシーな走りが手軽に味わえることが大きなメリットであることを再認識することができました。
第3世代クイックシフターは、ヤマハ バイクレンタルでも手軽に体験することが可能です。

この記事を読んでクイックシフター付きのバイクに興味が沸いた!という皆さん!
人機官能の開発思想に基づいてこだわって造り込まれたヤマハの第3世代クイックシフターをぜひお試しください!
また、以下からはYSPの試乗車を検索することができます。
ぜひ、ご活用ください。

それではまた。
■関連リンク
- 2025年10月9日








