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軌跡をたどる SR開発秘話:06 SRは"ケッチン"を完全に卒業した!?

2021年2月3日

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SRの"らしさ"のひとつにキックスタートがある。そもそも「SR400」のベース・「XT500」は、エンデューロ性能を照準に開発されていた。いかに軽量コンパクトに作るかという意図から、エンジンはシングルのショートストローク、最低地上高を確保するため潤滑方式はドライサンプが採用された。当然セルスターターはついてない。

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当時の販売店向けの月刊誌『ヤマハニュース』には、「デコンプ利用で"女性でもキックできるくらいの軽さ"でキック始動できる」とある。当時の開発スタッフも「手順を踏んできちんと始動を行えば、"ケッチン"は起こらないことは「XT500」で確立できていた」と話す。"ケッチン"とは、キックレバーの踏み込みが弱い場合、燃焼が不完全となりクランク軸が逆回転しキックレバーが押し戻されること。

当時開発では"キック耐久"と呼ぶ開発テストも慣行されていた。1人当たり100回ほどエンジンを始動するテストだった。このテストでは"ケッチン"をくらうことが予想された。最悪、跳ね返ってきたキックレバーが足首に強くあたって捻挫しかねないと想定された。そこでこの耐久テストでは「足首を守るためオフロードブーツを履いて作業せよ」という実験基準が作られたという。

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エンジン始動には、外部動力が必要だ。セルフモーターか、または人間による操作に頼る。排気量が大きくなれば始動に必要なパワーも増す。400cc・500ccでは、キック操作にも大きな力が必要。"ケッチン"を防ぎながら、スムーズな"キック"始動を支える仕組みが、SRの「キックインジケーターの窓」と「デコンプレバー」だ。

セルフスターターは、ボタンを押している間ずっとモーターが回ってくれるが、キック作業は一瞬。その僅かな間に始動させるにはピストンを丁度よい位置において、そこから"キック"することが鍵。その虎の巻、つまり丁度いいピストン位置を教えてくれるのがSRエンジンの右にある「キックインジケーターの窓」だ。


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しかし、窓だけではうまくいかない。キックペダルを踏み込むと、あるところでペダルは極端に重くなり止まってしまう。吸・排気バルブともに閉まり圧縮が最高となるところだ。それではインジケーターの"OKサイン(銀色の目印)"まで辿り着かない。そこで役立つのがデコンプレバーである。レバーを引くと、排気バルブが少し開き燃焼室に小さな穴が空いた状態となる。これで圧縮が弱まってキックペダルが軽くなり、ピストン位置を丁度よいところにもって行ける、という訳。


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「XT500」の頃は「キックで始動できない人は、買う資格ないね」くらいの勢いだった。しかしロードスポーツとしての「SR400/500」の開発では、「ビギナーの方も乗るだろう」との予想から、さらにきっちり"ケッチン"対策が施された。点火方式も、XTではフラマグ式のポイント点火だったが、SRではポイントレスのCDIマグネトーへ変更。点火の回転数条件を自由に設定できるこの特徴を活かし、300回転以下の回転域、つまりキックの勢いが弱いときは火花を飛ばさない設定とし、"ケッチン"対策を充実させていった。

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当時の開発担当者はこう語る。「実験担当の中でキックが一番上手い人だと700回転相当でしたが、非力な人の場合は400回転以下くらいでした。そこで300回転以下は点火しない電装系にしたんです。さらに点火系の簡素化、キックペダルの減速機構シンプル化などを行い、"ケッチン"に関しては完全に卒業したモデルとして世に送り出しました」と。SRの開発陣の思い出話の中で、"ケッチン"は欠かせないワードになっている。

2021年2月3日

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