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軌跡をたどる SR開発秘話:09 粒立った歯切れの良い音色に歴代開発者の造詣が息づく

2022年3月16日

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40年以上も歴史のあるモデルだけにSRに携わったことのある開発メンバーは数知れず。開発部署の40代〜50代以上のベテラン社員であれば、ほぼ全員と言っていいくらい、多少なりともSRに関わった経験があると言われているほどだ。
「担当した人はSR開発ならではの苦労を実感しているんですよね。だからみんな(SR開発メンバーのところへ)覗きに来る。覗きに来て冷やかしついでにアドバイスもくれるんです。昔こういうことがあったよ、大変だねって。そのちょっとしたアドバイスがとても助けになりました。私の頃は、初代のエンジン設計者が、まだ社内に残っていて、当初の設計意図や苦労話など、色々聞けて助かりました」とはFI化モデルのエンジン開発者だ。

また2017年に一旦生産が終了していたSR400が、「二輪車平成28年排出ガス規制」に適合して2018年11月に復活するにあたり、助けになったのも「前の、前の担当者たちから引き継いだ資料」だった。
「当社には、遠州地方の伝統的な気風、"やってやろうじゃないか!"の意味を持つ《やらまいか精神》が根付いていることもあり、もう少しこうしてみてはどうか、などと、次のモデルに活かせる知見を残しておく習慣があるんです。SRに限った話ではありませんが」と平成28年の排ガス規制対応モデルでエンジン実験を担当したスタッフは言う。


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平成28年排ガス規制に適合させるには、排ガス中の炭化水素や一酸化炭素などの有害物質を浄化する触媒を2個から3個へ増やすとともに、触媒の開口部を300セルから400セルへとより細かくする必要があった。その結果、排気通路の抵抗が増えて排気の流れを妨げるため、エンジン性能の低下が危惧された。
「エンジン性能が排ガス規制適合の影響を受けるとしても、音の魅力を付加していくことでカバーできないかと考え、プロジェクトとしては最高速よりも心地のよい乗車感をめざしました。そもそも排ガス規制に適合させること自体、ものすごくハードルが高いのですが、規制をクリアしながら前のモデルを超えるものをつくり出したかったのです。
心地よさの源泉は振動と音、両方から導かれることはわかっていました。そこで指針となる音を探ろうと、方向性を振った色々なマフラーの音を聴き比べました。そして単気筒のSRらしいフィーリングを良くするには、こっちの方向だよねと帰着したのが、キャブレーター仕様最後のモデルの音だったんです」(音質改善の担当者)

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音色の手本としたキャブレーター仕様最後のSR400

目指すべき方向は定まった。とはいえ、その音を同じように再現するのではなく、その音に含まれているエッセンスは何かを解析。導き出された答えが、「周波数、歯切れ、音量の3つの指標であらわされる適度な音」だった。SRの音をより良くしようという考えは古くから社内にあり、伝統の音響解析技術や、過去のSR開発担当者がさまざまにトライした軌跡が残されていた。そうした知見に基づき、低音を出す構造、歯切れを良くする構造、音量を上げる構造、それぞれを組み合わせてマフラーを試作した。新型のモデルであれば、コンピュータソフトによる解析・シミュレーションを実施するが、SRは1970年代生まれのバイクであり解析用のデータがない。昔ながらのやり方だが、歴代の資料やノウハウを参考にして、試作マフラーを6種類用意したのだった。

「実際のところシミュレーションだけでは、聴感音を全て解析できないので、最終的に試作マフラーを確認する必要がありました。音色・音量の異なる6種類の試作マフラーを用意することで、SRに最適な排気音を選択できたのではないでしょうか」とはエキゾースト設計の担当者だ。
もちろん排気系を変えただけで、乗車感が良くなるわけではない。方向性がきまったマフラーを元にFIセッティングの担当者やエンジン実験の担当者らが、調整と作り込みを幾度となく繰り返し、さらに磨きをかけていった。そうして時速40kmから60kmくらいにかけ、SRで走るにはもっとも心地よい走行領域で、スロットルをじわっと開けた時の緩加速時に、一粒一粒、粒の立った歯切れの良い音色のSRが誕生したのだった。

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「最新の排ガス規制と騒音規制を通しながらも、絶妙なバランスで目指した音色のマフラーを完成でき安堵しています。これも歴代のマフラー構造の資料や部署の大先輩をはじめとする、さまざまな先輩方に意見を仰ぐことができたおかげ」と振り返るのは、音作りのキーマンであった、当時入社3年目のスタッフだ。彼は続ける。
「二輪免許を取得して初めて買ったバイクがSR400。入社面接ではSRのエピソードを語った僕が、そのSRの音づくりに携わることができて、本当に感慨深い」
今回の開発に際してまとめた音の作り込みの膨大な資料は、後世の開発担当者が単気筒モデルを作るときに紐解けるよう、先輩から受け継いだ分厚い資料の上に積み重ねられている。

2022年3月16日

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