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《YAMAHA × Honda 特別企画1 /テストライダー対談》時代とともに価値観は変る。それでも"FUN"を創り続けていく。

2023年3月20日

若い世代の間でバイクへの関心が高まる中、「バイクの今と未来」についてヤマハとホンダが語り合うスペシャル企画。その第1弾は、市販車の開発に向き合う両社のテストライダー同士の対談です。2030年に向けて、変わるべきこと、変らないもの。感性評価のプロフェッショナルたちが、バイクの魅力、そしてその未来について語り合いました。

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山田 心也(右) ヤマハ発動機(株)PF車両開発統括部 車両実験部 プロジェクトグループ
2008年入社後、商品実験部(現・車両実験部)に配属。インド向けモデルの実験を担当した後、ヤマハモーターベトナムで実験サポートなどを経験。現在はMT-09系の実験を担当する。趣味はバイクスタント、狩猟、筋トレ、ギター

笹澤 裕之(左) 本田技研工業(株)二輪・パワープロダクツ事業本部 ものづくり統括部
2007年入社後、第1商品開発室2ブロック動力性能グループに配属。スクーターモデルの実験を担当した後、CB・NCシリーズの動力性能テストを担当。現在はCB1000R系の動力性能テストのほか、CB350系の開発責任者代行も兼務。趣味はツーリング、カスタムペイント、サウナ

―― お二人が、バイクに乗り始めたきっかけは?

山田 兄の影響ですね。最初は高校生のときです。

笹澤 私は「自転車以上の乗り物に乗りたい」という気持ちをずっと持っていました。免許を取る前にXJR400を購入して、クローズされた安全な場所で練習もしていました。

山田 XJRで、ですか?

笹澤 はい。教習所には行かず、一発試験で免許を取りましたから。

山田 私も一発試験組です。試験は5回ほど受けました。

笹澤 今は、そんな乗り始め方をする人は少ないと思います。バイクそのものの魅力だけでなく、バイクをツールの一つとして捉えて、バイクを使い、綺麗な景色を楽しんだり、美味しいものを食べに出かけたり、誰かとつながるということにも楽しさを感じているのではないでしょうか。乗る楽しみだけではない、ということですね。

山田 そうかもしれません。ところで笹澤さんご自身は、バイクのどんなところに魅力を感じますか?

笹澤 ひと言で言えば"FUN"じゃないでしょうか。楽しさです。バンクして曲がることや、クルマよりも車体挙動を感じやすい。そんなことがスロットル操作で出来てしまう。そこに面白さを感じます。また、車体から直接感じ取れる情報が多いのもバイクの魅力の一つだと思いますね。

山田 同感です。それに加えて先ほどお話しされたように、バイクを通して人とつながったり、バイクがあるから人が集まってくるといった楽しみ方もある。

笹澤 バイクは、コミュニティを広げられる媒体なんですよね。だからこそ、女性や若い人も乗り始めているのではないでしょうか。


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バンクして曲がる。クルマより車体挙動を感じやすい。
車体から直接感じ取れる情報が多いのも、バイクの魅力の一つ。

                        ―― 笹澤

―― テストライダーとは、具体的などのようなお仕事ですか?

笹澤 大枠としてですが、各機種にはコンセプトがあり、購入してくれる顧客像があります。私は動力性能グループに属しているので、顧客の走行シチュエーションや使い勝手から、どんなエンジン出力特性で、最高速や加速性能はどんなものが好まれるか、乗り手にとっての最適はなにか? 決めた目標に対して、各性能を満足しているかテスト確認を行います。たとえば後輪駆動力がどの程度であれば気持ち良く走れるかを見極めるために、感性で捉えるところを数値化し、開発メンバーと協力しながら、製品を具現化、完成車としてコンセプトに合致しているか否かを見極めていく仕事です。

山田 ヤマハもだいたい同じですね。開発プロジェクトが掲げているそれぞれの目標に対して、用意されたテストパーツが合致しているか、特定のシーンを想定しながら検討していくのが私たち車両実験部の仕事です。品質を保証する機能が別部門にあるのですが、各市場における要求に対して、この程度のものでなければならないといったところを判断するのは車両実験部の領域です。

笹澤 最も大切なのはコンセプトだと思います。コンセプトがブレていては、開発メンバーの方向性も定まらず、良いバイクを開発することはできません。さまざまなメンバーが関わるからこそコンセプトが大事になります。

山田 感覚を数値化できれば分かりやすいんですけど、その感覚を設計者が理解できるように変換して伝えるのも車両実験部の重要な役目です。私たちの職場には、「実験的設計検証」という言葉があります。これは、実験とは単なるテストではなく、設計のプロセスの一つだという考え方です。実験で得られたことを設計にフィードバックして、初めて仕事が完了するという意味で使われています。

笹澤 プロジェクトのメンバーは「納得いくものを作りたい」という共通の思いがありますから、必要があれば、上司に対しても率直な意見を伝えます。言われたことだけをしていても開発は楽しくないですし、良い物は出来ないですから。「お前はサラリーマンタイプじゃない」とよく言われますね(笑)。

山田 ヤマハの開発も、サラリーマン的ではない人のほうが多いと思います。車両実験部には、まともなサラリーマンがほぼいないと感じます(笑)


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職場には「実験的設計検証」という言葉がある。
実験は単なるテストではなく、設計のプロセスの一つという考え方。

                          ―― 山田

―― テストライダーとしてのスキルは、どのように磨いていくのですか?

山田 人材育成の体系化は難しいのですが、操安(操縦安定性)部門で昔から行われてきたのは、徒弟制度のようにベテランと若手がペアを組む方法です。若手は、親方のやり方を見ながら学んでいくわけです。実際の市場環境を知るために現地テストに行く機会も多いのですが、その際にも若手を同行させて、どのような環境でどのようなテストを行うのかを見せながら、日本のテストコースで置き換えの評価ができるように導いています。ただ、このようにすればテストライダーとしての適性が育つ、という正解があるわけじゃありません。だからこそ面白いのかもしれませんね。

笹澤 ホンダでも、基本的には山田さんがおっしゃった内容と同じですね。皆、それぞれ師匠がいますね。師匠をみて盗む感じです。

山田 ところで笹澤さんは、最初からテストライダーを希望していたのですか?

笹澤 私の場合は、入社して部署希望を出す際に、「設計と研究のどちらがいいか?」と問われて、「乗って仕事をしたい」と答えた記憶があります。自分が開発を担当したバイクに、お客さまが乗っている姿を見たい。喜んでいる姿がみたいという思いがありました。

山田 私もそうです。最初から「車両実験部にいきたい」と伝えていました。バイクに乗りたいという思いが強かったし、試作部品を最初に試せることにも魅力を感じていました。

笹澤 試作部品は壊れる可能性もありますから、正直、怖さもありますよね。

山田 新入社員のころはまだ思慮が浅かったので、そこまで考えていませんでしたね。それから、他社製品との乗り比べにも魅力を感じました。今ではプライベートでも乗り比べをしています。

笹澤 ホンダでは、乗り比べるだけじゃなく、他社製品をバラバラに分解して、単体部品でのウエイトを測ったりしています。FORZA750開発時には比較車としていたTMAXを分解して、個々のウエイトをきっちり測らせてもらいました(笑)。

山田 ティアダウン(分解・解体)は私たちもさせてもらっていますけど、どちらかと言うとヤマハでは、購入してきた他社の製品に乗って「なるほど、このようなものか」と理解ができたら、そこで満足してしまっているケースも少なくない気がします。

―― バイクを取り巻くさまざまな環境変化に対して、どのように感じていますか?

笹澤 EV車が増えていく流れは、当然あると思います。EVはモーター駆動なので、出力特性の自由度が高く、発進から最大トルクを出すこともできますが、そのようにしてしまうと、乗り味のようなバイクの楽しさが生まれにくくなくなってしまうと危惧しています。

山田 ご存知のようにヤマハでも、いろいろなEVを開発しています。他社製品も含めていろんなEVに乗りましたが、正直なところ、それほど面白いと感じたことがありません。最初に一瞬の感動はあるのですが、そこで頭打ちになってしまう印象です。

笹澤 エンジンの吹け上がり、鼓動感などを楽しいと思って購入してくれているお客さまに対して、EVでもそういう部分を表現していかないとみんな同じになってしまう。それこそ、モーターや電池をヤマハもホンダも共用するようになれば、外観の違いしかないという状況になってしまいます。乗り味といったところを大事にしていかなければ、競争もできないという気がしています。

山田 コミューターであれば、誰でも簡単・便利に使ってもらえるものが良いのではないかと考えます。ただ、EVが主流になったとしても、バイクにはFUNの要素は絶対に必要だと思っています。バイクにはトランスミッションがあり、変速をすることで、いやが応でも操作している感を受けます。仮にトランスミッションがなくなってしまったとしても、ライダーとバイクのエンゲージメントはまだまだ必要なのではないかと思います。

笹澤 操作をしている感覚というのは自分のものですから、そこが楽しさにつながっていると思います。FUNなバイクを開発する上では、そういう楽しさを大事にしていかなければ、顧客の共感も得られないのだろうと感じます。

山田 ホンダさんにはDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)がありますよね。DCTについてはヤマハでもさまざまな研究をさせてもらっていますが、私自身はかなりの面白さを感じました。たとえば私が担当したMT-09にはアップダウンのクイックシフターが付いていますから、発進時以外はほとんどクラッチを握らなくてもよくなっています。それを考えるとDCTなど要らないのではないかと思うところもあるのですが、実際に乗ってみると「走りに集中できる」という新しい価値が見えてくるんです。レイアウトの自由度も高まるので、もっと新しく、もっと面白いバイクが出てくる可能性も感じています。


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山田さんが走行実験を担当するMT-09(左)と、笹澤さんが開発責任者代行を務めるGB350


―― ホンダとヤマハ。それぞれの強みや、互いの印象などを教えてください。

笹澤 ヤマハさんもホンダもさまざまな地域に販売網を持っていて、質の高いアフターサービスができるという共通点があります。購入してもらったバイクを短期間で乗り捨てるのではなく、長く製品と共に過ごすことで愛着が沸き、さらに製品を好きになれる。もしかしたら購入時にはやや高価だと感じる方もいるかもしれませんが、長い期間で見ればそれほど高い買い物ではないと感じてもらえるはずです。そうしたことが、国内メーカーに共通する強みではないかと考えています。

山田 そうですね。ただ、私自身は海外メーカーの存在に対して、強く危機感を持っています。EVもそうですが、進歩が非常に早いところに凄みを感じます。国内メーカーの基準ではとても出せないような製品を構わず次々に出してくる。未完成であるけれども、機能としては付いているという感じです。そういうビジネスモデルと電動化は非常に相性がいい。とは言ってもヤマハではそんな方法は採れないですから、ヤマハならではの強みを出していかなければならない。たとえばソフトウエアの開発などでも、バイクメーカーでなければ扱えない情報を生かしたコンテンツなどが必要だと考えています。

笹澤 ヤマハさんに対しては、デザインにかなりチャレンジしているという印象を持っています。ホンダでこの形はできないなと思わされるようなデザインも、ヤマハの製品には見ることができます。スタイリッシュな印象があって、私はヤマハのそういうところが好きですね。一方「ホンダは優等生」という評価がありますが・・・。

山田 確かに、そのイメージもあります。ホンダさんに対して私がリスペクトするのは技術力です。乗って評価をすると、かなり細かいところまで配慮して作り込まれていると実感します。「しっかり作り込まれた優等生」という評はそのとおりで、特にNCシリーズなどは、制御がしっかりしていてすごいと思う。かなり細かいところまで見ているという印象です。

笹澤 優等生にするために時間がかかっている部分もありますが。

山田 違う視点でいくと、レブル250が非常に売れています。高い技術力の反面、あのように割り切ったこともできるのをうらやましいという感じることもあります。

―― では最後に、今後どのようなバイクを作っていきたいか、それぞれお願いします。

山田 先ほどから出ていますが、人々の価値観は次々に変わっていく流れにあります。たとえば排気音。これまでは、排気音は迫力があるほうがよく、吸気音も聞こえるほうがいいといった価値観が存在しました。そうしたことも、きっと時代とともに変わっていくでしょう。私は、変っていく価値観に合わせていきながらも、それでもバイクの絶対的な魅力であるFunを創り続けていきたいと思っています。

笹澤 バイクは移動するだけじゃなく、移動の過程でライダーが感じる操作感が非常に大切。我われバイクメーカーがそれさえ見失わなければ、電動化しても魅力は変らないと思います。特にFUNモデルにおいては......。一方で、コミューターはもっとシンプルに、誰でも簡単に使えるようになるといいですね。

山田 今日は、遠いところまでお越しいただきありがとうございました。ぜひ、コミュニケーションプラザを楽しんでいってください。

笹澤 ありがとうございました。


《YAMAHA × Honda 特別企画2 /開発責任者対談》バイクブーム再燃! バイクの未来と今を語り合う。


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2023年3月20日

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