気軽に乗れる旅の相棒感を表現! 2025年モデル「TRACER9 GT」「TRACER9 GT+ Y-AMT」デザイン担当者のこだわりを紹介
- 2025年4月23日
ヤマハモーターサイクルのフラッグシップと言っても過言ではないほど、最新の技術や機能・装備を搭載した「TRACER9 GT」「TRACER9 GT+ Y-AMT」。
いろいろな機能をたくさん積んで便利で安心感が増しているのに、軽快感や扱いやすさは従来のまま。むしろ実際の足つき性は良くなっているなど、まさに旅に出たくなる相棒的な"スポーツツアラー"として正常進化を遂げています。
ここまでたくさんのアイテムを搭載し、変更を加えて進化させつつも、「TRACER9」"らしさ"を維持できた背景をデザイン担当者に聞きましたので、紹介します。
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「TRACER9 GT」「TRACER9 GT+ Y-AMT」デザイン担当
デザイナー・GKダイナミックス・木下 省吾さん(左)
デザイン企画・プロダクトデザイン部・佐藤 丈夫(右)
"ツール"からもっと身近に信頼できる"パートナー"へ
デザイン企画・佐藤:
「TRACER9 GT」「TRACER9 GT+ Y-AMT」は、旅心をくすぐる軽快なフォルムで、スポーツ走行を楽しめる性能を持ちながら、日常使いにも便利な装備を備えた真のオールラウンダーとして、独自の世界観を構築できている唯一無二のモデルです。ハイパワーで魅力的なスペックを備えているものの日常使いは少々厳しい大型スポーツツアラーや、オフロードを主軸とする大型アドベンチャーモデルとは一線を画し、旅するためのバイクとして、40代から60代を中心に、幅広いお客さまに支持いただいています。

※画像は海外のクローズドスペースで撮影したものです。交通法規・仕様が国内とは異なります。
※アクセサリー(サイドケース、サイドケースサポートステー、サイドケースパネルセット)を装着しています。
※本記事の車両はすべて海外向けモデルです。仕様が国内とは異なります。
デザイン企画・佐藤:
当社は、"人機官能"という考え方に基づいて、人とマシンの関係性を考え続けてきました。従来モデルの「TRACER9」は、バックパックや十徳ナイフなどの旅道具をモチーフにデザインしてきましたが、今回の新型「TRACER9 GT」「TRACER9 GT+ Y-AMT」では、より相棒的な側面も感じさせたいとの想いがありました。
そこで、今回は新たに「MIND TRACKING PARTNER」をデザインコンセプトに掲げ、旅をともにする頼もしき相棒として、ライダーと対等な関係性の表現を目指しました。
デザイン企画・佐藤:
今回の「TRACER9」は、「MT-09」の派生モデルとして2015年2月に誕生した初代、そして2021年7月にモデルチェンジした2世代目に続き、デザイン的には3世代目にあたります。
デザイナー・木下さん:
2025年モデルとして、「TRACER9 GT」「TRACER9 GT+ Y-AMT」をどう成長させていくか・・・。俊敏でしなやかでスリムなデザインの先代「TRACER9」をベースに、さまざまな機能やデジタルデバイスを搭載することで進化をしっかりと表現したいと考えました。搭載する上では上質な印象を大切にしながら全体をまとめることで、頼もしさやタフさを感じる佇まいになっています。
デザイン企画・佐藤:
今回のモデルでは、エンジンとメインフレーム以外、デザイン視点でほぼ全てに手を入れています。燃料タンクの製法、灯火類のレイアウト、各種構成部品まで踏み込んだディスカッションを設計のみなさんと行いました。一般的にデザインとして現れてくるものは、色や形、線といったものですが、今回はミリ波レーダーやマトリクスヘッドランプ用のカメラ、ストレージコンパートメントなどのさまざまな機能やデバイスを、機動性のためにどこまで小さくできるのかを企画段階から突き詰めていきました。
エリアごとの機能から生まれるシルエット
フロントはエアロデバイスエリア
※画像はデザインスケッチです。実際の車両とは異なる場合があります。
デザイナー・木下さん:
旅への意欲と推進力を生み出す「フロント部分」、ライダーと車体との一体感を高める「センター部分」、ライダーとラゲッジの荷重を受け止め、後方から支える「リア部分」と、大きく3つの役割に基づいてデザインを進めました。
フロントは、エアロデバイスエリアです。
「TRACER9」は、「MT-09」が継承してきた俊敏さと凝縮感のある佇まいに、必要最小限のカウリングを備えたのが出発点です。
デザイナー・木下さん:
そのためフロントのカウリングは、向かってくる空気を切り裂き(乱流)、あるいは受け流す(整流)ための機能パーツであり、サイズや形状を突き詰めることで、スポーツバイクとしての機動性とツアラーとしての快適性をバランスさせていました。
※画像はデザインスケッチです。実際の車両とは異なる場合があります。
そもそも、「TRACER9」のデザインには、サイドパネルからフロントに掛けて矢が突き進んでいくような"アローシルエット" というテーマが初代モデルから受け継がれています。
今回はそれを踏襲しながら、風は避けるものではなく積極的に活かすものとして、つまり"活流"という発想の元に、フロントスクリーンやフロントのサイドパネルなどに当たる風をどういなすのか、コントロールしていくのか、風が優しく当たるところと風を切り裂くところと、部位によってどういった風の流し方をするのが良いのか、設計や実験のみなさんと議論を重ね、突き詰めていきました。
風を活かした最小で最高のプロテクション
デザイナー・木下さん:
フロントには無段階に100mm可動する電動スクリーンを搭載しているので、スクリーンの位置が高くても低くても、プロテクション効果がしっかり発揮されるよう作り込んでいます。
近くで見るとよく分かるのですが、スクリーンに複数の折り目と反りを組み合わせた曲面を持たせたり、サイドカバーも反りや膨らみを持たせたりと、レイヤー構造を活かして風を上手く変化させているのです。
また、太ももや脛のあたりは、ぎりぎりかすめる程度に風を逃がし、逆に身体の中心に近い、お腹周りは多段的に風を間引き、風が当たるところを散らして快適性を確保しています。
デザイン企画・佐藤:
あえて乱流を引き起こして整流する、飛行機などに付いているヴォルテックスジェネレーターとか、空力に関するいろんな知識を引っ張り出してきて、こういう形状にすればこんな体験が提供できるのでは?と想像を膨らませました。
とは言え、デザインメンバーは空力の専門家ではありません。通常であれば、見た目からコンセプトを感じられるかどうかを基準にデザインしますが、今回は、実験のみなさんと早い段階から議論を始め、風洞実験とCFD(数値流体力学)解析を繰り返し、形と機能の整合をきちんと図りました。
エルゴノミクスエリアのセンター
デザイナー・木下さん:
真ん中は、ライダーと接するエルゴノミクスエリアです。
今回、部品構成を見直し、徹底的にスリム化し、タンクとカバーの一体感、スムーズなフィッティングを創り上げることによって、足つき性を向上しました。
デザイナー・木下さん:
シート前側をフラットにしてライディングポジションの自由度を上げました。長距離ツーリングでも疲れにくくなるようにしながら、ステップアーチレングスと言って、足の内側のアーチの長さや太ももの角度に最適にフィッティングするように、面の角度や張り具合の調整を重ねました。
デザイン企画・佐藤:
シート高の数値を上げて、快適性を追求することがいいことなのかは、かなり議論を重ねたポイントです。とは言え、実際の足つき性はとても良くなっているので、自信を持ってオススメできるポイントです。
デザイナー・木下さん:
また、センター部分については、しっかりした骨格表現があることで、旅のパートナーとしての頼もしさにつながっています。ライダーが乗り込むときに目にする、斜め後方からのビューを大切にしました。
※画像はデザインスケッチです。実際の車両とは異なる場合があります。
デザイナー・木下さん:
フロント周りに色々な機能が付いており、それらの重量物を支えられる余裕感が頼もしさに繋がります。タンク周辺は、しなやかだけどしっかり筋肉質で体幹があるようなデザインにしました。
タンク前側は風に負けないカチっとした硬質感のある面で表現しているのに対し、人が触れるタンク周りは、少し艶めかしいような、なめらかなフォルムへとグラデーションさせているんです。
後方から支えるラゲッジエリア
デザイナー・木下さん:
リアはラゲッジエリアです。ライダーとラゲッジの荷重を受け止めて、後方から支える役割を担っています。
トップケース、サイドケース、リアキャリアを付けるなど、機能に即した明確なデザインテーマをうまく融合させることで「TRACER9」らしいシルエットを目指してデザインしました。
デザイン企画・佐藤:
「TRACER9 GT」「TRACER9 GT+ Y-AMT」を購入されるお客さまは、タンデムする機会が多いと思います。大切なパートナーの乗り心地もちゃんと意識してつくられたモデルだよ、というポイントは購入時にパートナーの理解を得やすいのではないでしょうか?
リアフレームを新作して、タンデムシートの座面サイズを向上し座り心地を改善。タンデムバーの握りやすさにも配慮をし、タンデムライダーの居住性、快適性を高めています。
このサイズだからこその頼もしさ:マトリクスLEDヘッドランプ
デザイン企画・佐藤:
マトリクスLEDヘッドランプは最も苦労したところです。実は、最初はもっと大きかったんです。正直、バイクのサイズではないくらいだったんです(笑)
新しい「TRACER」に必要な機能ですが、搭載の仕方(位置/配列/デザイン)次第で機動性をどの程度感じてもらえるかが変わってくると思いました。同時に、この機能をデザインでもしっかりアピールすることで、明け方や夜道といった、ためらってしまいそうになるシチュエーションでも安心感を提供できると考えました。
旅に誘う機能として、安心感や信頼感につながる大切な要素であり、お客さまの旅の可能性を広げられる必須アイテムだと思います。
デザイナー・木下さん:
色んな車両と比較したときに、見劣りしないボリューム感も意識しました。
デザイナー・木下さん:
マトリクスLEDヘッドランプを搭載した上で、どこまでタイトに見せていくべきなのかに頭を悩ませました。
デザイン企画・佐藤:
人が乗った時はもちろん、荷物の有無などによってシルエットバランスが変わって見えますからね。
また、マトリクスLEDヘッドランプの粒のレイアウトや、メインのヘッドランプとの関係性を模索しながら、徐々にカタチにしていったんです。
デザイナー・木下さん:
3Dデータを見ながら、ここってもう少し詰められるんじゃないの?合わせ方を変えたらどうなるの?ちょっとでも削れるんじゃないの?ということを何度も繰り返し探りました。
デザイン企画・佐藤:
ちらっと見える赤や青の配線を隠したり、基盤の色を目立たないようにブラックに変えてもらったりということにも時間をかけることで質感を高めていきました。
デザイナー・木下さん:
フロントフェイスはバイクの印象を作る大事なところで、表情のある目つきとメカニカルなランプの対比、そしてフェイスをグッと引いたプロポーションが、「TRACER9」のアイコンです。以前から「TRACER9」は、ポジションランプで顔の表情を作っています。ヘッドランプは機能物として魅せるという考え方でしたので、今回もその考え方を踏襲しています。キビキビ走る俊敏性だったり、しっかり先を見据えて走るタフなイメージだったりをランプでしっかり作り込みました。
2025年モデル「TRACER9 GT」「TRACER9 GT+ Y-AMT」は、ミリ波レーダーやマトリクスLEDヘッドランプ用のカメラなど、本当にさまざまなデバイスがフロント周りに付いていて、ヤマハの最新技術がてんこ盛りのモデルです。
たくさん機能が付いているけれど仰々しくならず、上質感と機能性を表現できるよう、最後の最後までやり直しました。
カウリングもプロテクションを追い求めながらギリギリまで詰めて、いかに活流と機敏さと頼もしさを両立させるかを関係者のみなさんと議論を重ねて、このデザインに辿り着いたんです。
旅の相棒として、細部の質感まで徹底的にこだわる
デザイン企画・佐藤:
言われなきゃ気づかないような細かい部分もかなりこだわっています。
例えば、色々なパーツをブラックアウトしています。ブレーキレバー、リアサスペンションのスプリングやリザーバータンク、ライダービューから見えるボルト類など、徹底しました。細部まで一貫性を持ってこだわることが車両の上質感に繋がるんです。
デザイン企画・佐藤:
構成部品類や金属部品って基本的に設計者の担当領域なんです。開発の早い段階で、デザインサイドから設計のみなさんにブラックで統一したい旨を会話していたんです。そうしたことで、開発が進むにつれて設計者自ら「ここだけシルバーのままはおかしいね」と気付いて変更してくれるようになりました。どうしてもブラックに変更できないパーツも一部ありましたが、よほどのことがない限りブラックに統一しています。ワッシャーまで黒にしているんですよ。
細かい部分までこだわっているので、実車を見たときにしっかりと質感の良さを実感いただけると思います。
デザイナー・木下さん:
もっと細かいことを言えば、同じブラックといっても塗装パーツや樹脂パーツに金属のタンクと、それぞれ素材が違うと、見たときの雰囲気が違って見えるんです。素材によってはアール(角度)の大きさの違いで見え方がずいぶん変わってくるので、そこの部分も含めてトータルでの見栄えを意識しながら調整しているんです。
デザイン企画・佐藤:
細かいところへのこだわりとしては、ライダーが常に目にするところなので、コクピットエリアの質感や作り込みにも注力しています。
デザイナー・木下さん:
ディスプレイ周辺も上手く収まっていると思います。ライダーから見て隙間があったり、裏側的なものが少しでも見えたりしないように配慮しています。やっぱりライダー目線で見えるところの配線などの部分って気になりますよね。なので、常に目に入るところは、しっかりと細部まで作り込むよう、設計者と話をしながら進めました。背面から見ても取って付けたようにならないよう、綺麗に作り込んでいるんです。
TFTディスプレイはベゼルを最小限にして、厚みも薄くしています。筐体の断面構造やシール構造を2023年モデルTRACER9 GT+から変更したことで、インチサイズ自体は変えずに、一回りコンパクトにできました。
デザイナー・木下さん:
全体的なスタイリングはもちろん、旅の相棒ですから、細かいところまで大事にしました。見えなくて良い物は見せない、見せるところはかっこよく見せることを徹底しました。
細部まで徹底的にこだわり、それを実現できたのも企画者、設計者、そしてスカルプターやデザイナーといった、関係するメンバーが一体となって開発を進めることができたからです。
デザイン企画・佐藤:
「マトリクスLEDヘッドランプ」を始め、「電動スクリーン」に「ストレージコンパートメント」などなど、今回はフロント部分に搭載する機能が多く、途中いくつか積めずに脱落する物が出てくるのではないかと思っていました。ところが、だんだん詰めていくとどんどん色々なものが小さくなりました。
最初は飛び出ていたストレージコンパートメントも収まったし、ヘッドランプも小さくなっていったんです(笑)
デザイナー・木下さん:
担当者一人一人が1ミリずつ詰めていったら、トータルでこんなに詰めることができたという、地道な努力の積み重ねで生まれたモデルです。このモデルに限らず、企画者とデザイナーと設計者とスカルプターが担当領域を超えて互いを尊重し、ボルト1本に至る細かいところまで話し合いを重ね、一体となってモノづくりに取り組むところは、ヤマハらしいやり方なんです。
今回のデザインコンセプトである「MIND TRACKING PARTNER」を具現化する頼もしい相棒感を、デザインでしっかり表現できたのではないかなと思っています。
TRACER9 GT+ Y-AMTカラーリング
デザイン企画・佐藤:
カラーリングは上質感を意識しています。
購入されるお客さまの気持ちを汲み取りながら、華美すぎず、質実剛健に・・・と考えていくと、地味になってしまいがちなので、所有感や旅に出たくなるワクワク感とのバランスを模索しました。
デザイン企画・佐藤:
ブラックメタリックX(ブラック)は、シルバー×ブラックの塗り分け塗装とブルーのホイールにより、フラッグシップに相応しい質感とスポーティな世界観を表しています。
デザイン企画・佐藤:
ダークパープリッシュブルーメタリックU(ダークブルー)は、軽快さと清潔感のあるシルバーホイールを採用し、洗練された質感や品格、最高のパフォーマンスを表現しています。
デザイナー・木下さん:
シルバーホイールは、スピンフォージドホイールならではの薄肉スポークの表情がよく出ますよね。
デザイン企画・佐藤:
実は、シルバーってとても難しい色なんです。白と同様に無限に色があるんですよ。
車体色のシルバーは、フレークが荒くて少しキラッとするんです。ネイビーも太陽光の下で見ると、光が当たっている所と当たっていない所とで赤味と青味の混ざり具合が違って見えるので、表情がその時その時で変わるんです。
ぜひ、ソリッドなシルバーとメタリックなブルーのコントラストが美しい車体を実車でご覧ください。
TRACER9 GTカラーリング
デザイン企画・佐藤:
マットライトグレーメタリック4(マットライトグレー)は、余裕や成熟を感じさせる、高品質感あるカラーリングです。最小のカウリングで最高のプロテクションを生む、TRACER独自のアロー(矢)シルエットを際立たせています。
デザイン企画・佐藤:
マットダークグレーメタリック6(マットダークグレー)は、艶消し色を組み合わせてコントラストをつけた、落ち着きあるダークトーンカラーです。日常使いを妨げないオールラウンダーとしての個性を放っています。
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いかがだったでしょうか!
担当デザイナーが細部の細部までこだわった2025年モデル「TRACER9 GT」「TRACER9 GT+ Y-AMT」。いずれのカラーもぜひ、実車をご覧いただきたいですし、実際にまたがってシートの心地よさや足着き性、コクピット周りの上質感を体感いただきたいです。
さらに、YSPの専用サイトからは各店の試乗車や展示車を確認いただけます。
2025年モデル「TRACER9 GT」「TRACER9 GT+ Y-AMT」で、最上の休日をお過ごしください!
それではまた。
■関連リンク
・TRACER9 GT製品サイト
- 2025年4月23日