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軌跡をたどる SR開発秘話:07 触らぬSRに祟りなし!?

2021年3月14日

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「何度も市場に出向いては、"今後SRはどうしたらいいでしょうか?"ってSRオーナーの方々に尋ねていました。そのたびに、"変えないでください""基本の構成はこのままで"と言われ続けてきました。SRはカスタムを楽しむオーナーも多いモデルで、好みに変えたい部分は自分でカスタムするからベースは変えてくれるなと。だからエンジンにフレームといった基本構造はそのままに、ハロゲンライトバルブの採用など、お客さまが手を入れるのが難しい部分、商品性を高めるようなことをやってきました」と話すのはかつての「SR400/SR500」開発プロジェクトリーダーだ。


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↑「第23回東京モーターショー」の様子を報じる販売店向けの月刊誌『ヤマハニュース』(1979年12月号)


1970年代後半から80年代にかけてスポーツモデルは高性能化に拍車がかかり、多気筒で、高回転・高出力化の流れにあった。単気筒エンジンでシンプルなスタイルのSRは、1978年に誕生した時から時流とは一線を画していたと言える。

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↑1985年の「SR400/SR500」カタログ

1979年にキャストホイール仕様となるも、再びスポークホイールとなった1983年頃には、SRはすでにクラシックなスタイルのバイクとして定着しつつあった。
1985年に"テイスト・オブ・ザ・ワールド"を提唱する「SRX600/400」が登場するや、SRは、ハンドル幅を狭め、バックステップ化してスポーティなポジションになるも、さらにフロントブレーキをディスクからドラムブレーキに変更し、フォークブーツを装着するなど、よりクラシカルなイメージを強めた。


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↑当初、「SR400/SR500」の後継モデルとして開発された「SRX600/SRX400」(写真は「SRX600」)


その後、キャブレターが強制開閉式から負圧式になり、エアクリーナーボックスの容量が増えて、カムプロフィールを変更するなど、エンジン内部が改良されたり(1988年)、ミラクリエイト塗装※やアルミパーツのバフ仕上げなど、外装パーツの質感向上(1991年)、MFバッテリーやプレート型ヒューズの採用に、CDIユニットとイグニッションコイルなど電装系の大幅変更(1993年)、再び初期型に近いライディングポジションへの変更と耐摩耗性に優れたステンレス製フロントブレーキワイヤーの採用(1996年)など、たびたび細かな改良が行われた。
2000年には「SR500」が姿を消すこととなったが、一見しただけではそのスタイルは誕生時と何も変わらず。ただし性能面では、SRらしい鼓動感や軽快な走りはそのままに、始動しやすく扱いやすく、そして外観品質を高める方向で改良が重ねられた。

※ミラクリエイトは、ミラクル(奇跡的な)とクリエイト(創造)を合わせた造語。通常の3〜4倍のクリア仕上げを行うヤマハ独自の塗装手法で、深みと輝きを加えた鏡面に近い光沢となる

2000年以降は法規対応の連続だった。


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↑2001年のカタログ

2001年には、フロントブレーキを市場の声を受けて再びディスクブレーキにし、スロットル操作性や扱い易さに優れるCVキャブレターを採用、そして安定した点火が得られるバッテリーチャージ方式とした。さらに排出ガスを浄化するエア・インダクション・システムを採用し排出ガス規制に適合させた。

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↑2003年のカタログ

25周年を迎えた2003年には、点火時期を最適化するTPS(スロットル・ポジションセンサー)を追加し、さらにマフラーの内部構造の一部変更等により騒音規制に対応させた。

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↑2010年モデルのタンク

2010年、ついに燃料供給装置をキャブレター式からFI(フューエルインジェクション)に変更。スリムなSRにとって、FI用の燃料ポンプをどこに置くのかが悩みどころであった。そこで電装系全てを見直し、サイドカバー奥のサブタンクにどうにかスペースを確保。ティアドロップ型メインタンクの造形を死守した。

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↑2018年発売のSR400

そして40周年に当たる2018年、排出ガス規制をクリアするには、精緻に燃料噴射をコントロールする必要があり、それに伴ってEUCが大型化。これまでのサイドカバー内には収まりきらないことから、シート下へ移動。あわせてシートボトムを新作して対応した。
さらに蒸発ガソリンが直接大気に放出されるのを防止するチャコールキャニスターは、なるべく小さくし、黒いフレームに沿わせて一体感を持たせた。おそらく普通の人では、その存在に気づかないのではないだろうか。

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変わらないために変わり続けてきたSR。これまでにもセルモーターをつけようなどという議論が幾度となく繰り返された。そのたびに「触らぬSRに祟りなし」と、軽量・スリム・コンパクトの歯切れの良い単気筒エンジンにティアドロップ型タンク、そしてキックスタートというSRをSRたらしめている要素は一切変えずにきた。

冒頭の開発プロジェクトリーダーは最後に言った。「エンジンにフレーム、ベースを変えずにやってきたから43年間続いたんだ」と。

2021年3月14日

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