ボートの動きに関する基礎知識
ボートの基本的な特性から、快適なクルーズを実現するために必要な知識をご紹介します。
ボートの走航状態
ボートの揺動
ボートは波などによって、縦揺れ・横揺れなどを起こします。
トリムコントロール
トリムとは船尾と船首の喫水差のことをいいます。船首を下げ気味のことをバウトリム、逆にトリムがフラットな状態(イーブンキール)から少しバウを上げ気味の状態をスターントリムといい、このトリムバランスの状態によって、ボートの走行性が変化します。
バウトリムは、波に突き当たる時の衝撃は少ないのですが、その分スプレーをさばく位置が前方になるためにスプレーがかかりやすくなったり、スターンが持ち上がり気味になるため、舵利きが悪くなったり、スピードがでないことがあります。
スターントリムの状態であれば接水面積が減少することから、トップスピードが伸びたり、スプレーがかかりにくくなったり、波がある時の乗り心地も違ってきます。一般的なプレジャーボートでは、プレーニング状態では、スターントリム気味で走行したほうがいいといわれるのはそのためです。
しかし、バウを上げ過ぎると、今度は逆に抵抗が増えてスピードが低下したり、前方が見えにくくなったり、直進性が悪くなったりします。基本的に最も適したトリム角いうのは、バウが5度前後上がった状態と言われていますが、ボトムの形状などでも違ってきます。実際の走行でも波の状況や乗っている人、特に小型のボートでは乗っている人の位置で簡単にトリムのバランスが変わってきますから、その状況に合わせてトリムを調節して走行できるように自船の最適なトリムバランスを知っておきましょう。
また、パワートリムの付いた船外機やスターンドライブでは走行中でも容易にチルト角を調節できるので、その状況に応じて活用した方が、もっと快適な走りが楽しめるはずです。
復元力
ボートの低い位置と高い位置に重い荷物を積んだ場合を考えてみます。水平に浮かんだ状態であれば、A、Bどちらのボートも大きな差がありませんが、ボートがどちらかに傾くと荷物を低い位置に積んだボート(A)では、重心と浮力の働きでボートの傾きを戻そうという力(復元力)が大きく働きます。しかし、荷物を高く積んだ(B)のボートでは重心位置と浮力中心位置の横の距離が短いため、ボートを元に戻そうという力は小さくなってしまいます。
このことから、右のボートでは転覆の危険が生じたり、横揺れがひどくなって船酔いをしたりという現象に繋がってしまいます。
一方、(A)の低い位置に積んだボートの場合、ボートの「安定」が良く転覆などの危険も少なく安全面ではとても良いのですが、復元力が大きいために元に戻る力が大きくなり過ぎると、横揺れ周期が短い動きになります。
左右に早く揺れる事でボート内の荷物や装備、乗員などが飛ばされる恐れも発生しますので留意する必要があります。
小型のボートの場合には、乗員が座った状態から立ち上がっただけでも重心位置が高くなってしまいますし、乗員の移動だけでもバランスが崩れ左右に傾きますので、前後・左右・上下のバランスを考えた荷物の積み方、乗員の位置などにも特に考慮しなければいけません。
キックの効力
ボートが旋回をするときに原針路から外側方向に船尾が振り出される動作特性をキックといいます。この動作特性を理解しているのとしていないのでは、ボートコントロールに大きな差が出るだけでなく、落水者やウェイクボーディングのライダーをピックアップするときにも危険です。
停船しているときは転心(船体の回転中心)と重心が一致していますが、前進走行中に旋回させる時に転心の位置が次第に前方に移動することによってキックが生じます。後進ではその転心は、前方ではなく後方に移動します。
一般的には、原針路から最大で20%(船の長さに対して)が振りだされるといわれていますから、全長5mのボートの場合なら1mほど外側に膨らむように旋回するため、マリーナで離岸するときに回りきれると思って旋回してもキックによって船尾がポンツーンや岸壁にぶつかってしまうということが実際にあります。これは航行中に走行針路上の至近距離に浮遊物などの障害物を発見したときにも起きやすく、そのまま急旋回で回避しようとしても、船首側はクリアしてもキックによって船尾をぶつけてしまうことがあります。
障害物を避ける時は一旦ステアリングを切って障害物が針路上の左右どちら側かに変わった直後に、今度は障害物側にステアリングを切れば船尾は外側に流れ、接触を避けることができます。
またスピードが速くなればそれだけ転心は前方に移動し、船尾側のボトム形状がフラットなボートほど外側に振りだされやすくなります。
ウイリアムソン・ターン
短時間で落水者の元へ戻るための効果的な操船方法には幾つかありますが、このウイリアムソンターンは J. A.Williamson が1942年に提唱し、波などの影響により多少の横ずれはあるものの元の進路上にほぼ確実に戻れる操船法として、夜間や視界不良時の転落者救助の操船方法として有効とされています。
- 落水者発生と同時に直ちにコンパスコース(元針路)を確認。
- 舵を右に転舵し、一定の舵角を維持する。
- 元針路+60°になった時点で舵をセンターに戻す。
- 舵をセンターに戻したらすぐに左に同じ舵角で転舵する。
- 舵角を維持する。
- 元針路+180°に達した時点で、舵をセンターに戻す。
- そのままコースを維持することで、元のコースをほぼ正確にたどることができる。