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55mph - SRと過ごす週末

アナログでシンプルなSRだからこそ走りに行きたくなる場所がある。大人の週末をほんの少しだけ豊かにしてくれるショートトリップへの誘い。

「いつも心にアメリカを」
文/佐藤旅宇 写真/井上六郎

 メッキのライトケースに映り込む風景に“アメリカ”を感じた。実際の気候は紛れもなく日本だが、その湿気だけをそっくり抜き去ったように乾いた空が映っていたからだ。僕は沿道で寂しい姿を晒しているヤシの木よりも、遥かにそれっぽいと思った。
 福生――横田基地の脇に延びる国道16号線。僕はもっとアメリカを演出してやろうと、SRの回転数をいつもより下げてゆったりと走っている。第5ゲートのあたりで横文字のナンバープレートを付けたピックアップトラックを見つけると、その後ろにSRを滑り込ませた。バックミラーにはガソリンを積んだタンクローリー。ライトケースに映る空がさらに青味を増すと、いまの自分を取り巻く面倒なあれこれを忘れて、無邪気な10代の記憶がフラッシュバックした。

 高校卒業が目前に迫った時期、 僕は古着を買うことに熱中していた。当時愛読していた雑誌の影響である。誌面の大半がアメリカの現地取材で占められていたその雑誌には向こうのスリフトショップの様子がちょくちょく紹介されていたのだ。目を魅いたのはヴィンテージのジーンズだった。存分に履き古されたと思しきそのリーバイスはレギュラージーンズしか知らない自分が見たことのない色をしていた。青が深く、色落ちした部分のカラカラに乾いた質感が印象的だった。これはアメリカの空気をそのまま反映したアイテムなのだと直感した。
 ポンコツのRZ50(1HK)にまたがって古着屋を巡るのはまさにまだ見ぬアメリカを探す旅のようなものだった。ヘルメットはなぜかセンターストライプのスモールジェット。いまとなっては恥ずかしい限りだが何とかⅤツインエンジンのような鼓動感が得られないかとアイドリングの回転数をエンスト寸前まで絞って気分を盛り上げていた。

 ときは90年代半ば、ヴィンテージデニムが大流行していた頃である。高校生の小僧がおいそれと手を出せる価格のものは少なかったが、何軒かの古着屋をはしごして何とかセルビッチ付きの501とスモールeの70505(Gジャン)を手に入れる。裾をめくらず、バックポケットの補強糸の色だけでセルビッチの有無を判別できることがそのころの僕のちょっとした自慢だった。ちなみにこのときに買ったGジャンはまだ手元にある。
 スタジャンが欲しくてバイクで走り回ったこともあった。袖がレザーで分厚いレタードワッペンの付いたものがどうしても欲しかったのだ。たしか「バトウィン」というメーカーのものを重点的に探していたと思う。しかし、こちらはデニムよりもさらに手に入れるのが難しかった。どいつもこいつもやたらに大きく、自分のようなチビが着れるサイズがなかなか売っていないのである。何着か失敗を繰り返してようやく手に入れたのは赤いメルトンのボディに黒いレザーの袖、胸にはМのレタードワッペン、そして腕にはなぜかブルドッグのワッペンが貼ってあるものだった。リブの部分がすっかり伸びていたため、これでバイク乗ると寒かったが、まだまだ新鮮だったRZの操縦と憧れの異国を羽織った嬉しさでそんなことはまるで気にならなかった。

 ドライであっけらかんとして快楽的。現実の国がどうであろうと心に潜む観念としてのアメリカへの憧れはあの頃からいささかも揺るぎがない。それは年齢と共にどんどん複雑になる現実から解放を求める”気分”そのものだから。この道をバイクで走り、みみっちいダイエット意識を根こそぎふっ飛ばす巨大なハンバーガーにかぶりつくといつもそれを実感する。

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