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軌跡をたどる SR開発秘話:08 エキゾーストパイプの多重構造に見る"らしさ"へのこだわり

2022年2月18日

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ティアドロップ型の燃料タンクやガラスレンズにこだわったヘッドランプと並んで、SRらしいパーツの一つにエキゾーストパイプがある。流れるような美しい曲線は、熟練の職人による3段階の曲げ工程の賜物だ。パイプの内部は多重構造であるため、曲げ加工を施す際、パイプとパイプの隙間に直径1mm以下の砂をまんべんなく詰めて曲げ、あとで砂を抜く「砂曲げ」と言う特殊な作業を要する。
SR誕生当初は、この砂の代わりに水を入れ、凍らせてからパイプを曲げる「氷曲げ」の手法が取られていたそうだ。まっすぐな状態のパイプとの隙間に水を流し込んで下側にゴム栓をし、コンベアに吊り下げて大きな冷凍室内を2時間ほどかけて通過させ凍らせていたとのこと。その様子はまるで精肉工場のようだったと当時を知る担当者は話していた。

氷曲げでも砂曲げでも、そもそもSRのエキゾーストパイプ内が多重構造であるのは、高温の排気ガスによってメッキ処理されたパイプ表面が熱変色したり、それに伴ってサビが発生するのを抑止するためである。中空にすることで、外側のパイプの温度を下げる狙いだが、排出ガス規制が厳しさを増すにつれ、燃焼効率を高めようとするとエキゾーストを通過する時の排出ガスは、ますます高温となり、一時は2重管から3重管へと多重化が進んでいた。

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FIが最初に採用されたSR400のエンジン(2010年)


ところで、2009年12月発売のモデルからSRの燃料供給系にFI(フューエルインジェクション)が採用された。大掛かりな仕様変更だったが、「商品企画や営業のメンバーからは、何も変えないで。その一言だけ(笑)。変えるなというのは、 SR の本質を変えるなという風に僕ら(開発メンバー)は受け取って、本質を皆で共有した上で開発を進めました」と当時のエンジン開発者は振り返る。
FI化に伴って新たな部品の配置などに苦慮したものの、仕組みをFI化すること自体は決して難しくなかった。しかし食べ物でも多少クセや苦みなどがある方が旨味を感じるように、キャブレター仕様を単にFIで再現するのではなく、雑味は消しながらもSRらしいフィーリングを改めて作り込むことは容易ではなかった。
「キャブレター仕様と FI仕様とでは、全く違うSRです。全くとは言い過ぎかな(笑)。エンジン以外にもいいタイミングだからと、それまでなかなか変えられなかったものを一斉に変えています。一つ一つ見比べると、結構色々大きく変わっているんです。まとまるとSRなんですけどね。変えないための努力、ものすごいです(笑)」(FI化モデルのエンジン開発者)


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ヒートプロテクターが追加され、キックペダルの長さやエキゾーストパイプの3段曲げの角度が変更になったFI仕様のSR400


FI化に伴ってマフラーも大幅変更。初期型は、スリムさを追求するあまり、一部を凹ましてでも車体内側に目一杯追い込んだマフラーだったが、FI採用モデルには、触媒が入るなどしたため凹ませることができず、可能な限り近づける努力はしたものの、初期型と見比べると少しはらんでいる。そのためキックスタートでキックペダルを踏み降ろした時に踵がちょうど当たる位置にマフラーがあり、ヒートプロテクターの追加やキックペダルの長さ変更、そしてエキゾーストパイプの3段曲げの角度も見直された。

さらにエキゾーストパイプには、500℃以上の耐熱性・優れた耐食性・耐摩耗性を持ち、宝石のような輝きを放つナノ膜コーティングが施され、熱による変色や錆の発生が抑えられるようになった。そこで3重管は不必要となり、2重管に戻され、重量軽減にも結びついたのだ。

お客さまが乗っていかに満足してくださるかを起点に、SRらしさを死守するためなら、積極的に新しい手法も取り入れていく。しかもさりげなく。「お客さまにとって、もっと良いものを」ヤマハのモノづくりは、いつだって貪欲なのだ。

2022年2月18日

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