デザインコンセプトは初代から一貫して変わらず ヤマハのこだわりがたくさん詰まった「MT-09」のデザインをご紹介します!
- 2024年11月15日
こんにちは。ヤマハ発動機販売 小林です。
先日の「MT-09」の開発者・商品企画担当者に続き、今回はデザインに携わったメンバーにMT-09のこだわりポイントをお聞きしましたのでご紹介します。
それでは、皆様よろしくお願いします。
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デザイン企画・ランドモビリティ事業本部MC事業部3S第2地域統括部RV部事業戦略グループ 下村 伊千郎さん(左)※開発当時はプロダクトデザイン部所属
「初代のXSR900やTRACERなど、大型の先進国向けモーターサイクルのデザイン企画に携わって来ました。プライベートではXS650Eなどの旧車オーナーです。
直近ではXSR900 GPも担当しておりました。」
デザイナー:GKダイナミックス 西野 雅弘さん (中央)
「元々ストリートカルチャーに紐付くようなモタードの世界が大好き。今回のMT-09でも車両本体だけでなく、購入後のアクセサリー展開も視野にデザインを手がけました。」
スカルプター:プロダクトデザイン部スカルプターG 石田 旬さん(右)
「YZF-R1やYZF-R6と言ったスーパースポーツ系にTMAXやオフロードコンペティションモデルのYZなど幅広いモデルのクレイモデルを手がけてきました。初代MT-09のクレイモデルも担当しました。」
デザインコンセプトは初代から一貫して変わらず
豊かなトルクがもたらす加速感と俊敏で自由自在な機動性を表現
企画・下村さん:
先代から見た目が大きく変わっていますが、デザインコンセプトの方向性は、一貫して変えていません。「Torque & Agile(トルク&アジャイル)」を感じさせる「Short overhang(ショートオーバーハング)」、つまりトルクのあるエンジンから発せられる圧倒的な力強さと、軽快なハンドリングを視覚的に表現することです。
その原点に今一度立ち返り、次世代にふさわしいキャラクターに磨き上げようと、今回のデザインコンセプトは「Thorough~徹底的にやりきる~」を掲げました。
デザイナー・西野さん:
「MT-09」が国内に導入されて10年。色々な人がデザインに関わってきました。とは言え、いつの時代にあっても「Torque & Agile」というコンセプトは徹底していて、その当時の技術とそのときの思想をしっかり色濃く反映しながら、"その時々の一番"を作り出してきました。結果、コンセプトは一緒でも、個性的なモデルが代々誕生してきたのです。
一般的なモデルチェンジは、先代モデルのイメージを継承しながら変化を重ねるものですが、今回に限らず「MT-09」は、常に最高の「Torque & Agile」をその時代に合わせて作り上げてきました。
企画・下村さん:
MTはモタードとロードスポーツの融合が始まりでした。時代が進むにつれ、モタード側の要素も変化しています。最近のオフロードコンペティションモデル「YZ」では、前後のフェンダーがより短く、またホリゾンタル(水平基調)なデザインで、マスの集中とショートオーバーハングが進む風潮にありました。そのトレンドを今回の「MT-09」にも取り入れたのです。
ですので、デザイナーさんに顔周りのスケッチをたくさん出してもらいましたけど、私が最初にやったことは、フロントをもっと車体にくっつけるように、たたくこと。ポジションランプなしという極端な提案までしたほどでした(笑)。
一つの大きな塊をライダーの自由自在な動きに合わせて削り取った造形が
デザインキーワード「3D RIDING」のベース
デザイナー・西野さん:
タンクからシート、リアにかけて、できるだけライダーが動きやすい造形感を狙いました。ライディングの軽快感に繋がる部分です。そこで、スケッチに入る前に自在に操れる走行シーンとはどういうことだろうというのを、まずイメージビジュアルとして起こしました。
そして、ライダーがバイクの上で前後・左右、自由自在に動く様を「3D RIDING」というデザインキーワードで定義。ヘッドランプからタンク、シート、リアまで全てを1つの大きな塊として捉え、その上をライダーが動いて削り取ることによって生まれた造形が、今回のデザインの根底には流れているのです。
しかも、スケッチだけで表現するのではなく、実験ライダーにクレイモデルに乗ってもらい、動きに合わせてクレイを削りながら、本当に動ける形なのか、スカルプターや開発メンバーのみなさんと一緒に作り上げていきました。
スカルプター・石田さん:
目指していたのは、ライダーが前後・左右に移動する際、その軌跡を阻害しない形です。デザイナーとモデラーだけで進めるわけではなく、開発要件がありますので、設計的なところで削って良い部分とダメな部分がある。実験ライダーにクレイモデルに乗車してもらい、担当者といろいろ会話をしながら、最後の方はミリ単位で調整を行いました。
企画・下村さん
デザインの意図を理解していただくために、スケッチの段階からスカルプターの方にも見てもらい、開発要件の話にも一緒に入ってもらいました。スケッチでは成り立つことでも、立体で考えると齟齬がある箇所があったり、一方でデザイナーとしては譲れない部分もあったり、、、
それぞれの立場でより良い方向を目指すことで、スケッチ、クレイ、完成車の出来映えが磨かれていく。ときにはぶつかり合う場面もゼロではありませんでしたが、これもヤマハデザインの良さだと思います。
スカルプター・石田さん:
難しい課題に直面してもプロジェクトメンバーとのコミュニケーションを図り、問題を克服し、高品質な商品を生み出す源であるデザインコンセプトやスケッチの情報を読み取って最適なボリュームバランスを探りながら魅力的な造形を心がけています。ヤマハでは、モデラーも積極的にデザインに踏み込んでいける立場にあります。要件をしっかりと把握しデザイナーと熱い議論をしながらクレイモデルを手がけています。
自由自在のライディングやMTの世界観を表現した
全高を抑えたシャープな燃料タンク
デザイナー・西野さん:
タンク形状は、ハンドルポジションやヒップポジションなどの要件から、高さや位置、角度が自ずと決まってくるものです。今回の「MT-09」では、燃料タンクの容量を確保するには、幅を広げなければならないという認識が開発メンバーみんなの中に最初からありました。
企画・下村さん:
ライダーの動きやすさと、ホリゾンタルなデザインとを両立したタンク形状ですが、車両を初めて見る方からすると、その幅の広さに少し驚かれるかも知れませんね。
デザイナー・西野さん:
タンクの幅が広がる分、シート部分はきゅっと細くしMTらしさをキープ。また、幅が出る位置をなるべく前の方にすることで、幅が気にならないようにしています。
タンクのシャープなラインは、何回も試行錯誤を繰り返しました。モーターサイクルのデザイン手法として、比較的わかりやすいこともあって、サイドビューを重視しがちなんですが、今回は、ライダーが動けるエリアを作り上げることを優先し、横から見たときに特徴的なラインを入れていません。また、抑揚を付けたデザインになりがちな燃料タンク自体も、できるだけ高さを抑えてハンドル切れ角確保も視野に天面をフラットにしています。
この高意匠成形の製法でできたタンクのシャープなラインは、ハンドルのポジションを変更し、エンジンやフレームに手を入れることなく、コンポーネントで成熟したハンドリングを目指した開発サイドの狙いと、開発の意図を汲みライダーがより自在に動けるエクステリアを企図したデザインサイドの狙いが合致して出来上がったんです。ただ、ホントにギリギリまで容量確保を狙ったので、設計さんと何度も話しながら、最後の最後までミリ単位で調整を重ねました。
実はこのタンクの側面、写真ではフラットに見えるんですけど、屋外に出すと周りの風景を拾ってすごくドラマチックな造形なんです。屋内とまた違った見え方がするので、青空の下で周囲が映り込むことによって変わる形状をぜひ見ていただきたいと思っています。
初代をオマージュしたフロントフェイス
デザイナー・西野さん:
フロントをコンパクトにするという、先代からの意向を受け継ぎつつ、個性的でありながらも偏りすぎない表情とのバランスを図り、何枚もスケッチを描き、何度もクレイを削って、海外含めたスタッフと何回もミーティングを重ね、かなりのプロセスを経てデザインしました。
またちょうど「MT-09」10周年を迎えるタイミングでもあり、初代のヘッドランプ形状をフロントフェイスのアウトラインのモチーフにしたり、ヘッドランプカバーにカラーパーツを用いることで凝縮感を強調したり、初代モデルをオマージュした要素を多数取り入れています。
スカルプター・石田さん:
フロント周りは、タンクとのつながりを意識した一体感のある造形になっています。ヘッドランプは極力小さくし、フロントサスペンションとの隙間を少なくして車体に張り付いたショートオーバーハングのスタイルにしながら、機能的な造形を目指しました。
デザイナー・西野さん:
設計さんの協力によって、色々な部分のクリアランスをキュキュキュとものすごく詰めていった結果、車体全体がすごくコンパクトで凝縮感がある造形に仕上がりました。特に顔周りは、コンパクトなヘッドランプが使えましたし、何ミリクリアランスがあるんだろうというところまで設計さんが詰めてくれたので、他の車両と比べてもすごく小さい印象に仕上がっています。それこそ狙った以上の凝縮感、塊感につながっています。
企画・デザイン・設計と開発メンバー一丸となって作り上げた最高の1台
企画・下村さん:
今回の「MT-09」は、設計のみなさんと一緒に進めることができたというのが非常に大きかったです。デザインスケッチ、クレイモデル、そして完成車と横並びで比べると、ゼロから作り直しているのではないかと思うほど、実は全然形が違うんです。(笑)
デザインを進めていく中で、開発要件もあり、今のままのデザインでは厳しいという場面もありました。すると、次の日にはデザインの為に要件を再考した案を設計さんが持ってきてくれたんです。こうすれば要件をクリアしながらこのデザインで行けると。18年くらい今のデザイン系の仕事に携わって来ましたが、お互いの"打って響く感"は今まで担当させていただいたプロジェクトの中でもトップレベルだったかと思います。設計側の意図も意思も気持ちも入った案とデザインとがうまく呼応して、良い形に仕上がったと思います。
オススメビューポイントその1:乗り込むときの斜め後ろからのライダービュー
デザイナー・西野さん:
デザイナーとしてタンクの造形はもちろん見ていただきたいポイントですが、僕自身としてはリアビューにこだわってこのモデルをつくりました。
バイクに乗るとき、斜め後ろ、リアビューを見ながらが多いと思います。なので、乗り込む際に、タンクからシート、そしてリアサイドカバーにかけて一気につながっている造形と、シートとタンクがきゅっと絞られた印象を作り上げることで、自由自在に操れそうなフォルムの形状にこだわったんです。
この造形感は、ベタですけど、実は日本刀からインスパイアされていています。シャープな形をつくりたいということではなく、日本刀の持つ緊張感、妖艶さといった雰囲気を取り込みたかったのです。
過激な性能や強大なトルクを持つ乗り物というイメージが「MT-09」自体にある中で、研ぎ澄まされた要素が加わることで、これまでとはちょっと違うキャラクターになるのではないかと思ったのです。手の込んだ工芸品や着物などが展示されている博物館の中で、日本刀の展示スペースに行くとピリッとした緊張感がありますよね。同じように、街の中に「MT-09」が現れると、今までのモーターサイクルと違う雰囲気、緊張感を醸し出すのではないか、という想いがありました。
オススメビューポイントその2:次世代の造形を表現した燃料タンクのシャープなライン
スカルプター・石田さん:
モデラー視点での今回の「MT-09」の魅力は、やっぱり「高意匠プレス成形」による燃料タンクですね。
以前よりも角R(カドアール)を小さくすることが可能になり、シャープな造形が可能になったことで、デザインキーワードにある「3D RIDING」エリアのエルゴノミクス表現とエンジンの内側から発せられる力強いトルク表現との2つの世界観を切り分ける重要なラインになっています。適正なニーグリップ性をキープしながらタンクの容量を確保し、まさに機能とデザイン性を高い次元で融合した次世代の造形表現ができたと思います。
ただ、自分の中では新しい製法故に知らない要件がかなりあって、Rが小さくできるとは言え、どこまで攻められるのか、そこの理解を深めながら進めていくことは非常に難しかったですね。
企画・下村さん:
個人的な意見ですが、ヤマハのバイクってライダーが乗った状態での美しさを追求しているモデルが多いんです。もちろん今回の「MT-09」もそうありつつも、人が乗っていないバイク単体でも美しい造形になった、リビングに飾っておきたくなるような造形感ができたと自負しています。
その美しさへのこだわりは細部まで徹底しています。例えば、サイドカバーで隠れて見えないリアフレーム。リアキャリアをつける際にサイドカバーを外してしまっても美しく見えるような形状にしています。一般的には、隠れているパーツだからそこまでやらなくてもいいじゃない、リアキャリアをつけてしまうし、となりがちですが、そこは設計チームも含めて、「MT-09に適した格の違い」を表現するためにも細かいところまで配慮、協力してもらった賜物ですね。
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デザイン関連のみなさん、ありがとうございました。
前回の商品企画や開発、そしてデザインと、数知れぬ関係者の熱い情熱や想いが凝縮された今回の「MT-09」、まずは店頭でその熱量を体感くださいね。
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