#見出し ヤマハLMW(Leaning Multi-Wheel)の軌跡と挑戦
- 2026年6月2日
こんにちは、ヤマハ発動機販売の白玖です。
この度、フロント2輪のLMW(Leaning Multi-Wheel:リーニング・マルチ・ホイール)モデル「TRICITY300」が生産終了・メーカー在庫終了となり、「TRICITY155」は2026年秋に、「TRICITY125」は2026年夏に生産終了予定となりました。
そこで今回は、2014年の衝撃的な「TRICITY」デビューから、大排気量スポーツの「NIKEN」、そして都市型モビリティの完成形「TRICITY 300」に至るまで、LMWの軌跡を振り返ります。
未知の体験への扉 ― LMWの誕生と衝撃
2014年、新しい乗り物が誕生しました。それがヤマハ「TRICITY MW125」でした。LMWは、フロント2輪、リア1輪という独特のスタイルを持ちながら、二輪車のように車体を傾けて(リーンして)旋回するモビリティ技術です。安定感とスポーツ性を両立し、濡れた路面やギャップでも転倒しにくく、初心者からベテランまで安心して爽快なコーナリングを楽しめるのが特徴で、その姿は、多くの人々に衝撃を与えました。従来の三輪車(トライク)は、車体を直立させたままハンドルを切って曲がるものが主流でしたが、LMWはあくまで「バイクとしての操る楽しさ」を追求したものでした。

パラレログラムリンクと片持ちテレスコピックを独自のディメンション&ジオメトリーに調和させ、新しい楽しさを実現
その開発背景には、ヤマハが長年抱き続けてきた一つの問いがありました。「二輪車の持つ爽快感や自由度を損なわず、かつ、より多くの人に安心感と自信を提供できるモビリティとは何か?」です。
LMWテクノロジーの核心 ― 伝統と革新の融合
LMWを支える技術は、単なる思いつきではありません。そこにはヤマハがレースシーンや長年の研究で培ってきたノウハウが凝縮されています。
◎パラレログラムリンクと片持ちテレスコピックサスペンション
LMWの最大の特徴は、「パラレログラムリンク」と「片持ちテレスコピックサスペンション」です。「パラレログラムリンク」は、左右の車輪を常に平行に保ちながら、車体と同調してリーンさせる仕組み。2輪の接地幅の変化も少なく、バイクで馴染みのある自然な操作感と乗りやすさを実現しました。このリンク機構に、片側2本ずつ左右独立した「片持ちテレスコピックサスペンション」を組み合わせることで、路面のギャップを左右それぞれが柔軟に吸収。片方のタイヤが段差に乗っても、もう一方のタイヤがしっかりと接地し続けるため、抜群の安定感を生み出すのです。


◎接地感の分散と余裕の創出
二輪車においては「操舵」をはじめ「制動」、「リーン」、「衝撃吸収」など、重要な役割をフロントタイヤ1本で担っています。しかしLMWでは、この仕事を2本のタイヤで分担します。そのため、例えば旋回時は、接地面積が増えることで、滑りやすい路面(マンホール、濡れた路面、砂利)でもフロントが逃げにくくなります。また、制動時には、2輪分のグリップ力が使えるため、急ブレーキ時でもタイヤがロックしにくく、安定した姿勢で止まることができるのです。

◎レース技術の転用と「50:50」の重量配分
TRICITYの開発において、二輪最高峰レース「MotoGP」などで培った設計思想を導入しました。その最たるものが、1985年日欧米で発売された「FZ750」に端を発するヤマハスポーツバイクの要のひとつ「前後重量配分50:50」へのこだわりです。
重心を車両の中心に寄せることで、フロント2輪という重量物を持ちながらも、ライダーの意図に忠実に反応する軽快なハンドリングを実現。この「人機一体感」こそ、ヤマハの開発思想の具現化に他なりません。

製品の歩み ― 125ccから始まった進化の系譜
■ TRICITY(2014年):すべての始まり
"ニュースタンダード シティコミューター"のコンセプトのもと、LMWの第1弾として登場した「TRICITY」は、オートマチック(AT)限定二輪免許で運転できる気軽なコミューターとして設計されました。

当初の狙いは、バイクに興味はあるが「転ぶのが怖い」と感じていた方や、これまでの二輪車には興味がなかった方、小回りの効くコミューターを求める四輪ユーザーの方、コミューターの新しい楽しさを期待するお客さまへのアプローチでした。しかし、実際に発売されると、ベテランライダーからも「フロントの圧倒的な接地感がもたらす安心感」が高く評価され、原付二種ならではの手軽さ・経済性も手伝って、通勤/通学に買い物などの日常の移動手段としてはもちろん、セカンドバイクとして、部活や通塾で遅くなる子どもの送迎、配達業務用、警察官の巡回用としてなど、幅広い分野でさまざまな用途に活用されました。

■ TRICITY155 ABS(2017年):LMWの魅力拡大
2017年1月20日に登場したのが「TRICITY155」です。

高速道路の走行が可能になったことで、LMWのメリットである「高速走行時の直進安定性」や「横風に対する強さ」がより明確になりました。高効率燃焼に貢献する可変バルブシステム(VVA)を搭載した「BLUE CORE(ブルーコア)」エンジンや剛性を高めたフレームの採用などにより、経済性と走りの楽しさを両立。バイパスや高速を時折使ってスピードを重視する通勤・通学使用やタンデムが多い方、さらには高速道路を利用した中距離ツーリングまで、コミューターからツーリングマシンへと、LMWの可能性を一段階引き上げました。

■ NIKEN(2018年):究極のスポーツLMW
2018年9月13日、845cm³直列3気筒エンジンを搭載した「NIKEN(ナイケン)」を発売。これまでの「安心のコミューター」というイメージを一変させ、LMWを「スポーツライディングを究めるための武器」へと昇華させました。

「TRICITY」の機構を進化させた新ステアリング機構「LMWアッカーマン・ジオメトリ」を採用。操舵系(ステアリング系)に加えて、独立した傾斜系(リーン系)の軸を設定し、フロントの内輪と外輪が同心円を描くよう設計したことで、例えば45度ほど深くリーンさせても滑らかな旋回性を確保できます。
これにより「NIKEN」は、天候や路面状況に左右されにくい究極のツーリングスポーツとして、唯一無二の地位を確立。「濡れた峠道でも、走り慣れたサーキットを走っているかのような自信を持てる」という声に象徴されるように、大排気量エンジンの加速力とフロント2輪が生む異次元の接地感が、ライダーに未知の旋回体験と疲労軽減を可能にし、本格的なスポーツ走行やロングツーリングを楽しむ層に支持されました。

なお、2023年モデルから「TRICITY125/155」にも「LMWアッカーマン・ジオメトリ」を搭載し、より安定感のあるコーナリングと上質なクルージングを可能にしています。
■ TRICITY300(2020年):都市型モビリティの完成形
2020年9月30日、ヨーロッパで先行導入されていた「TRICITY300」が日本に上陸しました。

"The Smartest Commuting Way"をコンセプトに掲げる本モデルは、快適な乗り味を支えるステアリング機構「LMWアッカーマン・ジオメトリ」はもちろん、当社の市販モデルとして初めて停車時や押し歩きをサポートする「スタンディングアシスト」を採用。ストップ&ゴーが繰り返される都市部での走行や利便性を飛躍的に高めました。
300ccの余裕あるパワーと上質な乗り心地を兼ね備えた「TRICITY 300」は、まさに「スマートに街を駆け抜ける大人のモビリティ」として、長距離コミューティングや、高速道路を多用する週末のタンデムツーリングなどに利用されています。また「TRICITY」や「TRICITY155」からのステップアップを目指すユーザーの受け皿としても支持されたのです。

開発の裏側 ― 試行錯誤の歴史
LMWの完成までには、数十年にわたる研究期間がありました。
数々の試作車の中には、1970年代から80年代にかけて製作された初代「Passol(パッソル)」をベースにしたフロント2輪車や、4輪のLMW試作車も含まれていました。

開発陣は、「なぜ三輪なのか?」「二輪以上の楽しさを提供できるのか?」という自問自答を繰り返しました。さまざまなプランが浮上しては消える中、最終的に残ったのが「パラレログラムリンク」によるフロント2輪の構成でした。
この機構は、構造がシンプルでコンパクトに収まるため、車両のデザインを損なわず、かつ軽量に仕上げることができるという利点がありました。

開発チームが最もこだわったのは、「乗り味を限りなく二輪に近づけること」です。3輪であることの安心感に甘んじるのではなく、バイク本来の醍醐味である「リーンしながら旋回する爽快感」を損なわないよう、ミリ単位での調整が繰り返されました。「TRICITY」の設計において、「純レーサー」の開発経験が活かされたというエピソードは、ヤマハの「走ることへの情熱」を象徴しています。

【LMWテクノロジーの歩み】
| 1976年 | 前二輪ビークルに関する数々の特許を出願 |
| 2007年 | 東京モーターショーで四輪コンセプトモデル「Tesseract」を展示 |
| 2008年 | 「Tesseract」を具現化する試作車「OR2T」で研究開発を継続 |
| リーマンショックの影響によりLMWテクノロジーの研究開発を中止 | |
| 2010年 | 次世代モビリティを検討する期間限定プロジェクトを実施 |
| LMWテクノロジーを使った前二輪ビークルの製品化着手を決定 | |
| 2011年 | LMW市販モデルの開発プロジェクトを本格スタート |
| 2014年 | LMW第1弾「TRICITY」を4月にタイで、9月に日本で販売開始 |
| 2015年 | 東京モーターショーで「MWT-9(試作車)」を参考出品 |
| 4月に日本市場に「TRICITY」ABS仕様を追加 | |
| 2016年 | 9月の欧州を皮切りに世界各国でLMW第2弾「TRICITY155」を販売 |
| 2017年 | 1月に日本で「TRICITY155」発売 |
| 11月LMW第3弾ロードスポーツ「NIKEN」を「EICMA」に出展 | |
| 2018年 | 9月日本市場に「NIKEN」導入 |
| 2019年 | 東京モーターショーにリーン制御とリバース機能を搭載した「MW-VISION」を参考出品 |
| 2020年 | 9月LMW第4弾「TRICITY300」を日本市場に導入 |
LMWが目指す未来 ― 「めざせ、ころばないバイク」への挑戦
ヤマハがLMWテクノロジーの先に描いている究極のゴール。それは"ころばないバイク"の実現です。
これは決して「退屈な乗り物を作る」という意味ではありません。人間が本来持っている「操る喜び」を最大限に引き出すためには、不意の転倒やスリップという恐怖心からの解放が必要不可欠である、という考えに基づいています。

LMWは、その物理的な安定性によって、万が一のライダーのミスをカバーし、過酷な路面状況下でも「余裕」を提供します。この「余裕」こそが、ライダーに心の平穏をもたらし、結果としてより深く、より長くライディングを楽しむことにつながるのです。

これは、ヤマハの開発思想「人機官能」の深化でもあります。技術によって感性を数値化し、それを乗り味として具現化する。LMWは、機械が人間に歩み寄り、共に成長していくためのプラットフォームなのです。
LMWの歩みは、当初の「一風変わった乗り物」という評価から、今や「安定感のあるコーナリングと上質なクルージング性を兼ね備えた信頼できるパートナー」という存在へと変わりました。

例えば「雨の日の不安感がかなり解消される」「長距離ツーリングでの疲労が劇的に減った」「一度はバイクを諦めたが、再び風を感じて走れるようになった」などの声が寄せられています。
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創業以来、ヤマハ発動機は数々のエポックメイキングなモデルを世に送り出してきました。1965年のビジネスバイク「メイト」に始まり、ステップスルーを定着させたスクーター「パッソル」、アメリカンクルーザー「DragStar(ドラッグスター)」、スクーターの定番「JOG(ジョグ)」、マウンテントレール「SEROW(セロー)」、ネイキッドの代名詞「XJ/XJR」、2ストロークエンジンの魅力を凝縮した「RZ」、レーサーレプリカ「TZR」、ビッグスクーター人気を支えた「MAJESTY(マジェスティ)」、そしてビッグシングルスポーツ「SR」などーー。「YAMAHA」ブランドに勝るとも劣らない存在感を放つ名車も数多く、この「TRICITY」も間違いなく、その系譜に名を連ねる一台といえるでしょう。
今回、製品ラインナップからは姿を消すことになりますが、LMWで培った技術を活かしながら、ヤマハ発動機ではこれからもモビリティの可能性を次世代へ広げて行きます。ぜひ、ご期待ください。
- 2026年6月2日








