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55mph - レストア密着レポート FX50再生記 バイクが文化遺産に変わるまで VOL.5「部品の検品、組付け」

1972年登場の原付ロードスポーツ「FX50」がレストアされるまでを追う。

手配していた純正部品および、外注業者による復元作業を終えた部品が花井さんのもとに届く。普通のレストアであれば、集めた部品を組み付けていく工程というのは最高に胸躍る瞬間だろう。だが花井さんのレストアはここからが真骨頂。オリジナルを再現するための地道な検証作業の始まりである。作業を終えた部品の仕上がりだけではなく、純正部品の意匠にも気を払う。現在、純正品として供給されている部品は当時と同じものとは限らないからである。このFX50のような古いモデルの場合、他車種との互換性のある部品については形状や仕上げが微妙に異なる代替品に置き換えられていることも多い。部品注文時に代替品になっていることは把握できるが、実際にオリジナルとどこがどう違うかについては届いた部品を検証してみないと分からないという。
もちろん代替品でも機能に問題はないが、ボルトやナットのルックスまで再現するという厳密なレストアとなるとそのまま使う訳にはいかない。ベース車に元々付いていた部品やパーツリスト、カタログなどを参考にしながらオリジナル部品との違いをこと細かく検証し、もし看過できないほどの違いがあればそれぞれ対応策を考える。今回の記事ではその具体的な例を中心にお届けしよう。

左は現在、純正品として供給されているFX50のドレンボルトだが、右のオリジナルと比べ、フランジのついた頭部の形状や仕上げがまったく違うことがお分かりいただけるだろう。今回のレストアでは古いボルトを洗浄してそのまま使用することになった。

写真のホーンは、左がオリジナル品、右は現在純正品として供給されている物である。どちらも同じメーカーで生産された6V車用100dbのホーンだが、色や大きさ、ステーの形状が異なる。分解すると共鳴板の締付け調整が難しく、音がならなくなってしまう恐れがあるため、現行品の塗装を完全に剥離して復元するのは難しいと判断。元の部品の錆を落とし磨いて使用することに。写真のオリジナル品はすでに花井さんの手によって磨かれたものだ。

イグニッションコイルも現在は代替品となっていた。「形状が新旧で微妙に違っていますが、ここは外側から見えない部分なので機能を優先して新品を使用したいと思っています。ステーは同じものが手配ができないため、元のものを磨いて使うことにします」と花井さん。

アッパーブラケットを締め付けるためのワッシャー、ボルトも現在手に入れられるものはオリジナル品と仕上げが異なる(手前が現行のワッシャー、ボルト)。しかし、ここは目立つ部分なので妥協はできない。もとの部品を研磨、再メッキして使うことになった。

この年代のモデルのサービスマニュアルというのはごく基本的なことしか書いておらず、写真やイラストによる図解もないため、組み立ての参考にすることはほとんどないと花井さん。むしろイラストが記載されたパーツリストの方がオリジナルを知るための良い資料になるのだという。「年代による傾向はあれど、ヤマハ製の50cc縦割りエンジンといえば、おおむね同じような設計がされています。同じ縦割りでも60年代の250cc、YDSシリーズなどは流線形の円盤のような部品がシフトドラムの代わりに使われていたりと独創的で、調整もシビアですが、それと比較すればFX50はかなり簡単ですね」

じつはスロットル、ブレーキに使われるワイヤー類と、スピードメーター、タコメーターで使われるケーブル類では製造業者が異なる。前者は当時と同じものを新品で手配できたが、後者は業者に型が残っていなかったため新たに作ることに。写真左がオリジナル品、右が汎用の熱収縮チューブを使って単品製作されたものだ。メーターのケーブルは外からも見える部品なのでアウターチューブの色まできっちり再現したという。

各部に使用されているゴムパッキンやベアリングなどは基本的にほとんど汎用部品であるため、現在でも比較的同じものを手に入れやすいという。グリップやステップなどの比較的大きなゴム部品についても当時と同様のものが手配できたとのこと。

前回の記事で花井さんがシートカウルごと印刷業者に送って再現してもらうと話していたYAMAHAロゴのステッカーも無事に完成。オリジナルは文字の背景が車体色と同色(通常はクリアが多い)という珍しい仕様だったが、その部分も塗装を終えたシートカウルの色を参考にして再現されている。運良く工房に作業を担当した印刷業者の方がおられたのでお話を伺う。「図面がなかったため各部の寸法はシートカウルに残ったステッカーを直接スキャンして計測しました。印刷は当時と同じシルク印刷。新たに3つの版を起こしています。オリジナルの質感を忠実に再現するためベースも白地ではなく、アルミ地のものを使用しました」。ちなみに今回の作業の難易度は「ライト級」とのこと。ではヘビー級は?と伺うと、レーサーレプリカのカウルに貼ってあるグラフィックのデカールがそれにあたるという。3次元的に伸ばしながら貼るため、その分をあらかじめ計算した寸法で製作しなければならないのだとか。もちろん図面があれば問題はないが、そうでないときは型をとるのも苦労するとのこと。

分解時にクリアランス不足による摺動不良によって軽い焼き付きが見つかったエンジンも見事に復元され、フレームへと搭載された。「この個体のシリンダーはスタンダードよりもわずかにボアが拡大されていましたが、見た目に分かる部分ではないのでそのまま使用することにしました。シリンダー内部は再度ボーリングを行い、約20ミクロン(0.02mm)しかなかったクリアランスを適正値である40ミクロン(0.04mm)以上まで広げてあります。もちろん、焼き付きによって傷が付いていたピストンは新品に交換しました」。クランクは100分の5ミリ未満までバランスを修正。組み付ける際に一方的な力が加わって歪んでしまわないよう神経を使ったという。なおクランクケースの合わせ面にはスリーボンドの「1215」という灰色の液状ガスケットを使用。1215は黒と灰色があるが、古い車両には灰色のものがクランクケースとの相性が良い(目立たない)という。2ストロークエンジンはクランクケース内で一次圧縮を行うため、気密性の保持は重要事項のひとつ。図面には使用する液状ガスケットについての指示もある。

キャブレターは比較的コンディションが良かったので、ボディにブラストをかけ、内部の部品をすべて新品に交換して使用することになった。

コミュニケーションプラザ

「過去・現在・未来」と「コミュニケーション」をキーワードにしたヤマハ発動機の企業ミュージアム。館内には最新モデルのほか、それぞれの時代を彩った市販車やヤマハファン垂涎のワークスレーサーなどが当時のままの姿でずらりと展示されている。3階にはソフトドリンクや軽食を楽しめるカフェスペースが用意されてるので、ツーリングついでに立ち寄るのもおすすめだ。開館日などの詳細は下記リンクより。

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