55mph - Vol.3 スペシャルインタビュー 大隅哲雄(コミュニケーションプラザ 館長)
知られざる歴史車両のレストア。その実態について聞いてみた。
大隅哲雄 横浜の大学を卒業し、81年にヤマハ発動機へ入社。30年間にわたって広報業務を務めたのち、2014年12月よりコミュニケーションプラザの館長に就任。展示フロアを大きくリニューアルしたほか、歴史車両走行見学会やテーマに沿った車両を集めて展示する企画展示、音楽イベント、クリスマスイベントなどを積極的に開催することで来場者を大きく増やした。
無事にレストアが終了した車両は静岡県磐田市にあるヤマハ発動機の企業ミュージアム「コミュニケーションプラザ」で展示される。地上3階建て、延べ床面積約6200m2 。一部吹き抜け構造を採用する立派なショールームにはモーターサイクルだけではなく、四輪車や電動アシスト自転車、ボートなどのマリン製品、発電機など、新旧含めた180台ほどのヤマハ製品が並ぶ。
館長に就任した大隅さんが優先的に取り組んだのは来場者をさらに増やすための仕組みづくりだった。これまではユーザーやマニアの来場が多かったが、そうではない人にもヤマハ・モーターサイクルの魅力を知ってもらうべく大胆な変革を行うことにしたのだ。
「館長になった翌年の15年に1階の展示コーナーをリニューアルしました。製品の展示に加えて、シミュレーターなどの体験型コンテンツも取り入れ、お子さんでも楽しめるような空間にしました。一般の方をより多く呼び込むためには「モノ」だけではなく、「コト」の提案も重要なんですね」
昨年の11月、袋井のテストコースに二輪、四輪あわせて計65台の車両を集めて開催された「歴史車両走行見学会」もそうしたコトの提案の一環である。当時の姿に復元された古の二輪車、四輪車が走行する姿をひと目見ようと予想をはるかに超える3000人以上もの人が来場したという。
「我々が歴史車両の動態保存にこだわる理由として、こうしたイベントを通じてヤマハブランドへの理解を深めてもらうほか、社内の若い技術者に古の製品を知ってもらうという目的があるんです。新しい製品を生み出す際に先人の作ったものを見て何かヒントを得てもらえればと。まさに『温故知新』です」
コミュニケーションプラザの展示は「企業歴史ZONE」「レース展示ZONE」「歴史製品展示ZONE」 に大別されるが、中でもレースZONEは圧巻である。サーキットのスターティンググリッドを模したフロアにグランプリマシンをはじめとする珠玉の名レ―シングマシンが縦に並ぶ臨場感あふれる展示だ。
「レースでの活躍はさまざまな分野に製品を送り出しグローバルな企業へと発展した現在のヤマハの原点ともいえるものです。そうした重要性をひと目で分かってもらえるようデザイナーと相談してこのような展示方法になりました。もともとヤマハ発動機はアクティブな会社で過去の栄光はあまり振り返らない気質があるんです(笑) ただ、私としてはせっかく個性的な歴史や製品をもっているのだから、もっとドラマチックに展示して活性化させたいという思いがあるんですね。最近はカタログをデジタルデータ化してアーカイブにしたほか、レースで優勝したときに獲得するトロフィーなども展示するようにしました」
大隅さんのお話を聞くと、とにかく「お客様第一」の人であることが分かる。どうすればお客様が喜んでくれるか、それがさまざまな発想の源なのだ。昨年はオーナーさんからの要望が多かったYA-1のラバーパーツをコミュニケーションプラザ独自で復刻して販売するという離れ業までやってのけている。
「7月には館内のプラザショップもリニューアル予定なんです。通路から店内が見えやすいようレイアウトを変更し、よりフレンドリーで明るい雰囲気になりますよ」
大隅さんはヤマハ発動機に入社してまだ間もない頃に営業販売を務めた経験もある。ときは80年代バイクブーム。競合各社との販売合戦が熾烈を極めるなか、大隅さんは当時、全国屈指の激戦区だった横浜営業所に配属されたという。週末に開催されていた展示即売会では1日で数十台もの原付バイクを販売したこともあると胸を張った。大隅さんの旺盛なサービス精神、きっと当時から大いに発揮されていたことだろう。
- Vol.2 北川成人(レースマシンレストア担当)
- Vol.1 花井眞一(市販車レストア担当)
- コミュニケーションプラザ 歴史車両走行テスト
- Vol.8 レストア室の設備について
- Vol.7 バックミラーについて
- Vol.6 タイヤについて
- Vol.5 バフ研磨の再現について
- Vol.4 動態保存が記憶の扉を開く
- Vol.3 外装部品のペイントについて
- Vol.2 エンブレムの再現について
- Vol.1 コーションラベルの再現について
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.6 「火入れ」
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.5 「部品の検品、組付け」
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.4 「外観およびステッカーの復元」
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.3 「車両の分解」
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.2 「車両の確認」
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.1 「車両の選定・調達」