55mph - レストア密着レポート FX50再生記 バイクが文化遺産に変わるまで VOL.6「火入れ」
1972年登場の原付ロードスポーツ「FX50」がレストアされるまでを追う。
レストア作業もいよいよクライマックス。すでにFX50は新車のような姿となってピットに鎮座している。組み付け工程で大きなトラブルはなかったが、多少のハプニングはあったと花井さん。
「まずレギュレーターが壊れていたので、ストックしてあったRD50のものを流用して対応しました。あとマフラー内部のサイレンサーが欠品していることも組み立て時に判明しました。まさかと思いましたね(笑) コンディションの良い中古のマフラーを新たに手配し、再メッキを行った元のマフラーにサイレンサー部だけ移植しました」
マフラーに関してはもうひとつ面白い話があると花井さんは棚の上に置かれたエキゾーストパイプを指さした。
「これは新品のままストックされていた当時のパーツなのですが、現在の基準で見るとメッキの“のり”があまり良くないことが分かると思います。大量生産における鍍金設備の諸問題、それとコストの問題もあったのでしょうね。マフラー本体と色味がかなり違うので今回のレストアでは使用することはありませんでしたが、当時の新車がどういうものであったかを知るための貴重な資料だと思います」
「オイルは鉱物性のものと化学合成のものを折半しています。100パーセント化学合成油を使うことはないですね。燃料ポンプとの相性などもあって、やはり古い車両には昔から使われているオイルの方がリスクが少ないですから。またガソリンも20:1の混合燃料を使用しています」
エンジン始動後は灯火類やホーンなど、走行に必要な装備がしっかり機能するかも確認する。花井さんはオイルポンプが稼働しているかについても目視で確認を行っていた。「この火入れの段階でエンジンが掛からなかったことはなかったですか?」と少し意地悪な質問をぶつけてみた。
「燃料、圧縮、点火の三要素さえきっちりクリアしていればまあまず大丈夫です。これでひとまずレストアは完成ですが、『動態保存』という意味ではテスト走行など、これからもまだやることがありますね。今回の難易度?うーん、そうですね『中』ぐらいではないでしょうか」
無事にレストアを終えたFX50は早速この春よりコミュニケーションプラザで展示が行われる。この日、北川さんが録音したエグゾーストノートも施設内の端末を使って聞くことができるという。
花井さんはスロットルをひと捻りして甲高いエグゾーストノートを響かせるとすこし名残惜しそうにエンジンを止めた。
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.5 「部品の検品、組付け」
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.4 「外観およびステッカーの復元」
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.3 「車両の分解」
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.2 「車両の確認」
- バイクが文化遺産に変わるまで Vol.1 「車両の選定・調達」
- コミュニケーションプラザ 歴史車両走行テスト
- Vol.8 レストア室の設備について
- Vol.7 バックミラーについて
- Vol.6 タイヤについて
- Vol.5 バフ研磨の再現について
- Vol.4 動態保存が記憶の扉を開く
- Vol.3 外装部品のペイントについて
- Vol.2 エンブレムの再現について
- Vol.1 コーションラベルの再現について
- Vol.3 大隅哲雄(コミュニケーションプラザ 館長)
- Vol.2 北川成人(レースマシンレストア担当)
- Vol.1 花井眞一(市販車レストア担当)