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55mph - レストア密着レポート FX50再生記 バイクが文化遺産に変わるまで Vol.3 「車両の分解」

1972年登場の原付ロードスポーツ「FX50」がレストアされるまでを追う。

 ベース車を点検した後はいよいよ分解だ。部品点数の少ない50cc 2ストローク単気筒ではあるが、図面とパーツリストを突き合わせながら注意深く作業を進める。各パーツはもちろんのこと、それらを固定するボルトやネジまでもがオリジナルの状態を示す貴重な情報源になりうるからだ。ボルトやネジの亜鉛クロメート(防錆のために施される表面処理)の『色味』まで可能な限り再現するというのが花井さんのレストアなのである。

 「分解作業は洗車をせず、あえて汚れたままの状態で行います。そうするとオイルの付着箇所などからシール損傷やケースの破損といったトラブルを読み取ることができるので。ボルトの固着具合や傷みなどから判断するに、このエンジンはそんなに分解されたことがなかったみたいですね」

レストアのベースとしては、内部にあまり手が入っていない個体の方が適しているという。頻繁にエンジンが分解されているような個体は内部にオリジナルではないパーツが混ざっているリスクも高く、それを検証するのに多大な労力を要することになるからだ。

「以前、どういうわけかクラッチの組み付け方に違和感を感じる車両があったんです。何故だろうと思ってよく確認したらフリクションプレートが一枚多く入っていたなんてことがありました」 このような不自然な整備が行われているエンジンは、大抵ほかの部分にも問題が潜んでおり注意が必要という。

「このFX50は内部の状態も外観の印象とたがわず総じて良かったです。ただし、ピストンにはシリンダーと接触して起こったと思われる「かじり」(摩擦によってついた縦傷)が見られましたね。なぜか四隅にかじりがあったのでシリンダーの内径を計測したところ、約Φ40.270㎜と、スタンダードからボーリングが行われており、ピストンはΦ40.250㎜のオーバーサイズでした。クリアランス不足で摺動(しゅうどう)不良を起こしてしまったのでしょう」

 車体の各部に残された様々なメッセージを読み取り、かつての主の姿をプロファイリングするのが分解作業時のちょっとした楽しみだと花井さんは表情をほころばせる。

「エアクリーナーにエアエレメントが入っていなかったのでちょっとヤンチャな若者がオーナーだったのかなと思いましたね。ただ、前後のタイヤサイズがしっかりと目的意識をもって変更されている一方で、エンジンのピストンサイズがシリンダーに合っていないなど、どうも掴みどころがない。それを含めて若者らしいと言えるのかもしれませんが(笑)」

 トランスミッション内部の状態も良好とのこと。もっとも、花井さんのこれまでの経験ではベース車両のトランスミッションが損傷していた例はほとんど無いという。

「絶版車の場合、トランスミッションのトラブルは致命傷なので、そういう車両が解体されないまま市場に残っている事は希少だと思います」

 ところでこのFX50は最後のオーナーから花井さんのもとに来るまで一体どれぐらいの空白期間があったのだろうか? 分解作業を終えた花井さんは各部の状態から総合的に判断して「約10年」と見立ててくれた。

 分解されたパーツはピットの棚に整然と並べて管理される。いま花井さんの頭を悩ませているのは紛失していたエアエレメントの手配だという。新品部品はすでになく、中古部品を調達できる可能性も限りなく低い。もちろん図面があるので同じものをワンオフで製作することは可能だが、消耗部品という特性上、型まで起こして製作することに若干のためらいがあるという。もしやと思い後継車種のRD50のエアエレメントも確認してみたが、残念ながら異なる形状だったそう。

 次回はこのように分解された各パーツをいかなる方法で復元していくかについてお届けしよう。

コミュニケーションプラザ

「過去・現在・未来」と「コミュニケーション」をキーワードにしたヤマハ発動機の企業ミュージアム。館内には最新モデルのほか、それぞれの時代を彩った市販車やヤマハファン垂涎のワークスレーサーなどが当時のままの姿でずらりと展示されている。3階にはソフトドリンクや軽食を楽しめるカフェスペースが用意されてるので、ツーリングついでに立ち寄るのもおすすめだ。開館日などの詳細は下記リンクより。

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