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55mph - 「レストア・ミニコラム」 Vol.4 動態保存が記憶の扉を開く

コミュニケーションプラザで展示されている歴史車両たち。そのレストアに秘められた「こだわり」を紹介、解説します。

この夏、ヤマハ・コミュニケーションプラザの歴史車両がサーキットで躍動した。
マシンの名はOW74 。そうケニーと平が駆ったあの「Tech21 FZR750」である。

1985年7月28日、午後6時58分―――
あの瞬間を肌で知る者たちにとって、OW74 は動態保存の意義をもっとも強く感じる一台に違いない。ライダーやチーム関係者はもちろん、鈴鹿サーキットに詰めかけた10万人以上の観客の誰もが、フィニッシュライン手前で動かなくなったOW74の姿に悲劇的なものを感じ、「動け!」と願わずにいられなかったのだから。

85年の鈴鹿8耐の主役は「YAMAHA TECH21 レーシングチーム」だった。
ヤマハファクトリーとして初めての8耐本格参戦。そして3年連続でWGP500のチャンピオンを獲得したケニー・ロバーツと全日本を2連覇中だった平 忠彦のペア。この年に登場したばかりのFZ750をベースにした異色のカラーリングのマシン……。大きな話題を集めた同チームは実際にレースが始まってもその実力をいかんなく発揮した。

だが、トップを快走していたはずのOW74は残り32分でマシントラブルによってリタイアする。鈴鹿8耐史上もっともセンセーショナルなシーンとしていまなお語り草となっている。

2017年の鈴鹿8耐久の前夜祭では「YAMAHA TECH21 FZR750 × KING KENNY~1985年の衝撃~」と題したセレモニーが行われた。ケニー・ロバーツがあの日以来、初めてOW74で鈴鹿サーキットを走るというものだ。優勝マシンではなくリタイアしたマシンが主役になる辺りがいかにも鈴鹿8耐らしい。

OW74の車体設計、そしてレストアを行った北川成人氏がマシンを準備し、ロバーツが跨る。何とも言えない淡いパープル色のマシンはたちまちコーナーの向こうへと消えた。
およそ3分後、45度前傾水冷4気筒5バルブの咆哮が夕暮れのグランドスタンドに響き渡る。メインストレートを駆け抜けるケニー・ロバーツとOW74。32年の間に薄らいでしまった伝説がたちまちリアリティを取り戻す。もちろん今度は止まらない。OW74はチェッカーを受け、予定より一周多く走った後、ゆっくりとグランドスタンドへと戻ってきた。

オリジナリティと安全性の妥協点

レーサーのレストアに限らず、その当時のオリジナルの状態に戻す事がコミュニケーションプラザのレストアだが、それを実際に走らせるとなると事情は複雑になる。

軽量化が大きな命題であるレーサーには1gでも軽くする為に高価なマグネシウム合金やチタン合金などが惜しげもなく使用されている。エンジン部品にもマグネシウム合金が多用され、クランクケースだけでなく、冷却水通路やカバー類などもほとんどマグネシウム合金の鋳物が使用されている。マグネシウムは腐食し易い金属なので、冷却水通路に使用する際には防錆処理が施されるが、それでも長期の保管では腐食は避けられない。そのためレストアに際しては冷却水通路に使用するマグネシウム部品に限ってアルミニウム合金に変更するか、再度内部をコーティングするなどして防錆力を高めているという。また、走行終了後は冷却水を完全に抜き取り、冷却水通路に空気を送って完全に乾燥させるのもレストア後の長期保管には欠かせない重要な工程となる。

タイヤは自前で製作が不可能な部品のひとつである。オリジナリティを保つ為には出来るだけ当時と同じ物を使用するのが望ましいが、当時の物をそのまま使用して走るわけにはもちろんいかない。だからといって同じ物をタイヤメーカーに依頼して復刻するというのも多大なコストと労力がかかり現実的ではない。したがってサイズの互換性がある市販車用タイヤの中から最適な物を選択することになるが、幸い現在のスーパースポーツ向けのタイヤはむしろ当時のレーシングタイヤを凌ぐ性能を備えており、路面温度の変化に対しても安定して高いグリップを発揮することができるという。
古いレーサーを安心して走らせる為には様々な苦労があるが、タイヤに関しては現代のタイヤ技術の進化に支えられているところが大きいのである。

コミュニケーションプラザ

「過去・現在・未来」と「コミュニケーション」をキーワードにしたヤマハ発動機の企業ミュージアム。館内には最新モデルのほか、それぞれの時代を彩った市販車やヤマハファン垂涎のワークスレーサーなどが当時のままの姿でずらりと展示されている。3階にはソフトドリンクや軽食を楽しめるカフェスペースが用意されてるので、ツーリングついでに立ち寄るのもおすすめだ。開館日などの詳細は下記リンクより。

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